デザイン著作権、契約なしなら誰に残る?譲渡と使用許諾
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デザインの納品物は、契約で何も決めなければ著作権はデザイナー側に残ります。クライアントに権利ごと渡す「著作権譲渡」と、範囲を決めて使ってもらう「使用許諾」は別物で、譲渡する場合は著作権法27条・28条を含める旨と著作者人格権の不行使条項を明記しないと後で認識がぶつかります。2024年11月施行のフリーランス新法で、業務委託の条件はテキストで明示することが発注側の義務になりました。
デザインの副業で最初にぶつかりやすいのが、この「納品したあと」の話です。制作費をもらって渡したのだから、あとはクライアントの自由——そう思っている人は少なくありません。
ただ、著作権法のうえでは違います。お金を払って作らせたというだけでは、著作権は自動的にクライアントへ移りません。移すには契約で「譲渡する」と決める必要があり、決めていなければ権利はデザイナーの手元に残ったままです。
つまり冒頭のような改変は、契約次第で「契約違反ですと言える話」にも「何も決めていなかったので争いにくい話」にもなります。分かれ目は、納品前に交わした文面のどこに何を書いたか。まだ案件がない段階の人も、最初の1件を取るところから順に見ていけます。
最初の1案件はどう取ればいい?
権利の話は、案件が1件あって初めて実務になります。まだ受注が0件なら、ここから始めます。
- 作品を3点そろえる実案件でなくて構いません。架空の店のロゴ、架空イベントのバナー、既存サービスのリデザイン案など、狙う仕事に近い形式で3点。点数より「何ができる人か」が伝わることが優先です。
- 置き場所を1つ作るポートフォリオサイトでなくても、無料のポートフォリオサービスやSNSのプロフィール1枚で足ります。制作意図を2〜3行添えると、発注側は判断しやすくなります。
- 単価の下限を先に決める「バナー1枚◯円から、ロゴは◯円から」と数字を出しておく。受注前に決めておかないと、提示された額に引きずられます。
- クラウドソーシングで10件応募するクラウドワークス・ランサーズ・ココナラなどで、実績0でも応募できる小さめの案件へ。1件で決まることは稀なので、最初は件数を打ちます。提案文には「作品3点のリンク」「納期」「修正回数の目安」を必ず入れる。
- 初回の1件は条件を書いて受ける金額が小さくても、次章以降の権利条件をメール1通で確認してから着手する。ここで型を作ると、2件目以降がそのまま回ります。
実績0の期間を抜けるのに必要なのは、うまさより「応募数と、条件を先に出す習慣」です。ここまで来たら、その条件の中身に入ります。
著作権譲渡と使用許諾は何が違う?
まず、この2つは目的からして別物です。前提を合わせてから先に進みます。
| 著作権譲渡 | 使用許諾 | |
|---|---|---|
| 権利の所在 | クライアントへ移る | デザイナーが持ち続ける |
| クライアントの改変 | 原則自由 | 契約で可否を決める |
| 他媒体への展開 | 原則自由 | 許諾した媒体のみ |
| デザイナーの実績掲載 | 制限され得る | 条件を残しやすい |
| 相場感 | 許諾より高くなる方向 | 範囲が狭いほど抑えられる |
著作権譲渡は、権利そのものをクライアントへ移す契約です。売却に近いイメージで、渡したあとはクライアントが自由に使い、改変し、他人に使わせることもできます。代わりにデザイナー側には制限がかかり得ます。自分の作ったロゴなのにポートフォリオへ載せるのに確認が要る、という状況はここから生まれます。
使用許諾(ライセンス)は、著作権をデザイナーが持ったまま、目的・媒体・期間を決めて「この範囲で使っていいですよ」と許可する契約です。貸すイメージが近いでしょうか。範囲を決めるので、範囲外の使い方は契約違反や著作権侵害になり得ます。Web用に許諾したロゴを看板や商品パッケージへ無断で展開する、というのが典型例です。
どちらが正しいという話ではありません。ロゴやブランドマークのように、クライアントが今後何十年も自社の看板として使い倒す成果物なら譲渡が自然です。一方、単発のバナーやイベント用のビジュアルなら、媒体と期間を切った使用許諾で足りることが多くあります。成果物がクライアントの資産になるものかどうかで考えると、判断がぶれにくくなります。
「著作権を譲渡する」だけでは足りないのはなぜ?
