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記憶術3つの使い分け、大人の暗記が変わる理由

2026年6月19日|いろは堂まなび編集部
ノートに書き込みながら学ぶ社会人

画像出典: 写真: Shixart1985(CC BY 2.0 / Wikimedia Commons)

この記事の要点
大人の暗記は、覚える対象によって技法を変えると効率が上がります。バラバラの単語はイメージ連結、順番のあるリストは場所法、数字や記号の羅列はチャンク化が向きます。そのうえで24時間以内に10分、1週間以内に5分、1か月以内に2〜4分の復習を入れると、覚えたものが残ります。
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学生の頃はもっと覚えられた気がするんです。同じ参考書を3周しても、翌週にはきれいに抜けていて…

覚えたはずのものが残らないとき、原因は「頭が悪くなった」ことではなく、覚え方が対象と噛み合っていないことのほうが多いです。単語も、手順のリストも、数字の羅列も、全部まとめて「繰り返し読む」で処理しようとすると、どれもうまくいきません。

記憶術と呼ばれる技法にはいくつか種類があって、それぞれ得意な対象が違います。イメージ連結、場所法、チャンク化——この3つを「何を覚えるか」で選び分けるだけで、同じ時間の勉強でも残る量が変わります。まずは、加齢と記憶の関係を正確なところから確認しておきましょう。

年をとると本当に覚えられなくなるのか?

まず前提を合わせます。記憶を司る脳の部位である海馬(新しい出来事を一時的に保持し、長期記憶へ渡す役割を持つ部分)は、30歳前後から少しずつ萎縮が始まり、50歳を過ぎるとその減少が加速するとされています。つまり「覚えが悪くなった」という実感自体は、気のせいではありません。

ただし話はそこで終わりません。近年の研究では、海馬は何歳になっても神経細胞が新しく生まれる(神経新生)ことが分かってきています。理化学研究所は2024年5月、高齢マウス(19カ月齢)の海馬歯状回への介入によって、6カ月齢並みにニューロン新生が回復したと報告しています。脳の老化は、そのまま「もう伸びない」を意味するわけではないということです。

もうひとつ知っておきたいのは、大人には子どもにない武器があることです。仕事や生活で積み上げた知識が多いほど、新しい情報を「すでに知っているもの」に結びつけやすくなります。記憶術はまさにこの結びつけを人工的に作る技術なので、知識のストックが多い大人ほど効きやすい面があります。

🤔
記憶術っていっても、結局は語呂合わせみたいなものですよね?

語呂合わせも記憶術の一種ですが、それは数ある技法のうちのひとつにすぎません。技法ごとに向き不向きがはっきりしているので、ここからは3つを順に見ていきます。

イメージ連結とは?ばらばらの用語を覚えるとき

イメージ連結は、覚えたい語同士を一枚の絵にしてつなぐ方法です。単語と意味、用語と定義のように、順番はないけれど対応関係を覚えたいものに向きます。英単語、専門用語、法律用語、人名と顔——このあたりはすべてこの技法の守備範囲です。

やり方は単純で、対応させたい2つを「ありえない絵」にします。たとえば英単語の bloom(咲く)なら、「ブルーム」という音から箒(ほうき)を思い浮かべ、その箒の先から花が咲きこぼれている場面を作ります。ポイントは3つです。

イメージが効くための条件
  • 動いていること(静止画より、何かが起きている場面)
  • ありえないこと(普通の光景は思い出す手がかりにならない)
  • 自分が関わっていること(自分が箒を持っている、など)

この技法の弱点は、覚える語が数十を超えると絵の作成そのものが重くなることです。1語あたり10〜20秒でイメージを作れないなら、その語は無理に絵にせず、素直に反復に回したほうが早く終わります。イメージ連結は「どうしても覚えられない20語」に集中投下する使い方が現実的です。

場所法とは?順番のあるものを丸ごと覚えるとき

場所法は、よく知っている場所の道順に沿って、覚えたいものを順番に置いていく方法です。古代ギリシャに起源を持つ古い技法ですが、その効果は近年の脳科学研究で実証されています。

