ROEとは?「8%」目安の由来
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ROE(自己資本利益率)は「当期純利益 ÷ 自己資本 × 100」で計算し、株主が出したお金をどれだけ効率よく利益に変えたかを示します。よく言われる「8%」は2014年公表の経済産業省プロジェクト報告書(通称・伊藤レポート)が第1ステップの目標として掲げた水準が由来です。ただしROEは借入を増やしても自社株買いをしても上がるため、ROA(総資産利益率)と併せて見ないと「本業の稼ぐ力」か「かさ上げ」かを区別できません。
証券会社の銘柄検索でも、四季報の解説でも、ROEという指標は当たり前のように出てきます。そして決まって「8%が目安」とセットで語られます。
正直なところ、この数字だけを覚えて条件に入れている人は多いはずです。ただ、ROEは借入を増やすだけでも、自社株買いをするだけでも上がってしまう指標です。由来と仕組みを知らないまま8%というフィルターを使うと、財務リスクの高い会社を「効率の良い会社」と読み違えることがあります。
ここでは、ROEの計算式の意味、8%という数字の出どころ、そしてROEだけでは判断できない構造を、仮の数値例で順に見ていきます。
ROEとは何を測る指標?
ROE(Return On Equity・自己資本利益率)は、当期純利益 ÷ 自己資本(株主資本)× 100 で計算します。株主が出したお金を元手に、1年でどれだけの利益を生んだかを示す割合です。
たとえば自己資本100億円の会社が当期純利益8億円を出せば、ROEは8%。株主から預かった100に対して8を稼いだ、という読み方になります。
似た指標にROA(Return On Assets・総資産利益率)があります。こちらは当期純利益 ÷ 総資産で計算し、分母が「株主のお金」ではなく「借入を含めた事業全体の資産」になります。この分母の違いが、後で出てくる「ROEだけでは判断できない」という話の核心になります。
- ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100 …株主のお金の効率
- ROA = 当期純利益 ÷ 総資産 × 100 …事業全体の資産の効率
「ROE8%」という目安はどこから来たのか?
2014年8月に経済産業省のプロジェクトが公表した最終報告書、通称「伊藤レポート」が出どころです。正式には「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~プロジェクト」の報告書で、座長を務めた一橋大学の伊藤邦雄氏の名から通称が付いています。
このレポートは、日本企業のROEが欧米企業に比べておよそ20年にわたり低い水準(おおむね半分程度)で推移してきたことを問題として取り上げました。そのうえで、企業は資本コスト(株主から資金を預かるうえで最低限期待されるリターン)を上回るROEを達成すべきだと提言しています。
具体的な水準として示されたのが、第1ステップとしてROE8%以上、第2ステップとして10%超という段階目標でした。この8%が実務や投資家の間で繰り返し参照され、いつのまにか「目安」として定着したという流れです。
8%はあくまで2014年時点の政策提言で示された目標水準であり、これを下回ると問題がある企業だと決まっているわけではありません。業種によって必要な自己資本の厚みは大きく違うため、装置産業と軽資産のサービス業を同じ8%で並べて優劣を断じるのは無理があります。目安は「調べ始める入口」であって、結論ではありません。
ROE8%の2社は同じ会社?(分解して確認)
ROEは、次の3つの掛け算に分解できます。財務分析ではデュポン分解と呼ばれる整理のしかたです。
ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ(総資産 ÷ 自己資本)
言葉にすると、「売上のうちどれだけ利益が残るか」「資産をどれだけ売上に回せたか」「自己資本の何倍の資産を動かしているか」の3つです。前の2つを掛けたものがROAにあたり、そこに3つ目の財務レバレッジを掛けるとROEになります。
ここが重要なところで、3つ目の財務レバレッジは、借入を増やすだけでも大きくなります。本業の稼ぐ力が1ミリも変わらなくても、ROEという数字だけは上がるということです。
仮の2社で比べてみる
実在の企業ではなく、構造を見るために作った例です。
| A社 | B社 | |
|---|---|---|
| 当期純利益 | 8億円 | 8億円 |
| 自己資本 | 100億円 | 100億円 |
| 総資産 | 200億円 | 500億円 |
| 自己資本比率 | 50% | 20% |
| ROE | 8.0% | 8.0% |
| ROA | 4.0% | 1.6% |
| 財務レバレッジ | 2.0倍 | 5.0倍 |
上の表では、ROEはどちらも8.0%でぴったり同じです。スクリーニングで「ROE8%以上」と条件を入れれば、2社とも同じ顔をして並びます。
ところがROAはA社4.0%に対しB社1.6%と、2倍以上の差があります。B社は自己資本100億円に対して500億円の資産を動かしており、その差の400億円は借入などの他人資本です。B社のROE8%は、本業の効率ではなく借入の大きさによって作られていると読めます。
借入自体が悪いわけではありません。資金を借りて設備や店舗を増やし、それ以上の利益を生むなら合理的な経営判断です。ただ、レバレッジが効いている会社は業績が悪化したときの振れ幅も大きくなります。金利が上がる局面では利息負担も重くなります。ROEの数字だけを見ていると、この違いがまったく見えません。
利益が増えなくてもROEが上がるケースとは?
