労働条件通知書、2026年10月から追加される1項目とは
画像出典: ぱくたそ
パート・有期雇用で働く人は、正社員との待遇の違いについて会社に説明を求めることができ、会社には説明する義務があります(パートタイム・有期雇用労働法14条2項)。説明を求めたことを理由に解雇や雇止めなどの不利益な扱いをすることは同法14条3項で禁止されています。2026年10月1日からは、この「説明を求められる」こと自体を労働条件通知書に書いて渡すことが会社の義務になります。
待遇の違いについて、会社に説明を求めるのは正当な権利です。しかも会社の側には、求められたら説明する法律上の義務があります。「聞いたら印象が悪くなるのでは」という不安は、報復的な扱いを禁じる条文があることを知っていれば少し軽くなります。
とはいえ、権利があると知っても「じゃあ誰に、いつ、どう切り出すのか」が分からないと動けません。正直なところ、ここが一番の壁です。手元の書類のどこを見て、どんな文面で送るかまで、順番に渡します。
まず何を見る? 労働条件通知書の確認ポイント
最初にやることは、直近の契約更新でもらった労働条件通知書(雇用契約書と一体になっている会社もあります)を手元に出すことです。会社と話す前に、自分の条件が紙の上でどう書かれているかを把握しておくと、聞く内容が具体的になります。
パート・有期雇用で働く人に対しては、法律で必ず書いて渡すべき項目が決まっています。次の枠の項目が書かれているか、上から順に指で追ってみてください。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 相談窓口(担当者の氏名・部署など)
- 契約更新の上限の有無とその内容(2024年4月から明示が義務)
- 待遇差の説明を求めることができる旨(2026年10月1日から追加)
上の4項目は以前から義務づけられているものです。「相談窓口」に具体的な部署名や担当者名が書かれていれば、そこが最初に声をかける相手になります。空欄だったり「人事部」とだけ書かれている場合は、直属の上司に「待遇について人事の誰に聞けばいいか」を尋ねるところから始めます。
2026年10月1日から何が変わる?
2026年10月1日にパートタイム・有期雇用労働法の施行規則が改正され、明示すべき項目が1つ増えます。「正社員との待遇の違いの内容や理由について、会社に説明を求めることができる」ということ自体を、書面で知らせる義務です。厚生労働省のモデル労働条件通知書にも、この記載欄が追加されました。
つまり読者の側から見ると、10月以降に契約を更新して受け取る通知書には、この一文が載っているはずということになります。載っていない古い様式のままだった場合、会社側の対応が追いついていない可能性があります。責めるためではなく、「新しい様式ではこの欄が増えていると聞いたのですが」と切り出す入口として使えます。
10月1日以降に新しく雇い入れる(契約更新を含む)人から新様式での明示が必要、という実務解説が複数あります。既存の契約者全員に一律で再交付する義務までは定められていません。ただし説明を求める権利そのものは2020年から施行済みなので、通知書の書き換えを待つ必要はまったくありません。今日の時点でも使える権利です。なお、契約更新時にどこまで新様式対応が必要かは事業所の運用によって差があり得るため、細かい判断は社会保険労務士などに確認するのが確実です。
会社にはどこまで説明する義務がある?
会社が取るべき説明の方法は決まっています。資料を使いながら口頭で説明するか、説明すべき事項をすべて記載した分かりやすい資料を交付するかのどちらかです。廊下ですれ違いざまに「うちはそういう制度だから」と言われて終わり、というのは想定された形ではありません。
説明の対象になるのは、正社員との待遇の違いの内容と理由、そして待遇を決めるにあたって考慮した事項です。また、複数回求められた場合はその都度応じる必要があります。去年聞いたから今年はもう聞けない、ということはありません。
聞いたことで不利益な扱いを受けたら
パートタイム・有期雇用労働法14条3項は、待遇差の説明を求めたことを理由とする不利益取扱いを禁止しています。解雇・雇止め・不利な配置転換などが、ここで言う不利益な扱いにあたります。質問したこと自体を理由に立場が悪くなることは、法律が明確に禁じている行為です。
また、労働条件の明示義務に違反して行政指導を受けても改善しない会社は、同法30条により労働者1人につき10万円以下の過料(前科の付く刑事罰の「罰金」とは別で、行政上の義務違反に科されるお金の制裁)の対象になります。会社にとっても、曖昧なまま放置するほうがリスクの大きい領域だということです。
2026年10月からの判断基準で、どの手当が焦点になる?