「著作権を譲渡する」という文言だけでは、渡しきれていない権利が残ります。著作権法には、譲渡の場面で特別扱いされる条文が2つあるためです。
ひとつが27条(翻案権など)。作品を作り替えて別の作品にする権利です。ロゴの縦組みを横組みに直す、SNSのアイコン用に切り出す、色違いを作る——こうした「作り替え」がここに当たります。もうひとつが28条で、作り替えられた成果物(二次的著作物)の利用について元の作者が持つ権利です。
この27条・28条は、契約書に特掲——つまり条番号を挙げて名指しで書かない限り、譲渡人(デザイナー側)に留保されたものと推定される、と扱われます。「すべての著作権を譲渡する」と書いてあっても、この2つの名指しがなければ手元に残っている前提で判断される、ということです。
名指しを書き忘れたまま納品すると、クライアントは「全部買ったつもり」、デザイナーは「改変権は渡していない」という認識のズレを抱えたまま運用が始まります。ズレが表面化するのはたいてい半年後、勝手にリサイズされた版を見つけたときです。譲渡するなら書く、しないなら使用許諾にする。曖昧なまま渡さないのが双方のためです。
著作者人格権は譲渡できるのか
できません。著作権法59条により、著作者人格権は著作者本人に専属し、譲渡できません。契約書に「著作者人格権も含めてすべて譲渡する」と書いても、その部分は法律上そのとおりにはなりません。
著作者人格権は3つで構成されます。公表権(未公表のものを世に出すかを決める)、氏名表示権(作者名を出すか出さないかを決める)、同一性保持権(意に反する改変を拒める)です。改変を拒める権利がデザイナー側に残る以上、譲渡したはずのクライアントが安心して改変できない状態になります。
そこで実務では、譲渡できない代わりに「譲渡人は譲受人および第三者に対して著作者人格権を行使しない」という不行使条項を入れるのが標準的な対応です。権利は残るが、使わないと約束する形で辻褄を合わせます。
ここで注意したいのは、不行使条項は白紙委任ではないという点です。デザイナー側として意に反する改変を避けたいなら、「デザインの印象を大きく変える改変については事前協議する」といった留保を交渉の場に出すことはできます。実際、譲渡範囲・対価・二次利用の条件を交渉するケースはデザイン業界で増えています。黙って全部飲むのが常識、ではありません。
契約書には具体的に何を書けばいい?
骨子は決まっています。譲渡か許諾かで書く項目が変わるので、分けて押さえます。
- 利用目的(何のために使うか)
- 利用媒体(Web/印刷物/SNS/店頭など、名指しで)
- 利用期間(無期限か、◯年間か)
- 改変の可否(不可/要事前承諾/軽微なリサイズは可、など)
- 独占か非独占か(同案を他社へ出さない約束をするか)
- 著作権法第27条および第28条に規定する権利を含む旨の明記
- 著作者人格権の不行使条項
- 譲渡の対価と、権利が移るタイミング(納品完了時か、入金完了時か)
- ポートフォリオ等への実績掲載の可否と条件
とくに実務で効くのが権利移転のタイミングです。「本件著作権は、委託者が報酬全額を支払った時点で受託者から委託者へ移転する」と書いておくと、未入金のまま成果物だけ使われる事態への歯止めになります。納品完了時に移転と書いてしまうと、報酬が未払いでも権利は先に移っている状態が生じます。
実績掲載も、譲渡の場合は先に条件を決めておかないと後から頼みにくくなります。「受託者は、本件成果物を自己の実績として公表することができる。ただし公表可能時期は委託者のリリース後とする」程度の一文で、副業デザイナーにとって命綱のポートフォリオを守れます。
クライアントに条件を切り出すにはどう伝える?
切り出すタイミングと言い方を決めておけば、印象の問題はかなり減らせます。むしろ制度の後押しがあります。2024年11月に施行されたフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)により、事業者がフリーランスへ業務委託する際は、納期・報酬・知的財産権の帰属などの取引条件をテキストで明示することが発注側の義務になりました。条件を書面で確認するのは、あなたの慎重さではなく発注側の義務です。
- 見積もり提示のときに一緒に聞く納品後ではなく金額を出す段階で。「著作権の扱いで金額が変わるので確認させてください」と、条件と価格をセットにして話す。
- 二択で聞く「著作権ごとお渡しする形と、Web媒体での使用許諾という形があります。どちらで見積もりますか」。相手に判断材料を渡すと、詰問になりません。
- 譲渡なら金額に反映する譲渡は権利ごと渡す分、許諾より高くなる方向で見積もる。値上げではなく、範囲が広い分の対価だと説明する。
- 合意した内容をテキストに残す正式な契約書がなくても、メールやチャットで「著作権は入金確認後に貴社へ移転、27条・28条を含む、実績掲載は貴社リリース後に可、で進めます」と1通送って返信をもらう。
4番目が一番のコツです。副業の小さめの案件では、押印つきの契約書までは求めにくい場面があります。それでもメール1通の合意は残せます。文面が残っていること自体が、後から認識がぶつかったときの拠り所になります。
やりがちなつまずきはどこ?