もうひとつ、分母側で起きる変化があります。自社株買いや自己株式の消却で自己資本が減ると、当期純利益が同じでもROEは上がります。
先ほどのA社で試算してみます。当期純利益8億円のまま、自己資本を100億円から80億円へ圧縮したとします。
- 変化前8億円 ÷ 100億円 × 100 = ROE 8.0%
- 自己資本を80億円へ圧縮分子(利益)は8億円のまま変わらない
- 変化後8億円 ÷ 80億円 × 100 = ROE 10.0%
利益は1円も増えていないのに、ROEは8%から10%へ上がりました。株主に資本を返す行為そのものは資本効率の改善として評価される面もありますが、「ROEが上がった=稼ぐ力が伸びた」と読むのは誤りです。ROEが動いたときは、分子(利益)が増えたのか、分母(自己資本)が減ったのかを必ず確かめるのが実務的な見方になります。
ROEを実際にどう確認すればいい?
数字を追う手順は難しくありません。上場企業なら決算短信・有価証券報告書、あるいは証券会社の銘柄情報ページで確認できます。
- ROEの水準を見る直近期の数値と、過去5年程度の推移を並べる。単年の高低より、どう動いてきたかを見る。
- ROAも並べるROEが高くROAが低ければ、財務レバレッジ主導の可能性を疑う。両方が揃って高い会社は本業の効率が良いと読める。
- 自己資本比率を確認する自己資本 ÷ 総資産。ここが低いほどレバレッジが効いている。
- 分子と分母のどちらが動いたか確かめるROEが上がった年は、当期純利益の増減と自己資本の増減を両方見る。自社株買いの実施があったかも決算資料で確認する。
- 同業種の中で比べる必要な設備投資の規模が違えば適正なROE水準も違う。異業種の会社と8%基準で横並びにしない。
- ROAも一緒に確認したか
- 自己資本比率は極端に低くないか
- ROE上昇の理由は利益増か、自己資本の圧縮か
- 同業他社と比べているか(異業種と比べていないか)
- 単年ではなく数年の推移で見ているか
ROEは「この株を買うべきか」を決める指標ではありません。株価がまったく式に入っていないため、割高か割安かは判断できません。また、赤字企業ではROEがマイナスになり比較の意味を失いますし、自己資本が極端に小さい会社では数値が異常に大きく出ることもあります。ROEは会社の資本効率を測る物差しのひとつであり、単独で投資判断の結論を出す道具ではないと考えてください。
結局、8%という数字とどう付き合えばいい?
8%は「日本企業全体の資本効率を引き上げよう」という文脈で2014年に示された政策的な目標であって、個別企業の合否ラインとして設計された数字ではありません。
実務的には、スクリーニングの入口として使ったうえで、そこからROA・自己資本比率・利益の推移という3点セットで中身を確認するのが現実的な使い方です。8%を超えているかどうかを見た瞬間に判断を終えるのではなく、そこから調べ始める。この順番を守るだけで、見せかけの高ROEに引っかかる確率はかなり下がります。
指標はひとつずつ意味を理解して増やしていけば十分です。ROEの構造がわかったなら、次はROAや自己資本比率を同じように分解して読めるようになるところまで進めてみてください。
※ 本記事は財務指標の教育・解説を目的としたもので、特定の銘柄や投資手法を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。株式投資に元本保証はなく、損失が生じる可能性があります。記載の数値例はすべて仮の設定であり、実在企業の財務データではありません。
よくある質問
ROEの計算式は?
ROE(自己資本利益率)は「当期純利益 ÷ 自己資本(株主資本)× 100」で計算します。単位は%で、株主が拠出した資本をどれだけ効率よく利益に変えたかを示します。たとえば自己資本100億円で当期純利益8億円なら、ROEは8%です。
ROE8%という目安はどこから来た数字ですか?
2014年8月に経済産業省のプロジェクトが公表した最終報告書、通称「伊藤レポート」が出どころです。日本企業のROEが欧米に比べて長期間低い水準にあることを問題として、第1ステップでROE8%以上、第2ステップで10%超を目標とすることを提言しました。法律や会計ルールで定められた基準ではありません。
ROEとROAの違いは何ですか?
分母が違います。ROEは当期純利益を自己資本で割るため株主のお金の効率を示し、ROAは当期純利益を総資産で割るため借入を含めた事業全体の資産の効率を示します。ROEが高くROAが低い企業は、本業の収益力ではなく借入によるレバレッジでROEが押し上げられている可能性があります。
ROEが高い会社なら買っていいのですか?
ROEだけで投資判断はできません。ROEの式には株価が含まれていないため割高・割安は判断できず、また借入を増やしたり自社株買いで自己資本を減らしたりするだけでも数値は上昇します。ROA・自己資本比率・利益の推移を併せて確認し、同業種の中で比較する必要があります。投資判断は自己責任で行ってください。
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