睡眠不足の勉強はなぜ記憶に残らないのか
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記憶は勉強している最中だけでなく、眠っている間に整理・定着します。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は成人に6時間以上、中高生に8〜10時間の睡眠を推奨しており、この時間を削って学習時間を足すと、覚えた内容を保存する工程そのものを削ることになります。夜は暗記の詰め込みではなく軽い復習に留め、理解を要する学習を翌朝に回す組み方が、同じ総学習時間でも定着に有利です。
覚えた内容が翌朝に薄れているとき、原因が「勉強の仕方」ではなく「その夜の眠り」にあることがあります。記憶は覚えた瞬間に完成するのではなく、眠っている間に脳が整理し、保存し直すことで初めて定着していくからです。
夜間の最低気温が25℃以上の日を、気象庁は統計上「熱帯夜」として扱っています。この時期は眠りが浅くなりやすく、同じ時間ベッドにいても、記憶を固める工程が十分に進まないことがあります。睡眠を削って勉強時間を足すやり方は、覚える作業を増やして保存する作業を減らす取引になっているわけです。
ここでは、眠りと記憶の関係を押さえたうえで、夏に睡眠を守りながら学習量を落とさない時間割の組み方を見ていきます。
睡眠中に記憶は何をされているのか?
眠りは一様ではなく、深い眠り(ノンレム睡眠)と、体は休んでいるのに脳が活発なレム睡眠が、一晩のうちに交互に現れます。この2種類が、記憶に対してそれぞれ別の役割を担っていると考えられています。
日本心理学会大会の研究報告では、ノンレム睡眠、とりわけ深い徐波睡眠が、用語や事実など知識に関する記憶(宣言的記憶)の定着に関わり、レム睡眠は運動スキルなど体で覚える記憶(手続き記憶)の強化や、感情を伴う記憶の処理に関わるとされています。レム睡眠中は、記憶の出入り口である海馬や、感情に関わる扁桃体を含む大脳辺縁系が活動し、情報の整理と統合が行われます。
- 深いノンレム睡眠 — 単語・年号・法令の条文など「知識としての記憶」
- レム睡眠 — タイピングや発音、実技など「体で覚える記憶」と、感情の整理
つまり、簿記の勘定科目を覚えた夜も、英語の発音練習をした夜も、定着の仕上げは眠っている間に行われます。勉強机を離れた時点で学習が終わったわけではなく、その夜の眠りまでが一続きの学習だと考えたほうが実態に近いのです。
睡眠不足だと何が起きるのか?
睡眠が足りないときに起きる不都合は、日中に眠くなる・集中が続かないという体感の部分だけではありません。記憶を固定する脳内の神経活動そのものが妨げられるとされ、睡眠中の整理・定着が進まないと、学習した内容が適切に保存されないまま薄れていくと説明されています(この点は医療機関などの解説による説明で、特定の一次研究を指すものではありません)。
体感としては「昨日あれだけやったのに思い出せない」という形で現れます。勉強の質を疑って参考書を変えるより先に、その週の睡眠時間を数えてみるほうが原因に近いことがあります。
自分は何時間眠るべき?
目安は公的な基準があります。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(令和6年9月18日一部修正)は、年代ごとに次のように示しています。
| 成人 | 6時間以上の睡眠を確保する |
|---|---|
| 中学生・高校生 | 8〜10時間 |
| 小学生 | 9〜12時間 |
| 高齢者 | 床上時間が8時間以上にならないよう注意 |
厚生労働省「睡眠対策」の公表データをもとに作成
ここで注意したいのが、学生と社会人では削れる場所が違うことです。学生に推奨されている8〜10時間は、成人の6時間以上より2時間以上長く、しかも日中は授業で拘束されています。学生が「社会人の勉強法」をそのまま真似て深夜まで机に向かうと、必要睡眠が長いぶん不足の度合いが大きくなります。
逆に社会人は、睡眠の必要量は学生より短いものの、可処分時間そのものが少なく、削る先が睡眠しか残っていない状況に陥りがちです。どちらの立場でも、先に確保する時間を睡眠に決めてしまい、残りを学習に割り当てる順番にすると判断が楽になります。
ガイドが示すのは時間の目安であり、寝室の環境まで保証してくれるものではありません。夏は同じ6時間でも中身が変わります。
熱帯夜はどれくらい増えているのか?
夜間の最低気温が25℃以上の日を、気象庁は統計上「熱帯夜」として扱います。気象庁の「ヒートアイランド現象」のページでは、日最低気温25℃以上の日数の長期変化傾向が、札幌(1879年〜)、東京(1876年〜)、京都(1881年〜)、大阪(1883年〜)、福岡(1890年〜)といった都市ごとに、統計開始年から2025年まで公開されています。5年移動平均と長期変化傾向の線が添えられており、都市部で日数が増える傾向を確認できます。
「昔より寝苦しい気がする」という感覚は、気のせいではなく統計に現れている変化です。これは根性で押し切る対象ではなく、時間割の前提として織り込むべき条件だと考えたほうが現実的です。なお全国平均の熱帯夜日数として年21.1日(1991〜2020年平年値)という数字も流通していますが、住んでいる地域による差が大きいため、気象庁の過去の気象データ検索で自分の地点を確認したほうが確実です。
寝室の温度はどうする?