ドイツの研究者Dresler氏らが2017年に発表した研究では、記憶の訓練を受けていない被験者が場所法を6週間トレーニングしたところ、72語のリストの再生成績が向上し、さらに脳の機能的結合パターンが記憶力競技者のそれに近づいたことが示されています。訓練で後天的に変わる、というのがこの研究の面白いところです。

背景にあるのは、脳が持つ空間把握のしくみです。John O'Keefe氏が1971年に発見した「場所細胞」、Moser夫妻が2005年に発見した「グリッド細胞」は、脳内の内部GPSとも呼ばれる空間記憶の仕組みで、2014年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。場所法は、この生まれつき強い空間の記憶に、覚えたい情報を相乗りさせる技法だと考えると腑に落ちます。

自宅で作る手順

  1. 場所を選ぶ目をつぶっても歩ける場所を選びます。自宅がいちばん確実で、通学路や職場のフロアでもかまいません。
  2. 置き場を10か所決める玄関→靴箱→廊下→洗面台→…と、必ず同じ順路になるように10か所を固定します。順路が毎回変わると使い物になりません。
  3. 1か所に1つ置く覚えたい項目をイメージにして、各場所に置きます。ここでイメージ連結の作り方(動く・ありえない・自分が関わる)をそのまま使います。
  4. 歩いて回収する目を閉じて玄関から順に歩き、置いたものを回収します。詰まった場所があれば、その場所のイメージだけ作り直します。

場所法が向くのは、順番そのものに意味がある内容です。試験の解答手順、プレゼンの話す順、簿記の仕訳の流れ、法律の条文の並び。逆に、順番がどうでもいい知識に場所法を使うと、置き場所を作る手間だけがかさみます。

なお場所法は暗記の道具にとどまらず、認知機能低下の遅延、うつ病やPTSDの治療、外傷性脳損傷からの回復支援にも応用されています。日本でも認知症やうつ病への対策として注目されている技法です。

チャンク化とは?数字や記号の羅列を覚えるとき

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数字の並びだけはどうしても頭に入りません。イメージにもしづらくて…

数字や記号のように意味を持たない列は、イメージ化のコストが高すぎて連結法とは相性がよくありません。ここで使うのがチャンク化——情報を意味のある塊にまとめ直す方法です。

心理学者のジョージ・ミラーが1956年に提唱した法則によれば、人が一度に記憶・処理できる情報の単位(チャンク)はおよそ7個、少ない人で5個、多い人で9個程度とされます(7±2)。重要なのは、この7±2が文字や数字そのものの数ではなく、塊の数だという点です。

よく挙げられる例が「CIAUSAIBM」という9文字の羅列です。1文字ずつでは9個で限界を超えますが、「CIA・USA・IBM」と3つの意味単位に切れば3チャンクとなり、あっさり覚えられます。電話番号や郵便番号がハイフンで区切られているのも、この仕組みを実生活に落としたものです。

覚える対象向く技法
英単語・専門用語・人名イメージ連結
手順・条文・話す順番場所法
数字・記号・コードチャンク化
大量の反復知識(毎日触れるもの)技法より間隔をあけた復習

上の表のとおり、4つ目だけ性質が違います。技法でねじ込むより、触れる回数を設計したほうが早い領域があるということです。次はその復習の設計を見ていきます。

覚えた直後に何をすれば残るのか?

