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退職の引き止め、3パターン別の切り返し方

2026年7月16日|いろは堂キャリア編集部
デスクでノートPCの前に座り両手で顔を覆う男性1人、屋内オフィス

画像出典: 写真: CIPHR Connect(CC BY 2.0 / Wikimedia Commons)

この記事の要点
退職の引き止めは「待遇改善の提案」「プロジェクト完了まで残ってほしい」「返事の先延ばし・面談の繰り返し」の3パターンに分かれ、それぞれ返し方が違います。共通するのは、退職理由を詳しく話さず「一身上の都合です」に留め、相談ではなく報告として同じ言葉を冷静に繰り返すことです。期間の定めのない雇用契約なら、民法627条1項により退職の意思表示から2週間で契約は終了します。
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「給料上げるから」って言われて、返す言葉がなくなってしまいました…

退職を伝えたあとの引き止めは、多くの場合その場で急に始まります。用意していたのは「辞めます」の一言だけで、そこから先の会話まで想定していた人は少ないはずです。言葉に詰まったのは決意が弱いからではなく、単に返事を準備していなかったからです。

正直なところ、引き止めのパターンはそれほど多くありません。会社側が引き止める最大の理由は、退職によって業務が回らなくなることへの懸念と、採用・育成にかけたコストを失うことです。つまり会社の事情から出てくる話なので、言われる内容はある程度決まっています。先に知っておけば、その場で考えなくて済みます。

引き止めにはどんなパターンがある?

各社の退職ノウハウで共通して挙げられている引き止めは、大きく3つです。

よくある3つの引き止め
  • 待遇改善の提案 — 昇給・昇格・業務量の調整を持ちかける
  • 期限つきの残留要求 — 進行中のプロジェクトが終わるまで、後任が決まるまで
  • 慰留と引き伸ばし — 返事を先延ばしにする、上長を交代させて何度も面談を重ねる

この3つは、狙っているものが違います。1つ目はあなたの退職理由を「解決」しようとするもの、2つ目は退職日をずらそうとするもの、3つ目は時間をかけて意思を弱らせようとするものです。だから返し方も変わります。

そして、どのパターンにも先に効く共通の原則が1つあります。退職理由を具体的に話しすぎないことです。理由を詳しく伝えると、上司はその理由を解決する提案を出してきます。「給料が」と言えば昇給の話に、「業務量が」と言えば分担見直しの話になります。「一身上の都合です」「キャリアの方向性を見つめ直した結果です」程度に留めておくと、相手は解決策を出しようがありません。

「給料を上げる」と言われたらどう返す?

🤔
条件がよくなるなら、残ったほうが得なのかな…

待遇改善の提案は、最も判断が難しい引き止めです。実際に条件がよくなるなら検討する価値があるように見えるからです。ここで確認したいことが2つあります。

待遇改善を提示されたら確認すること
  • なぜ、辞めると言うまで改善されなかったのか
  • 口約束か、辞令・契約変更として正式に残るものか

1つ目は、これから先の見通しに直結します。辞意を伝えて初めて動く仕組みなら、次に条件を変えたいとき、また同じことを言わなければならなくなります。2つ目は単純に、書面にならない約束は実行されないことがあるためです。金額・時期・役職を紙かメールで確認できるかを聞いてみると、話がどのくらい具体的かがすぐ分かります。

その場で使える返し方

言い回しの例
  • 「ありがたいお話ですが、待遇が理由ではないので気持ちは変わりません」
  • 「評価いただいていることは嬉しく思います。ただ、決めたうえでご報告しています」
  • 「一度持ち帰って検討します」とは言わず、その場で「気持ちは変わりません」と返す

3つ目が地味に効きます。持ち帰ると答えると、次の面談が設定され、引き止めが続く前提ができてしまいます。答えが決まっているなら、その場で穏やかに、しかしはっきり返しておくほうが結果的に早く終わります。

「このプロジェクトが終わるまで」はどこまで受けるべき?

