やりたいことがない人の仕事選び、3つの手順
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やりたいことが見つからないまま仕事を選ぶときは、「好きなこと」ではなく「避けたい条件」と「得意な動き方」の2つを先に書き出すと候補が絞れます。譲れない条件を8つの価値観から特定し、過去の仕事で手応えがあった場面を動詞で言語化し、それでも転職が最適解と限らない場合は今の仕事のやり方を変える選択肢を検討する、という順番で進めます。
9月は下期のスタートで、目標シートやキャリア面談の季節です。空欄の「Will(やりたいこと)」を前に手が止まる人はかなり多い。ここで無理にひねり出した「やりたいこと」は、だいたい半年後に自分でも覚えていません。
正直なところ、やりたいことは探して見つかるものというより、動いた結果あとから名前がつくものです。だから先に決めるべきは「やりたいこと」ではなく、「絶対に避けたい条件」と「自分が力を出せる動き方」の2つ。この2つが決まるだけで、求人票も社内公募も、見るべき欄がはっきりします。
なぜ「やりたいこと」から考えると詰まるのか?
キャリアを整理する枠組みとして、リクルートが社員育成向けに考案した「Will-Can-Mustシート」が広く知られています。Will(やりたいこと)、Can(できること)、Must(求められていること)の3つで自分の位置を見る考え方で、他社にも広まりました。
ポイントは、この3つに順番の決まりがないことです。Willから埋めるのが前提だと思われがちですが、実務ではWillが定まらない人にCanやMustから考え直してもらう使われ方もします。Willが空欄なのは失敗ではなく、単に入口を変えるサインだと考えてください。
もうひとつ知っておくと楽になるのが、MIT名誉教授エドガー・H・シャインのキャリアアンカー理論です。人がキャリアで最も重視し、譲れない欲求・価値観を8つに分類したもので、実務経験を5〜10年積んだ30歳前後で明確になりやすいとされています。裏を返せば、経験の浅いうちに輪郭がぼやけているのはむしろ自然です。
待つだけでは輪郭は出てきません。輪郭が濃くなるのは、判断の材料が増えたときです。だから次の手順では、これまでの仕事から材料を先に取り出します。
手順1:避けたい条件を先に書き出す
紙でもメモアプリでもいいので、「これがある職場は無理だった」を思い出せるだけ書き出します。過去の仕事、部署異動、繁忙期、通勤、評価のされ方。抽象的な言葉ではなく、実際に起きた場面で書くのがコツです。
- 日曜の夜に一番重かった業務は何だったか
- 「これだけは代わってほしい」と思った作業は何か
- 過去に辞めたい/異動したいと思った直接のきっかけは何か
- 逆に、忙しくても平気だった時期の条件は何か
- 給与が同じでも絶対に戻りたくない働き方は何か
10個前後書けたら、キャリアアンカーの8分類(専門・職能別コンピタンス/全般管理コンピタンス/自律と独立/保障・安定/起業家的創造性/奉仕・社会貢献/純粋な挑戦/生活様式)と照らします。分類名に当てはめるのが目的ではなく、自分の「無理だった」がどの軸の話なのかを見るためです。
たとえば「毎週の飛び込み訪問がつらかった」は仕事内容の好き嫌いに見えますが、実際には予定を自分で組めないことが原因なら「自律と独立」の話です。原因が軸まで降りると、職種を変えなくても解決する場合があるとわかります。
「避けたい」を求人票の見る欄に翻訳する
書き出した条件は、そのままでは求人検索に使えません。次のように、募集要項のどこを見るかまで落とします。
| 避けたい条件 | 求人票・面接で確認する欄 |
|---|---|
| 予定を自分で組めない | 1日の流れ、訪問件数のノルマ、フレックス/裁量労働の有無 |
| 成果の判断基準があいまい | 評価制度、目標設定の頻度、等級の公開範囲 |
| 常に複数案件の同時進行 | 1人あたりの担当件数、繁忙期の残業実績 |
| 人の入れ替わりが激しい | 配属部署の平均勤続年数、直近1年の増員理由 |
この表を面接前に開いておくと、逆質問で何を聞けばいいかで迷いません。
手順2:得意な「動き方」を動詞で言語化する
Canを「できるスキル」で数えると、資格や担当業務の一覧になってしまい、他の人と差がつきません。ここで拾いたいのは、どんな動き方をしているときに手応えがあったかです。名詞(経理、営業事務)ではなく動詞で書きます。
- 場面を3つ思い出すこの1〜2年で「うまくやれた」と感じた仕事を3つ挙げます。規模は小さくてかまいません。後輩の質問に答えた、資料の構成を組み直した、程度で十分です。
- 自分が何をしたかを動詞にする「バラバラの情報を1枚に整理した」「揉めている二者の間に立って言い分を訳した」「手順が決まっていない作業に順番をつけた」のように、動作で書きます。
- 共通点を1文にまとめる3つを並べて重なる部分を探します。「情報を整理して人に渡す動きが得意」のように、1文になれば十分です。
- その動きが多い仕事を逆算する職種名から探すのではなく、その動きの出番が多い仕事を探します。整理して渡す動きなら、企画職だけでなく、社内の業務改善、教育担当、カスタマーサクセスなども候補に入ります。
この作業のいいところは、下期の目標設定シートにもそのまま使えることです。「〜になりたい」より「〜する動きを増やしたい」のほうが、上司も具体的な仕事を振りやすくなります。