どの技法を使っても、放置すれば抜けます。技法は「入れる」ためのもので、「残す」のは復習の仕事だからです。

復習タイミングの目安としてよく使われるのが、次の組み立てです。学習後24時間以内に10分間の復習をすると記憶は元の水準近くまで回復し、次は1週間以内に5分、その次は1か月以内に2〜4分の復習で維持できるとされています。回を追うごとに必要な時間が短くなるのがポイントで、初回の10分をサボると、後段のコストが跳ね上がります。

そして、一度にまとめて詰め込むより、間隔をあけて繰り返すほうが長期記憶に残りやすいことが知られています(間隔反復効果)。同じ合計60分なら、1日で60分やるより、10分・5分・3分と分けて残りを新しい範囲に回すほうが得です。

今日から動かす最小セット
  • 覚えられない語を20個だけ抜き出す(全部やろうとしない)
  • そのうち順番があるものは場所法、ないものはイメージ連結に振り分ける
  • 数字・コードはハイフンで3〜4桁ずつに切る
  • 翌日に10分、来週に5分の復習をカレンダーへ先に入れておく

可処分時間の差をどう埋めるか

学生と社会人では、確保できる時間の形が違います。学生はまとまった時間を取りやすいぶん、場所法の置き場を作る初期投資(10か所ぶんで30分程度)を先に済ませてしまうと、以降が楽になります。社会人は10分単位の細切れになりやすいので、復習の回だけは細切れ時間に固定し、新しい記憶術の仕込みは休日にまとめると破綻しにくいです。

費用の面では、この3つの技法はいずれも道具を必要としません。紙とペン、あるいは既存の単語帳アプリで足ります。追加投資が要るとすれば、間隔反復を自動でスケジュールしてくれるアプリの有料版で月数百円程度からという水準です。まず無料で3週間試して、続いた人だけ課金を検討すれば十分です。

向いていないケースもあります

記憶術は万能ではありません。理解が必要な内容——数学の証明、プログラミングの設計思想、業務の判断基準など——を、意味を飛ばして暗記だけで乗り切ろうとすると、応用が効かず結局やり直しになります。この場合は先に理解へ時間を使い、記憶術は「理解した後の用語や手順」に限定して使うのが正解です。

また、イメージを思い浮かべることが極端に苦手な人もいます。その場合、場所法やイメージ連結の効果は出にくいので、無理をせずチャンク化と間隔反復の2本立てに絞ってください。技法を増やすこと自体が目的化すると、勉強時間が技法の練習に食われます。

3つをどう組み合わせるか

実際の勉強では、この3つは排他ではなく重ねて使います。たとえば資格試験なら、専門用語の定義はイメージ連結で入れ、解答手順は場所法で並べ、条文番号や数値基準はチャンク化で塊にする。素材ごとに担当を割り振るイメージです。

迷ったときの判断基準はひとつだけです。その情報に「順番」があるかどうか。順番があれば場所法、なければイメージ連結、そもそも意味がない列ならチャンク化。この一問で振り分けられます。

覚えが悪くなったと感じているなら、それは能力の問題ではなく、対象に合わない一つのやり方で全部を処理しようとしていた結果かもしれません。まずは今週、覚えられない20語を選ぶところから試してみてください。

よくある質問

大人になると記憶力は本当に落ちるのですか?

記憶を司る海馬は30歳前後から萎縮が始まり、50歳を過ぎると体積減少が加速するとされています。ただし海馬では何歳になっても神経細胞が新生することが分かっており、脳の老化は必ずしも不可避ではないと考えられています。

場所法はどのくらい練習すれば効果が出ますか?

訓練を受けていない被験者が場所法を6週間トレーニングした研究では、72語のリストの再生成績が向上し、脳の機能的結合パターンが記憶力競技者に近づいたことが報告されています。まずは自宅で10か所の置き場を決め、数週間単位で試すのが現実的です。

一度に覚えられる量に限界はありますか?

ジョージ・ミラーが1956年に提唱した法則では、一度に記憶・処理できる情報の単位はおよそ7個(少ない人で5個、多い人で9個)とされます。この数は文字や数字そのものの数ではなく意味のある塊の数なので、情報をグループ化すれば実質的に扱える量は増やせます。

覚えたことを忘れないための復習タイミングは?

学習後24時間以内に10分間の復習をすると記憶は元の水準近くまで回復し、次は1週間以内に5分、その次は1か月以内に2〜4分の復習で維持できるとされています。一度に詰め込むより間隔をあけて繰り返すほうが長期記憶に残りやすいことが知られています。

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