2026年10月1日には、同一労働同一賃金ガイドラインも同時に改正されます。待遇差が不合理かどうかの判断基準が、裁判例を踏まえて具体化されました。話を持っていくときに焦点を絞りやすい項目が見えてくるので、ここは押さえておく価値があります。
| 待遇の項目 | 対象となる労働者 | 求められる扱い |
|---|---|---|
| 家族手当 | 継続勤務が見込まれる労働者 | 正社員と同一の支給 |
| 住宅手当 | 配置転換のある労働者 | 正社員と同一の支給 |
| 夏季冬季休暇 | パート・有期雇用労働者 | 正社員と同一の付与 |
厚生労働省の公表データをもとに作成
上の3つは、改正で具体化された例として挙げられているものです。自分に当てはまる条件があるなら、そこを名指しで尋ねるほうが話が早く進みます。たとえば長く働き続ける前提で契約を更新してきた人なら、家族手当が支給されていない理由を聞くのは筋の通った問いかけです。
あわせて会社側には、職務内容・成果・能力を公正に評価して昇給などに反映すること、正社員転換制度の内容や実績をウェブで公表すること(努力目標)も求められます。正社員への転換を考えている人は、その制度の内容と実績を尋ねるのも同じ流れでできます。
実際にどう切り出す? 手順とメール文例
ここからが本題です。口頭だけだと「言った・聞いていない」になりやすいので、書面かメールで残すのが基本の形になります。
- タイミングを決める契約更新の面談の前後が最も自然です。更新の話が出る1〜2週間前に送っておくと、会社側も資料を準備する時間が取れます。
- 宛先を決める労働条件通知書の「相談窓口」に書かれた部署・担当者へ。記載がなければ直属の上司に、人事の誰に聞けばよいかを確認します。
- 聞きたい待遇を2〜3個に絞る「全部教えてください」より、家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇のように項目を名指しするほうが具体的な回答が返ってきます。
- メールで依頼を送る下の文例をそのまま使えます。根拠となる条文名を1行添えておくと、担当者が社内で確認しやすくなります。
- 回答を記録する口頭で説明を受けた場合は、その日のうちに内容と日付をメモに残すか、「本日うかがった内容の確認です」とメールで送り返しておきます。
そのまま使えるメール文例
- ◯◯部 ◯◯様
- お世話になっております。◯◯部の◯◯です。
- 次回の契約更新にあたり、正社員の方との待遇の違いについて、内容と理由をご説明いただきたくご連絡いたしました。パートタイム・有期雇用労働法14条2項に基づくお願いです。
- とくにうかがいたいのは、家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇の3点です。それぞれの支給(付与)の有無と、違いがある場合はその理由、待遇を決めるにあたって考慮された事項について教えていただけますでしょうか。
- ご都合のよい日時に面談の時間をいただくか、資料をご用意いただく形でも構いません。お忙しいところ恐れ入りますが、よろしくお願いいたします。
角を立てずに済ませたいなら、「不満がある」ではなく「今後の働き方を考えるために知っておきたい」という枠組みで伝えるのが有効です。実際に、長く働き続けるかどうかを判断するための情報として聞くわけですから、嘘のない言い方でもあります。
条文名を1行添えておく意味は、社内の動きやすさにあります。受け取った担当者が社内で確認を取るとき、根拠が明記されていれば「どの義務の話か」がすぐ伝わり、対応が早くなります。相手を追い詰める道具ではなく、社内で動いてもらうための手がかりとして添えるものです。
説明に納得できないときはどこへ相談する?
会社が説明に応じてくれない、または説明を受けたものの理由に納得できない場合は、行政の窓口を使えます。全国47都道府県の労働局に設置されている「雇用環境・均等部(室)」が、パートタイム・有期雇用労働法に関する相談を受け付けています。
相談できるのは、不合理な待遇差そのものについてと、説明を求めたことを理由とする不利益な取扱いについての両方です。さらに、都道府県労働局長による助言・指導・勧告、または紛争調整委員会(弁護士などの専門家)による調停という無料の紛争解決制度も用意されています。裁判を起こす前の段階で使える仕組みです。
待遇差の説明を求めることは、待遇そのものを変える手続きではありません。説明を受けた結果、「職務の内容も責任の範囲も正社員とは違うから、この差には理由がある」という回答になることも十分あり得ます。それでも、理由がはっきりすれば「この条件で続けるか、別の働き方を探すか」を自分で判断できるようになります。逆に、すでに雇止めや契約打ち切りの話が具体的に進んでいる状況なら、説明を求めるより先に労働局や労働組合へ相談するほうが順番として適切です。
今日できることは何?
大きく動かなくても構いません。まずは労働条件通知書を探して、上の確認項目に照らして目を通すだけで十分です。相談窓口の欄に誰の名前が書かれているかを確かめておけば、次の更新の話が出たときにすぐ動けます。
聞いてみて、説明に納得できればそれでいいし、納得できなければ外部の窓口という次の手があります。どちらにしても、曖昧なまま不安を抱え続けるよりは、知ってから決めるほうが気持ちが楽になるはずです。
よくある質問
パートや有期雇用でも、正社員との待遇差の説明を会社に求められますか?
求められます。パートタイム・有期雇用労働法14条2項により、パート・有期雇用労働者から求めがあったときは、事業主は正社員との待遇の相違の内容と理由、待遇を決定するにあたって考慮した事項を説明しなければなりません。2020年4月(中小企業は2021年4月)に全面施行済みの既存ルールです。
待遇差の説明を求めたことで、雇止めなど不利な扱いを受けることはありませんか?
パートタイム・有期雇用労働法14条3項で、待遇差の説明を求めたことを理由とする不利益取扱いは禁止されています。解雇・雇止め・不利な配置転換などが該当します。実際にそうした扱いを受けた場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。
2026年10月1日から労働条件通知書は何が変わりますか?
パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れる際に明示すべき事項に、「正社員との待遇の相違の内容および理由等について事業主に説明を求めることができる旨」が加わります。従来の昇給の有無・退職手当の有無・賞与の有無・相談窓口に、この1項目が追加される形です。厚生労働省のモデル労働条件通知書にも記載欄が追加されました。
会社が待遇差の説明を口頭で一言だけで済ませた場合、義務を果たしたことになりますか?
会社に求められる説明の方法は、資料を活用して口頭で説明するか、説明すべき事項をすべて記載した分かりやすい資料を交付するかのいずれかです。また複数回求められた場合はその都度応じる必要があります。労働条件の明示義務違反で行政指導を受けても改善しない場合は、労働者1人につき10万円以下の過料(刑事罰の罰金とは別の、行政上の義務違反に科されるお金の制裁)の対象となります。
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