ポータブルスキル、厚労省が示す9つの要素と磨き方
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ポータブルスキルとは、業種や職種が変わっても持ち出せる汎用的な能力のことで、厚生労働省は「仕事のし方」5要素(現状の把握・課題の設定・計画の立案・課題の遂行・状況への対応)と「人との関わり方」4要素(社内対応・社外対応・上司対応・部下マネジメント)の計9つに整理しています。この9要素は日々の業務プロセスとほぼ一対一で対応するため、転職活動を始めなくても、担当している仕事の振り返り方を変えるだけで診断と強化ができます。
社内でしか通じない知識と、どこでも通じる力。この二つは仕事の中で混ざったまま積み上がっていくので、自分でも区別がつきにくくなります。「担当システムの仕様に詳しい」は前者、「揉めている相手から要件を引き出せる」は後者ですが、日々の業務では両方まとめて「仕事ができる」と評価されてしまうためです。
この区別を言葉にしてくれるのが、厚生労働省が提唱するポータブルスキルという考え方です。業種や職種が変わっても持ち出せる汎用的な能力を指し、9つの要素に分解されています。まずはこの9つに自分の仕事を当てはめるところから始めます。
ポータブルスキルとは? 社内スキルとの違い
ポータブルスキルは、直訳すると「持ち運べる技能」です。厚生労働省が提唱している概念で、業種や職種が変わっても通用する汎用的な能力を指します。同省は「ポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)」として診断の仕組みも公表しており、キャリアコンサルタント向けの活用教材だけでなく、本人が自己診断する用途にも使える設計になっています。
対になるのが、その会社でしか価値を持たない知識です。社内の申請フローに詳しい、独自ツールの操作に慣れている、あの部長の好みを把握している——これらは今の職場では強力に効きますが、環境が変わると一度リセットされます。
両者を分ける問いはひとつで、「その力は、会社名と製品名を消しても説明できるか」です。「基幹システムの仕様に詳しい」は消すと何も残りませんが、「仕様が固まっていない状態で関係者から情報を集め、決めるべき論点を絞れる」は残ります。後者がポータブルスキルです。
ポータブルスキル9要素の一覧
厚生労働省の分類は、大きく「仕事のし方」5要素と「人との関わり方」4要素に分かれます。前者は仕事の進め方そのもの、後者は誰に対してどう振る舞うかの軸です。
| 分類 | 要素 | 中身 |
|---|---|---|
| 仕事のし方 | 現状の把握 | 情報を集め、いま何が起きているかを分析する |
| 課題の設定 | 集めた情報から、解くべき問いを決める | |
| 計画の立案 | 課題を解く順序・期限・担当に落とす | |
| 課題の遂行 | 立てた計画を実際に動かし切る | |
| 状況への対応 | 想定外が起きたときに軌道を修正する | |
| 人との関わり方 | 社内対応 | 他部署・関係者と調整して物事を進める |
| 社外対応 | 顧客・取引先と交渉し、関係を保つ | |
| 上司対応 | 報告・相談を通じて判断を引き出す | |
| 部下マネジメント | 後輩や部下を指導し、成果を出させる |
厚生労働省の公表データをもとに作成
この並びを見て気づくことがあります。「仕事のし方」5要素は、現状把握→課題設定→計画→遂行→状況対応という、ひとつの仕事が進む順番そのものです。つまり特別な機会を作らなくても、いま抱えている案件が9要素すべての練習台になっています。
自分の弱い要素をどう見つける?
自己評価で「計画立案が苦手かも」と考えても、根拠がないので当たりません。代わりに、直近で終わった仕事を1件だけ選び、5工程に切り分けて時間と手戻りを書き出します。詰まった工程が、そのまま弱い要素です。
- 案件をひとつ選ぶ先月〜今月に完了した、自分が主担当だった仕事を1件。大きさは問いません。
- 5工程に割る現状の把握/課題の設定/計画の立案/課題の遂行/状況への対応に、実際の作業を振り分けます。
- 各工程に費やした日数を書く正確でなくて構いません。体感で「情報集めに1週間、計画は30分」といった粒度で十分です。
- 手戻りが発生した地点に印を付けるやり直し・差し戻し・仕様変更が起きた工程が、弱点の候補です。
- 人との関わり4軸で相手を書くその案件で社内・社外・上司・部下の誰とやりとりしたか。登場しなかった相手は、経験が薄い領域です。
この作業でよくある結果が、「計画に30分しかかけていないのに、遂行で2週間の手戻りが出ている」というパターンです。遂行力が低いのではなく、課題設定と計画立案の手抜きが遂行工程に請求書として回ってきている状態で、鍛えるべきは前工程のほうになります。
日常業務のどこで磨くのか? 要素別の具体策
弱点がわかったら、次はその要素に効く行動を、いまの仕事に一つだけ差し込みます。転職活動も異動も必要ありません。
仕事のし方(5要素)
- 現状の把握/依頼を受けたら着手前に、関係者3人に「今どうなっていますか」と聞く時間を15分だけ取る
- 課題の設定/作業を始める前に「この仕事で解くのは◯◯である」と一文で書き、依頼者に見せて認識を合わせる
- 計画の立案/工程を3つ以上に割り、それぞれに日付を置く。割れないなら、まだ内容を理解できていない合図
- 課題の遂行/進捗を週1回、聞かれる前に自分から出す。report待ちの状態を作らない
- 状況への対応/計画が崩れたとき、修正案を2つ用意してから相談に行く
人との関わり方(4要素)
この4要素は、報告の的確さや意見の伝え方といった情報伝達力、そして指導の経験を通じて磨かれます。ここで効くのは回数より型です。同じ相手に同じ形式で伝え続けると、相手の反応から改善点が読み取れます。
上司対応であれば、報告の冒頭を固定するだけで変わります。「結論/理由/お願いしたい判断」の3点を先に言い切る形にすると、上司は判断だけすればよくなり、やりとりの往復が減ります。社外対応では、打ち合わせ後24時間以内に「決まったこと・宿題・期限」を箇条書きで送る習慣が、そのまま信頼の実績になります。
部下がいない場合はどうするか
9要素のうち部下マネジメントだけは、役職がないと機会そのものが発生しません。ただし評価されるのは肩書ではなく、他人の成果に責任を持った経験です。後輩へのOJT担当、インターンのメンター、他部署メンバーを含むタスクの取りまとめ——これらは規模が小さくても同じ構造を持っています。手を挙げられる場面があれば、そこが入口になります。
厚生労働省の見える化ツールは使うべき?
