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USB PD充電のしくみ、同じ充電器で速度が変わる理由

2026年10月8日|いろは堂テック編集部
木製テーブルの上に置かれた白いモバイルバッテリーと2本の充電ケーブル(モノクロ写真)

画像出典: 写真: Santeri Viinamäki(CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons)

この記事の要点
USB PDは、充電器と機器が接続時に通信して電圧・電流の組み合わせを決める規格です。そのため最大ワット数は3者(充電器・ケーブル・機器)のうち一番低いものに合わせられ、100W超のEPRは3点すべてがEPR対応でないと100Wで止まります。買い替え時に見るのは、充電器の最大出力・ケーブルの対応電流(3A/5A)・機器側の最大受電ワット数の3つです。
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65Wの充電器を買ったのに、前と同じくらいしか速くならない……

充電器の箱に書かれたワット数は、その充電器が出せる上限でしかありません。実際に流れる電力は、つないだ瞬間に充電器と機器が話し合って決まります。ケーブルもその話し合いに参加しています。

正直なところ、ここを知らないまま買い替えると「高いほうを買ったのに変わらない」が起きます。逆にしくみが分かれば、手持ちの3点のどこが足を引っ張っているかを自分で見分けられます。

USB PDとは? 充電器と機器が「交渉」する規格

USB PD(USB Power Delivery)は、USB-IF(USB Implementers Forum=USB規格を策定する業界団体)が決めている充電規格です。特徴は、電力を一方的に流し込むのではなく、つないだ瞬間に充電器と機器が通信して、お互いが対応できる電圧・電流の組み合わせを選ぶという点にあります。この手続きをネゴシエーションと呼びます。

イメージとしては、水道の蛇口と受け側のバケツです。蛇口が太くても、バケツの口が小さければ入る量は決まります。しかもUSB PDでは、つなぐたびに蛇口側が「どこまで出していいか」をバケツに聞いてから出す、という手順を踏んでいます。

だからこそ、充電器・ケーブル・機器の3者のうち1つでも対応が低いものがあると、そこが上限になります。高出力の充電器を買っても速くならない原因は、ほぼここにあります。

SPRとEPRの違いは? 100Wが境目になる理由

USB PDの電力範囲は、大きく2つに分かれています。PD 3.0以前からあるSPR(Standard Power Range/標準電力範囲)は最大100Wで、使う電圧は5V・9V・15V・20Vです。PD 3.1で新しく加わったEPR(Extended Power Range/拡張電力範囲)は最大240Wで、20V・28V・36V・48Vまで扱えます。

区分電圧最大電流最大出力
SPR5V3A15W
SPR9V3A27W
SPR15V3A45W
SPR20V5A100W
EPR28V5A140W
EPR36V5A180W
EPR48V5A240W

Diodes Incorporatedの公表データをもとに作成

上の表で見てほしいのは、電流は5Aが上限で、それ以上の電力は電圧を上げることで作っているという点です。240Wは48V×5A。電流を増やすとケーブルが熱を持つため、電圧側を引き上げる設計になっています。

EPRはUSB-IFが2021年5月に発表し、PD 3.1仕様として策定されました。その後のUSB Power Delivery Specification Revision 3.2はIEC 62680-1-2として国際標準にもなっています。2026年時点でEPR対応をうたう製品は市場で一般化し、2025年後半以降は主流になってきている、と各社が説明しています。

EPR対応の充電器を買っても意味がない場合があります

100Wを超える電力が成立するのは、充電器・ケーブル・機器のすべてがEPR対応のときだけです。1つでもSPR止まりの部品が混ざっていれば、その組み合わせでの上限は100Wになります。手持ちのケーブルを使い回す前提なら、充電器だけEPR対応にしても100Wから先には進みません。

同じ「PD対応」でも速度が変わるのはなぜ?

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どっちもPD対応と書いてあるのに、充電時間が全然違うんだけど

PDには、固定の電圧を選ぶだけでなく電圧を細かく動かす機能があります。SPRの範囲(100W以下)で使われるのがPPS(Programmable Power Supply)で、電圧を20mV単位の細かいステップで調整できます。電池の状態に合わせて電圧を上下させ、発熱を抑えながら充電するための機能で、SamsungやGoogle Pixelなどが採用しています。

EPR側(100W超)には、PPSに加えてAVS(Adjustable Voltage Supply)があり、15V〜48Vの範囲を100mVステップで調整できます。

ここが「同じPD対応なのに違う」の正体です。スマホ側がPPSを前提に速く充電する設計なら、PPS非対応の充電器につないだときは固定電圧での充電にとどまります。箱の「PD対応」という表記だけでは、PPSがあるかどうかは分かりません。

さらにAndroid端末は、PD・PPSに加えてQualcommのQuick Charge(QC)など複数の規格が混在しています。QCは独自規格ですが、QC4.0以降はUSB PDおよびPPSと互換性を持つよう設計されています。QC5は2023年発表で、2025年にQC5+へ進化し最大140W対応とされますが、これは二次情報に基づく内容で、対応機種まで断定できる状態ではありません。結果として、同じ「PD対応」表記でも機種と充電器の組み合わせで実際の速度が変わります。

ケーブルで速度が決まるのはどういう理由?