就寝時の室温について、寝具・家電メーカーなどは26〜28℃程度を目安とし、就寝1時間前からエアコンで室温を下げておく方法を紹介しています。ただしこれらは企業の発信する情報であり、公的機関が具体的な温度基準として示したものではない点は正直にお伝えしておきます。
快適な室温は住環境や体質で変わります。目安として試し、朝の目覚めや夜中に起きた回数で自分に合う設定を探すのが現実的です。眠れない状態が長く続く場合は、学習計画の問題ではなく体調の問題として医療機関に相談してください。
睡眠を守る学習スケジュールはどう組む?
ここからは、睡眠を固定枠として先に確保したうえで、学習の中身を時間帯へ振り分ける組み方です。先にお断りしておくと、以下の時間割そのものを検証した研究があるわけではありません。睡眠と記憶に関する一般的な知見からの組み立てとして読んでください。
- 就寝時刻を先に決める起床時刻から逆算し、成人なら6時間以上、中高生なら8時間以上を確保できる時刻を決めます。ここは学習の都合で動かさない枠として扱います。
- 就寝前1〜2時間は「軽い復習」に限定する新しい範囲の理解や、初見の問題演習をこの時間に入れません。すでに一度やった単語・用語・間違えた問題の確認など、頭を興奮させにくい内容に留めます。
- 理解が必要な学習は翌朝に回す新しい単元の読解、長文の精読、初見の応用問題は、睡眠を取った後の頭で扱います。夜に1時間粘るより、翌朝の30分のほうが進むことがあります。
- 寝室の温度を就寝1時間前から整えるベッドに入ってから冷やし始めると、寝つく時間帯の室温が高いままになります。学習を切り上げるタイミングでエアコンを入れておきます。
- 朝、前夜の範囲を5分だけ確認する眠っている間に整理された内容を、翌朝に短く引き出します。思い出せた範囲と抜けた範囲がわかり、その日どこをやるかが決まります。
夜に向く学習・朝に向く学習
| 就寝前1〜2時間 | 起床後 | |
|---|---|---|
| 入れる学習 | 暗記した用語の見直し、間違えた問題の解き直し、その日やった範囲の目次レベルの確認 | 新しい単元の読み込み、初見の演習問題、長文読解、考えて手を動かす作業 |
| 入れない学習 | 新しい単元の理解、初見の応用問題 | 寝る前に確認済みの用語をもう一度なぞる作業 |
| 目安の長さ | 30分程度の軽い復習 | まとまった30分〜1時間 |
この振り分けの狙いは単純で、夜は覚えたものを持ったまま眠りに入る形にし、頭を使い切る作業は睡眠で回復した後に置くということです。総学習時間を増やさずに、同じ時間の使い先を変えるだけで済みます。
夜遅くの学習は、進んでいる実感を得やすい一方で、翌日の集中力と睡眠の両方を借りて成立していることがあります。借りた分は翌日に返すことになるため、週単位で見ると総量が増えていないケースは珍しくありません。
それでも眠れない夜はどうする?
寝苦しさで途中に目が覚めてしまう夜は、どう頑張っても出てきます。そのときに勉強計画まで崩れると、翌日以降も連鎖して乱れます。
- その日の学習は「新しい範囲」ではなく復習に振り替える
- 予定量をこなせなかった日を、遅れではなく調整日として記録する
- 取り返すために当日夜を延長しない(不足が翌日へ持ち越される)
- 週の総量で帳尻を合わせ、1日単位の達成率で判断しない
試験直前で、残り日数から逆算すると睡眠を確保した学習量では届かない、という局面はあります。その場合は睡眠を削るかどうかではなく、出題範囲を絞る・完璧を諦める範囲を決めるという判断が先です。また夜勤や交代勤務で就寝時刻を固定できない場合、ここで示した「就寝前・起床後」の振り分けは、勤務明けの睡眠を基準に読み替えてください。
今日から変える一歩
やることは多くありません。今夜の就寝時刻をひとつ決めて、その1時間前に学習を切り上げ、残り時間を今日やった範囲の見直しに充てる。それだけで、覚えた内容が眠りの工程に乗ります。
翌朝、前夜の範囲を5分だけ思い出してみてください。抜けている場所がはっきり見えるはずです。そこが、その日に手をつけるべき場所です。
よくある質問
睡眠時間を削って勉強するのは効果がありますか?
記憶は睡眠中に整理・定着するため、睡眠を削ると覚えた内容を保存する工程そのものが短くなります。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は成人に6時間以上、中学生・高校生に8〜10時間の睡眠を推奨しており、この時間を学習に振り替える前に、日中の時間の使い方を見直すほうが合理的です。
暗記は夜と朝のどちらにやるべきですか?
深いノンレム睡眠が用語や事実などの知識の記憶の定着に関わるとされるため、暗記した内容を持ったまま眠る形になる就寝前の復習は理にかなっています。一方で新しい単元の理解や初見の演習は、頭を使い切る作業のため、睡眠を取った後の朝に回すほうが進みやすくなります。
熱帯夜とは何度から何度までを指しますか?
気象庁は、夜間の最低気温が25℃以上の日を統計上「熱帯夜」として扱っています。気象庁のヒートアイランド現象のページでは、日最低気温25℃以上の日数の長期変化傾向が、東京・大阪・札幌・福岡・京都などの都市別に、統計開始年から2025年まで公開されています。
寝る前にエアコンはいつからつければよいですか?
就寝1時間前からエアコンで室温を下げておく方法が、寝具・家電メーカーなどから紹介されています。室温の目安として26〜28℃程度が挙げられますが、これは企業の発信する情報であり公的機関の基準ではないため、朝の目覚めや夜中に起きた回数を見ながら自分に合う設定を探すことをおすすめします。
※記事で使用した内容・数値は変更される場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。