通信障害はなぜ長引く?復旧を阻む輻輳のしくみ
画像出典: パブリックドメイン(Wikimedia Commons)
大規模通信障害が数時間に及ぶのは、壊れた装置を直す作業そのものより「何が原因かを突き止める時間」と「復旧した瞬間に圏外だった大量の端末が一斉に繋ぎ直そうとする再接続要求の殺到」が時間を食うためです。この殺到はネットワークが処理能力を超える輻輳(ふくそう)を新たに生み、復旧を宣言したあとも繋がりにくさが続く原因になります。2021年10月のNTTドコモの障害では、発生から復旧まで2時間以上を要し、復旧直後もアクセス集中による輻輳が続いたと報じられました。
通信障害が起きると、復旧のお知らせが出るまで思った以上に長く待たされます。ケーブルが切れたなら繋ぎ直せばいい、装置が壊れたなら交換すればいい——そう考えると、数時間という長さは不思議に見えます。
正直なところ、長引く理由の大半は「修理そのもの」ではありません。原因を突き止めるまでの時間と、復旧した瞬間に押し寄せる大量の再接続要求が、時間の大部分を占めています。この2つを知ると、障害中の待ち方も変わってきます。
通信障害の「輻輳(ふくそう)」とは?
輻輳とは、ネットワーク機器にトラフィック(一定時間内に送られる通信データ)が集中し、処理能力を超えてしまう状態のことです。利用者が集中してデータのやり取りが増えると、通信速度の低下や接続不能が起こります。
イメージとしては、駅の改札に近い状態です。改札機そのものは壊れていなくても、一度に処理できる人数には上限があります。上限を超える人が押し寄せれば、改札の手前で行列ができ、通れる人と通れない人が出ます。スマホの「圏外」や「接続できません」は、この行列に並びきれなかった状態だと考えるとわかりやすくなります。
ここで大事なのは、輻輳は「壊れて起きる」だけのものではないという点です。設備が正常でも、要求が処理能力を上回れば同じことが起きます。障害の復旧が長引く理由は、まさにここに関わってきます。
なぜ復旧まで何時間もかかるのか?
復旧までの時間は、大きく3つの段階に分かれます。それぞれで時間の食われ方が違います。
- 原因の特定通信網は多数の設備が連携して動いており、「どこが引き金か」が症状からすぐには分かりません。通信設備の故障が原因の場合、故障原因の特定に時間がかかると、そのぶん復旧までの時間も延びます。
- 復旧作業と切り戻し原因が分かっても、設定を元に戻す(切り戻す)作業が新たな信号の増加を招くことがあります。ネットワーク全体に影響するため、慎重に段階を踏む必要があります。
- 正常化の待ち時間設備が直っても、利用者側の体感がすぐ戻るとは限りません。ここで効いてくるのが、次に説明する再接続要求の殺到です。
復旧直後がいちばん繋がりにくいのはなぜ?
障害中に圏外になっていた端末は、電波が戻った瞬間にいっせいにネットワークへ繋ぎ直そうとします。スマホは電波を掴むとき、ただ受信するだけでなく「自分は今ここにいます」という位置登録と、契約者本人であることの認証をネットワークに要求します。この手続きは1台ずつ処理が必要です。
通常であれば、この要求は一日を通してばらばらのタイミングで発生します。ところが障害からの復旧時は、数百万台規模の端末が同じ瞬間にそれを始めます。桁違いの要求が一点に集中し、復旧させたはずのネットワークが、その再接続要求自体で再び輻輳を起こすのです。
先ほどの改札の例で言えば、一時的に閉じていた改札を開けた瞬間に、待っていた全員が同時に押し寄せる状況です。改札は直っているのに、通り抜けるまでには時間がかかります。しかも繋がらなかった人が何度もアプリを開き直したり再起動したりするため、要求はさらに増えます。
復旧直後に何度も再起動や再接続を繰り返すと、混雑をわずかに押し上げる側に回ります。とはいえ個人の1台が全体を左右するわけでもありません。過度な自責は不要ですが、繋がらないときは少し時間を置いてから試すほうが、結果的に早く繋がることが多いと言えます。
実際の障害では何が起きたのか?(2021年ドコモの例)
ここまでのしくみが実際に組み合わさった例が、2021年10月14日に発生したNTTドコモの全国規模の通信障害です。全国の利用者が影響を受け、経過は次のように報じられています。
| 発生日時 | 2021年10月14日 午後5時ごろ |
|---|---|
| 復旧 | 同日 午後7時57分ごろ(2時間以上継続) |
| 発端 | IoT端末向けサーバーの切り替え工事の不具合 |
| 拡大の経緯 | 工事の切り戻しに伴う信号量増大 → ネットワーク輻輳 |
| 影響 | 音声通話・データ通信が利用しづらい状態が延べ約1290万人に |
| 復旧後 | アクセス集中による輻輳で一部繋がりにくい状態が継続 |
ITmedia NEWSおよび日本経済新聞の報道をもとに作成
きっかけは自動販売機などIoT端末向けサーバーの切り替え工事の不具合で、そこから工事の切り戻しに伴って信号量が増大し、ネットワーク輻輳へと広がりました。発生から復旧までは2時間以上かかっています。
そして注目したいのは最後の行です。復旧が発表されたあとも、アクセス集中による輻輳で繋がりにくい状態が続いたと報じられています。設備の復旧と、利用者の体感の復旧は同じタイミングではないということが、この事例からはっきり読み取れます。
なお、総務省はこの障害を電気通信事業法上の「重大な事故」に該当すると判断し、原因究明と再発防止策の報告をドコモに指示しました。ドコモは2021年11月10日に重大事故報告書を、同年12月27日に行政指導への対応報告書を提出しています。原因の分析と報告だけでも、障害の翌日にまとまるものではないことがわかります。
障害情報はどこで、どのくらいの頻度で更新される?