厚生労働省は「ポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)」を公表しています。開発は令和元年度・2年度および令和3年度に実施されたもので、診断結果を可視化する形式です。支援者向けだけでなく、本人が自己診断する用途にも使えます。
使い方としては、前章の振り返りを済ませてから当てるのが向いています。先に自分で工程を切り分けておくと、診断結果が「そう思っていた」「ここは意外だった」に分かれ、後者だけを深掘りできるためです。何もない状態で受けると、結果を眺めて終わりになりがちです。
9要素は職務の進め方を横断的に見る枠組みなので、専門技能そのものの深さは測れません。設計力・言語能力・デザイン・法務知識といった領域は、この分類の外側にあります。専門職として評価を高めたい段階の人は、ポータブルスキルを土台の点検に使い、勝負どころは専門領域に置くほうが合理的です。
また、9要素すべてを平均的に上げようとすると、どれも中途半端になります。弱点は「手戻りが出ている1つ」に絞り、強い要素はそのまま伸ばしてください。
職務経歴書や面接でどう言語化する?
ポータブルスキルは、そのまま書いても伝わりません。「課題設定力があります」は、読む側から見れば自己申告だからです。要素名ではなく、要素が働いた場面を書きます。
- NG/「計画立案が得意です」
- OK/「仕様が固まらないまま走っていた案件で、工程を4つに割って各期限を設定し、遅延の原因を最初の要件確認に特定しました」
- NG/「調整力があります」
- OK/「利害の異なる2部署の要望を並べ、共通して外せない条件から先に合意を取る進め方に変えました」
ポイントは、会社名と製品名を消しても意味が通る文になっているかを確認することです。消した瞬間に何も残らない文は、社内スキルの説明になっています。この確認は、記事の最初に挙げた問いと同じものです。
外で通用するかどうかは、外に出てみないとわからない——そう思われがちですが、判断材料は今の仕事の中にあります。次に一つ仕事が終わったら、5工程に割って手戻りの場所を見る。それだけで、自分の持ち出せる力の輪郭が一段はっきりします。
よくある質問
ポータブルスキルとは何ですか?
ポータブルスキルとは、厚生労働省が提唱する「業種や職種が変わっても持ち出せる汎用的な能力」を指す概念です。仕事の進め方に関する5要素(現状の把握・課題の設定・計画の立案・課題の遂行・状況への対応)と、人との関わり方に関する4要素(社内対応・社外対応・上司対応・部下マネジメント)の計9つに分類されます。
ポータブルスキルと社内でしか通じないスキルはどう見分けますか?
その能力の説明から会社名・製品名・独自ツール名を消しても意味が通るかで見分けられます。「基幹システムの仕様に詳しい」は固有名を消すと何も残らないため社内限定の知識ですが、「仕様が固まっていない状態で関係者から情報を集め、論点を絞れる」は固有名なしで成立するためポータブルスキルです。
部下がいない場合、部下マネジメントの要素はどう補えばよいですか?
役職の有無ではなく、他人の成果に責任を持った経験があるかどうかが評価されます。後輩のOJT担当、インターンのメンター、他部署メンバーを含むタスクの取りまとめなどは、規模が小さくても指導と進捗管理という同じ構造を持つため、部下マネジメントの経験として言語化できます。
厚生労働省のポータブルスキル見える化ツールは誰でも使えますか?
厚生労働省が公表している「ポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)」は、キャリアコンサルタント等の支援者向け活用教材が公開されている一方、本人が自己診断する用途にも使える設計になっています。開発は令和元年度・2年度および令和3年度に実施されました。
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