相談として多いパターンを、原因とセットで挙げます。
「著作権はそちらで」と口頭で言われたまま進めた
どちらの「そちら」なのか後で食い違います。口頭のやりとりは、その日のうちにテキストで確認し直す。これだけで大半は防げます。
テンプレの契約書をそのまま使った
ひな形には27条・28条の特掲がないもの、逆に人格権まで譲渡すると書いてあるもの(法律上そのとおりにはなりません)が混在します。経済産業省のモデル契約書などを土台に、自分の案件に合わせて条項を確認するほうが安全です。使う前に、今日挙げた項目が入っているかだけは目で追ってください。
素材の権利を確認していない
自分の制作物の権利を整理しても、使ったフォント・写真・イラスト素材のライセンスが商用利用や再配布を許していなければ、そこが穴になります。譲渡契約を結ぶ案件ほど、使用素材のライセンス条件は先に確認しておきます。
単価が数千円規模の単発バナーで、クライアントが個人事業主というような案件では、詳細な譲渡契約を求めると話が止まってしまうこともあります。その場合は「Web広告での使用に限る/改変は事前相談/実績掲載可」程度の3行をメールで送って合意を取るだけでも十分機能します。契約は重さより、書いてあるかどうかです。
次の案件から何をすればいい?
いきなり全案件を整えなくても大丈夫です。順番があります。
- 今日メールに貼る「権利条件の確認テンプレ」を3〜5行で作ってテキストファイルに保存する。譲渡/許諾の二択と、実績掲載の可否を入れる。
- 次の見積もり時そのテンプレを金額と一緒に送る。相手の返信で条件が確定する。
- 3案件ほど回したあと返ってきた反応をもとに、自分の標準条件(デフォルトは使用許諾、譲渡は+◯%など)を決める。
パーソル総合研究所の調査では、副業収入は平均5.4万円・中央値3.0万円で、約6割が月3万円以下にとどまります。ここを抜けていく人は、絵のうまさだけで抜けているわけではありません。たとえばバナー1枚5,000円で受けていた人が、譲渡込みの条件を提示できるようになると、同じ作業に権利の対価を上乗せして見積もれます。ロゴ制作で「使用許諾3万円/全媒体・改変可の譲渡5万円」と二択で出すのは、実務でよくある出し方です。条件を説明できることが、そのまま単価の選択肢になります。
本記事は著作権法および契約実務の一般的な解説です。個別の案件で判断に迷う場合や、すでにトラブルが起きている場合は、弁護士など専門家へ相談してください。
よくある質問
デザインを納品したら著作権は自動的にクライアントのものになりますか?
なりません。制作費を支払って作らせたというだけでは著作権は移転せず、契約で「譲渡する」と定めない限り、著作権はデザイナー側に残ります。クライアントへ権利ごと渡す場合は、契約書に著作権を譲渡する旨を明記する必要があります。
契約書に「著作権をすべて譲渡する」と書けば十分ですか?
不十分です。著作権法27条(翻案権など)と28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)は、契約書で条番号を挙げて特掲しない限り譲渡人に留保されたと推定されます。改変やリサイズを含めて渡すなら「著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む」と明記します。
著作者人格権も譲渡できますか?
できません。著作権法59条により、公表権・氏名表示権・同一性保持権からなる著作者人格権は著作者本人に専属し、譲渡できないと定められています。実務では代わりに「譲渡人は譲受人および第三者に対して著作者人格権を行使しない」という不行使条項を契約書に入れる対応が一般的です。
著作権を譲渡すると自分のポートフォリオに載せられなくなりますか?
契約次第です。譲渡すると権利がクライアントへ移るため実績掲載に制限がかかり得ますが、契約書に「受託者は本件成果物を自己の実績として公表できる」旨と公表可能な時期の条件を入れておけば掲載できます。譲渡契約を結ぶ前に、この一文を入れられるか確認しておくのが安全です。
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