部署をまたいで同じ動きが出てくるなら、それは環境ではなく本人の持ち味です。転職しても持っていけるので、職務経歴書の自己PRの軸にもなります。
手順3:転職せずに変えられないか一度確認する
避けたい条件と得意な動き方が見えると、そのまま転職活動に向かいたくなります。その前に一度確認したいのが、今の仕事のやり方を変えるだけで解決しないかという点です。
ジョブ・クラフティングという考え方があります。Amy WrzesniewskiとJane E. Duttonが2001年に提唱したもので、従業員が自分にとって個人的に意義のあるやり方で職務設計を再定義・再創造するプロセスと定義されています。国内では高尾義明氏(東京都立大学)が研究の第一人者として知られています。
構成は3つの次元です。①業務(タスク)のクラフティング、②関係性のクラフティング、③仕事の捉え方(認知)のクラフティング。やりたいことを外に探しに行く前に、今の持ち場でこの3つを動かせないか見るという順番になります。
- 業務:手順が固定化している作業を1つ選び、進め方の変更を上長に提案する
- 業務:得意な動きが出る仕事を、下期の目標に1つ入れてもらう
- 関係性:他部署の担当者と直接やり取りする窓口を1つ引き受ける
- 関係性:後輩の相談役を明示的に担当にしてもらう
- 捉え方:自分の作業が誰の何に効いているかを、実際の相手に確認する
下期の始まりは、この提案が最も通りやすい時期です。目標設定の面談は、上司の側も来期の役割分担を考えているタイミングだからです。
ジョブ・クラフティングは万能ではありません。避けたい条件が労働時間や人間関係など、自分の裁量で動かせない構造に根ざしている場合、やり方を工夫しても消耗が続くだけです。手順1で挙げた条件が制度や組織風土そのものだったなら、外に出る検討を後回しにしないでください。健康や生活が削られている状態での「まず社内で工夫」は、判断を遅らせるだけになります。
10月・1月入社を狙うなら、いつ動けばいいのか?
外を見る選択をした場合、時間軸だけ先に押さえておくと焦らずに済みます。応募から入社までは、書類選考・面接で1〜2か月、内定後の退職交渉と引き継ぎで1〜2か月をみるのが一般的な組み立てです。
つまり9月時点で動き始めると、現実的な着地は年明け前後になります。10月入社は在職中なら準備期間がほぼ残っていないため、狙うなら1月入社を基準に逆算するほうが無理がありません。下期の目標設定を済ませてから情報収集を始めても、十分間に合う時間軸です。
急ぐ必要があるのは、健康や生活が明確に削られている場合だけです。それ以外なら、手順1と手順2を紙に書く数十分を先にとったほうが、結果的に早く決まります。判断の材料がないまま求人を眺める時間のほうが、はるかに長くかかるからです。
下期の面談までにやることを1枚にすると?
ここまでの流れを、実際に手を動かす順番で並べます。所要時間は合計1時間ほどです。
- 避けたい条件を10個書く(20分)過去に無理だった場面を具体的に。抽象語にしない。
- 8分類に照らして軸を見る(10分)職種の問題か、働き方の問題かを切り分ける。
- うまくやれた場面3つを動詞化する(20分)共通点を1文にまとめる。
- 目標シートに1行入れる(10分)「〜する動きを増やす」の形で、上司に振ってもらえる形にする。
- それでも合わないなら時間軸を引く1月入社を基準に、情報収集の開始時期を決める。
やりたいことは、この5つを終えたあとに残るものです。先に見つけようとしなくて大丈夫です。
よくある質問
やりたいことがないまま転職しても大丈夫ですか?
やりたいことが明確でなくても、避けたい条件と得意な動き方がはっきりしていれば応募先は絞れます。面接では「やりたいこと」を熱く語るより、これまでの仕事で成果が出た動き方と、その動きが応募先でどう活きるかを具体的に説明するほうが伝わります。ただし避けたい条件を言語化しないまま転職すると、同じ理由で再び行き詰まりやすくなります。
Will-Can-MustのWillが埋まらないときはどうすればいいですか?
Will-Can-Mustは必ずWillから埋める決まりのある枠組みではありません。もともとリクルートが社員育成向けに考案したシートが起源とされ、実務ではWillが定まらない人にCan(できること)やMust(求められていること)から考え直してもらう使い方もされています。Canを「できるスキル」ではなく「手応えのあった動き方」で書き出すと埋めやすくなります。
キャリアアンカーは何歳ごろに固まるものですか?
エドガー・H・シャインのキャリアアンカー理論では、実務経験を5〜10年積んだ30歳前後で明確になりやすいとされています。また転職・育児・病気などの大きなライフイベントで優先順位が変わることもあるため、一度決めたら固定というものではありません。若いうちに輪郭がぼやけているのは自然な状態です。
転職せずに仕事の内容を変えることはできますか?
ジョブ・クラフティングという考え方があります。Amy WrzesniewskiとJane E. Duttonが2001年に提唱したもので、従業員が自分にとって意義のあるやり方で職務設計を再定義・再創造するプロセスと定義され、業務のクラフティング・関係性のクラフティング・仕事の捉え方のクラフティングの3次元で構成されます。担当業務の進め方や関わる相手を少しずつ変える形で実践できますが、労働時間や組織風土など個人の裁量で動かせない問題には効果が限られます。
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