期限つきの残留要求は、一見すると誠実な譲歩に見えます。ただし注意したいのは、その期限が動くことです。プロジェクトの完了日は延びますし、後任の採用がいつ決まるかは誰にも約束できません。判断の基準は「期限が自分でコントロールできる日付かどうか」です。

「9月末まで」は自分で管理できる期限です。「後任が決まるまで」「案件が落ち着くまで」は相手の都合で動く期限で、実質的に期限がないのと同じです。受けるなら前者だけにします。

言い回しの例
  • 「◯月◯日を最終出社日として、それまでに引き継ぎを完了させます」
  • 「引き継ぎ資料は今週中に着手します。残す形を一緒に決めさせてください」
  • 「後任が決まるまでという形は難しいので、日付でお約束させてください」

ここで大事なのは、断ると同時に引き継ぎへの誠実さを見せることです。引き止めの根っこにあるのは業務が回らなくなる不安なので、その不安に具体的な形で答えるほど、話は短く終わります。感情で押し返すより、引き継ぎ計画を1枚出すほうが早いことが多いです。

面談が何度も繰り返されるときは?

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部長との面談が終わったら、今度は本部長と話すことになって…

返事を先延ばしにされる、上長を入れ替えて何度も面談が設定される。これは意思を弱らせることを狙った引き伸ばしです。相手を変えて同じ質問を繰り返されると、こちらは毎回説明し直すことになり、消耗します。

対処はシンプルで、毎回まったく同じ言葉を返すことです。説明を足すほど新しい論点が生まれ、面談が続く理由になります。

  1. 同じ一文を用意する「一身上の都合により、◯月◯日をもって退職いたします。意思は変わりません」を決め台詞として固定します。
  2. 相手が変わっても変えない新しい相手には背景を説明したくなりますが、同じ一文で通します。
  3. 記録に残す形へ移す口頭で平行線が続くなら、退職届を書面で提出し、提出日を控えておきます。
  4. 引き継ぎの話に切り替える「そのうえで引き継ぎのご相談をさせてください」と、議題を前に進めます。

面談の場では、日程だけは自分から提案しておくと消耗が減ります。「来週いっぱいで引き継ぎ計画をお持ちします」と先に出せば、次の面談の議題が慰留から実務に移ります。

そもそも会社は退職を拒否できる?

ここは知っておくと気持ちが軽くなる部分です。期間の定めのない雇用契約、つまり一般的な正社員の場合、民法627条1項により退職の意思表示から2週間が経過すれば労働契約は終了します。会社の承諾は必要ありません。

就業規則に「退職は1ヶ月前まで」「2ヶ月以上前に申し出ること」と書かれていることはよくありますが、この場合も民法627条1項の2週間が優先されるという見解が有力です(ただし、この2週間の定めが当事者間の取り決めより常に優先される決まり=強行法規といえるかどうかについては、法律家の間でも解釈に争いがあり、完全に決着した論点ではありません)。実務上は就業規則の期間に沿って進めるほうが円満ですが、「規則があるから辞められない」わけではない、という点は押さえておいてよいはずです。

背景には、憲法22条1項の職業選択の自由があります。使用者が退職を拒否したり、損害賠償を持ち出して脅すような強引な引き止めは、違法性が疑われます。損害賠償についても、労働者本人に請求できない場合は身元保証人にも請求できません。退職希望者への一方的な損害賠償請求はできない、と考えて差し支えありません。

法律を持ち出す前に考えたいこと

ここまでの内容は、あくまで最後の砦です。最初の面談でいきなり民法の条文を出すと、話が対立の構図になり、引き継ぎもぎくしゃくします。まずは通常の手順で伝え、退職届の受理を拒まれる・脅すような発言が出るといった段階になってから使うほうが、結果的に穏やかに終わります。

引き止めに揺らいだとき、何を基準に決める?

揺らぐこと自体は問題ではありません。困るのは、揺らいだまま「その場の空気」で決めてしまうことです。判断の軸を先に決めておくと、面談中に流されにくくなります。

確認すること残る判断に近い辞める判断に近い
提示された条件金額・時期・役職が具体的で、書面で残る「考えておく」「前向きに検討する」で終わる
辞めたい理由との関係理由の中心が今回の提案で解消される提案されたのは、理由と別のこと
これまでの経緯過去にも要望を伝え、実際に改善された辞意を伝えて初めて動いた
期限の性質自分で管理できる日付になっている「落ち着くまで」など相手都合で動く

特に効くのは2行目です。「辞めたい理由の中心が、その提案で解消されるか」という一点だけでも、かなり整理できます。人間関係が理由なのに給与の話をされているなら、条件がよくなっても状況は変わりません。逆に、報酬への納得のなさが本当の理由で、それが正式な形で解消されるなら、残る選択も十分あり得ます。

言い出しにくいのは自分だけ?