見落とされやすいのがケーブルです。USB Type-Cケーブルは、流せる電流で2種類に分かれます。

ケーブルの2つのクラス
  • 3Aケーブル:20Vで最大60Wまで。eMarker(ケーブルの能力を機器に伝えるICチップ)の搭載義務はない
  • 5A対応ケーブル:20Vで最大100W(SPRの上限)まで出せるが、eMarkerの搭載が必須

充電器が3Aを超える電流を出す場合、5A対応・eMarker搭載のケーブルでなければその電流は流れません。ケーブルはeMarkerを通じて「自分は何Aまで通せる」と申告し、充電器はその範囲内でしか出力しないためです。黙って発熱するのではなく、仕様として上限で止まる作りになっています。

240W(EPR)を使う場合は、48V×5A対応・EPR対応のeMarker搭載ケーブルが必要です。USB-IFは60W対応と240W対応を区別する表示を定めており、どちらのクラスのケーブルかはパッケージや製品仕様の表記から確認できます。

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じゃあ付属のケーブルを使い回してたのが原因かも

スマホに付属していた短いケーブルは3A品であることが多く、60Wが上限になります。ノートPCを65Wや100Wで充電したいのに速度が出ない場合、まず疑うのはこのクラス差です。

自分の充電器・ケーブル・端末はどこを見れば確認できる?

しくみが分かったら、手元の3点を確認する作業が残ります。見るべき場所は決まっています。

  1. 充電器(またはモバイルバッテリー)の出力表記を読む本体の刻印かパッケージに「5V/3A、9V/3A、15V/3A、20V/5A」のように電圧と電流の組み合わせが並んでいます。20V/5A(100W)があるか、PPS表記があるかを見ます。EPRを使うなら28V以上の表記があるかどうかです。
  2. ケーブルの対応電流を確認するパッケージや製品仕様の表記で、60W対応か240W対応かを確認します。表記がないケーブルは3A(最大60W)前提で考えるのが安全です。
  3. 端末側の最大受電ワット数を調べるスマホ・ノートPCのメーカー仕様ページに「最大◯W充電対応」と書かれています。端末が30W止まりなら、100Wの充電器をつないでも30Wで充電されます。
  4. Androidの表示で実際の状態を見る充電中に通知やロック画面に「急速充電中」「高速充電中」などの表示が出る機種があります。表示の文言と有無は機種によって異なります。

3点のうち一番低い値が、その組み合わせでの実際の上限です。買い替えるときは、充電器の最大出力・ケーブルの対応電流(3A/5A)とEPR対応表記・機器側の最大受電ワット数の3つを突き合わせて、どこがボトルネックになっているかを先に特定するのが近道です。

240W対応をそろえても速くならないケース

スマホの受電上限は多くの機種で100Wよりはるかに低い値です。EPR対応をフルにそろえて効果が出るのは、高出力を受け取れるノートPCなど機器側に余裕がある場合に限られます。スマホ中心の使い方なら、PPS対応と5A対応ケーブルまでで足ります。

買い替えの判断はどう組み立てる?

優先順位は、いま困っている場面から決めると迷いません。スマホの充電が遅いと感じるなら、確認するのはPPS対応の有無とケーブルのクラスです。ノートPCを1本のケーブルでまとめたいなら、100W(20V/5A)以上の充電器と5A・eMarker搭載ケーブルの組み合わせが基準になります。

240W対応を選ぶ意味があるのは、機器側がそれを受け取れるときだけです。先に端末の仕様ページで最大受電ワット数を見てから、充電器とケーブルを選ぶ。この順番にすると、使われない余剰スペックに払わずに済みます。

買う前に突き合わせる3項目
  • 充電器:最大出力ワット数と電圧・電流の組み合わせ(PPS/28V以上の表記)
  • ケーブル:3Aか5Aか、EPR(240W)対応表記があるか
  • 機器:メーカー仕様に書かれた最大受電ワット数と対応規格

よくある質問

USB PDの最大ワット数はどこで決まるのですか?

充電器・ケーブル・機器の3者のうち、対応が最も低いものが上限になります。USB PDは接続時に充電器と機器が通信して電圧・電流の組み合わせを決め、ケーブルもeMarkerで通せる電流を申告するため、1つでも下位スペックがあればそこがボトルネックになります。

SPRとEPRの違いは何ですか?

SPR(Standard Power Range)はPD 3.0以前からある範囲で最大100W、電圧は5V/9V/15V/20Vです。EPR(Extended Power Range)はPD 3.1で新設された範囲で最大240W、電圧は20V/28V/36V/48Vまで対応します。100W超を使うには充電器・ケーブル・機器のすべてがEPR対応である必要があります。

USB Type-Cケーブルの3Aと5Aはどう違いますか?

3Aケーブルは20Vで最大60Wまでで、eMarkerチップの搭載義務はありません。5A対応ケーブルは20Vで最大100Wまで出せますが、eMarkerの搭載が必須です。充電器の出力電流が3Aを超える場合は5A・eMarker搭載ケーブルが必要になります。

PPSとAVSはどのような機能ですか?

PPS(Programmable Power Supply)はSPR範囲(100W以下)で電圧を20mV単位で調整する機能で、発熱を抑えて電池を保護する目的でSamsungやGoogle Pixelなどが採用しています。AVSはEPR(100W超)で使える機能で、15V〜48Vの範囲を100mVステップで調整できます。

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