障害が起きたとき、多くの人は公式サイトの障害情報ページを見に行きます。ここには一定のルールがあります。
総務省の「電気通信サービスにおける障害発生時の周知・広報に関するガイドライン」(令和5年3月改定)では、電気通信事業者に対し、深夜早朝を除いて概ね1日3回以上・3〜5時間ごとに障害情報を更新するよう求めています。また復旧後も、原因や影響を受けた利用者数をわかりやすく掲載するよう要請しています。
総務省の公表資料をもとに作成
つまり、10分おきに更新を確認しても新しい情報が出ている可能性は高くありません。数時間おきの更新が基本だと知っておくと、無駄に張りついて消耗せずに済みます。
- 公式の障害情報ページのURLを、別回線でも開けるようブックマークしておく
- Wi-Fi(自宅の光回線など)が生きていれば、通話はメッセージアプリの通話機能に切り替える
- 家族と「繋がらないときはこう連絡する」を事前に決めておく
- 再接続を何度も試すより、数十分あけてから確認する
- スマホの電池を確保する(電池切れは障害と同じ「繋がらない」を生む)
結局、利用者はどう構えればいい?
大規模障害は、原因特定に時間がかかり、復旧作業も慎重に進める必要があり、そのうえ復旧直後には再接続要求の殺到という第二の山があります。「数時間かかるのが異常ではなく、構造上そうなりやすい」というのが実態です。
そのうえで現実的な備えは、通信経路を1本に依存しないことです。自宅に光回線があるなら携帯回線が止まっても連絡手段は残りますし、逆に光回線側の障害なら携帯回線のテザリングが代替になります。異なる会社の回線を家族で分けて持つのも、同時に全滅する確率を下げる方法のひとつです。
知っておけば、繋がらない数時間を「壊れたのか、自分の設定が悪いのか」と疑いながら過ごさずに済みます。まずは自分が使っている回線の障害情報ページがどこにあるかを、繋がっている今のうちに確認しておくと安心です。
よくある質問
通信障害はなぜすぐに直らないのですか?
復旧が長引く主な要因は、故障の修理作業そのものではなく、原因の特定に時間がかかること、そして復旧直後に圏外だった大量の端末が一斉に再接続を試み、それ自体が新たな輻輳(ネットワークの処理能力超過)を生むことです。2021年10月のNTTドコモの障害では発生から復旧まで2時間以上を要し、復旧直後もアクセス集中による輻輳で繋がりにくい状態が続いたと報じられています。
輻輳(ふくそう)とはどういう意味ですか?
輻輳とは、ネットワーク機器にトラフィック(一定時間内に送られる通信データ)が集中し、機器の処理能力を超えてしまう状態を指します。利用者の集中でデータのやり取りが増えると、通信速度の低下や接続不能が発生します。設備が故障していなくても、要求が処理能力を上回れば輻輳は起こります。
「復旧しました」と発表されたのに繋がらないのはなぜですか?
設備の復旧と利用者の体感の復旧は同じタイミングではないためです。障害中に圏外だった端末は電波が戻った瞬間に位置登録や認証といった再接続手続きを一斉に要求します。この要求が通常時より桁違いに集中することで再び輻輳が起こり、復旧発表後も一定時間は繋がりにくさが残ります。
通信障害の情報はどのくらいの頻度で更新されますか?
総務省の「電気通信サービスにおける障害発生時の周知・広報に関するガイドライン」(令和5年3月改定)では、電気通信事業者に対し、深夜早朝を除いて概ね1日3回以上・3〜5時間ごとに障害情報を更新するよう求めています。復旧後も原因や影響を受けた利用者数をわかりやすく掲載することが要請されています。
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