引き止めに揺らぐのも、そもそも切り出せないのも、珍しいことではありません。退職代行サービスの利用者調査では、利用理由の最多が「退職を引き止められた/引き止められそうだから」で40.7%、次いで「自分から退職を言い出せる環境ではないから」が32.4%でした。前職への不満で最も多かったのは「直属上司との関係」で約7割にのぼります。

退職代行を通じて退職した人の割合も、2021年16.3%、2022年19.5%、2023年19.9%、2024年(1〜6月)23.2%と上昇しています。離職者全体で見ると約20人に1人(5.1%)が利用し、その約半数は20〜30代です。マイナビキャリアリサーチLabの調査では、利用理由として「退職を言い出しにくかったから」が50%、「すぐに退職したいから」が44%、「人間関係が悪かったから」が32%、「パワハラ・セクハラを受けていたから」が31%と挙がっています。

パーソル総合研究所マイナビキャリアリサーチLabの公表データをもとに作成

冷静に繰り返す方法が向かないケースもあります

ここまで書いた「冷静に同じ言葉を繰り返す」やり方は、話し合いが成立する相手が前提です。退職届の受理を拒まれる、脅すような発言が出る、ハラスメントを受けているといった状況では、自力での交渉にこだわる必要はありません。労働問題を扱う法律相談窓口や、退職代行サービスの利用も現実的な選択肢です。心身を削ってまで正面から交渉することが正解とは限りません。

面談前に準備しておく3つのこと

最後に、次の面談までに手を動かせることをまとめます。時間はかかりません。

  1. 決め台詞を1文つくる「一身上の都合により、◯月◯日をもって退職いたします」を紙に書いて手元に置きます。相手が誰でもこれを返します。
  2. 引き継ぎ計画を1枚にする担当業務・関係者・残っているタスク・想定引き継ぎ期間を書き出します。これがあると話が実務に移ります。
  3. 退職希望日を日付で決める「◯月末」ではなく具体的な日付で。最終出社日と有給消化の希望も添えておくと、交渉の余地を減らせます。
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言うことを決めておけば、その場で考えなくていいんですね

引き止めの場で強くなる必要はありません。用意した一文を、静かに、同じトーンで繰り返せれば十分です。決意を証明する場ではなく、日程と引き継ぎを決める場だと考えると、ずいぶん気が楽になります。

よくある質問

退職を伝えたのに会社が認めてくれない場合はどうなりますか?

期間の定めのない雇用契約(一般的な正社員)では、民法627条1項により退職の意思表示から2週間が経過すれば労働契約は終了します。会社の承諾は必要ありません。退職届の受理を拒まれる、退職を理由に脅すような発言が出るといった強引な引き止めは違法性が疑われるため、労働問題を扱う法律相談窓口へ相談する選択肢もあります。

就業規則に「退職は1ヶ月前まで」とあります。従う必要がありますか?

就業規則にそうした定めがあっても、民法627条1項の2週間が優先されるという見解が有力です(この2週間が当事者間の取り決めより常に優先される決まりかどうかには、法律家の間でも解釈上の争いがあります)。ただし実務では引き継ぎの都合もあるため、就業規則の期間に沿って進めるほうが円満に終わりやすく、一般には退職希望日の1〜3ヶ月前に伝えるのが目安とされています。

引き止めで昇給を提示されました。残るべきか判断する基準はありますか?

確認したいのは2点です。ひとつは「なぜ辞めると言うまで改善されなかったのか」、もうひとつは「口約束か、辞令や契約変更として正式に残るものか」です。加えて、辞めたい理由の中心がその提案で解消されるかを見ます。人間関係が理由なのに給与の提案をされている場合、条件が変わっても状況そのものは変わりません。

引き止められないためには、退職理由をどう伝えればいいですか?

理由を具体的に話しすぎないことが有効です。上司はその理由を解決することで引き止めようとするため、「一身上の都合です」「キャリアの方向性を見つめ直した結果です」程度に留めます。また、相談ではなく決定した報告として伝え、引き継ぎには誠実に対応する姿勢を示しながら「意思は変わりません」と冷静に繰り返すのが基本です。

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