海底ケーブルとは?海外サイトが一瞬で開く理由
画像出典: 写真: Philipp Weigell(CC BY 3.0 / Wikimedia Commons)
国際間のデータ通信の99%は、衛星ではなく海底ケーブルを通っています。光ファイバーの中を光の速さで信号が進むため、日本と米国を結ぶ太平洋横断でも伝送の遅れは0.06秒程度です。世界には約500本、総延長130万km超のケーブルが海の底に敷かれ、日本にも30本以上がつながっています。
宇宙を経由していると思われがちですが、国際間のデータ通信の99%は海底ケーブルを通っています。衛星が主役ではありません。地図の上では太平洋を挟んで遠く離れていても、海の底にはガラスの糸が何本も走っていて、その中を光が走り抜けています。
正直なところ、普段は意識しなくても困らない話です。ただ、自分のスマホから出た信号がどこを通って地球の裏側まで行き、どうやって戻ってくるのかを一度たどってみると、あの「一瞬」の中身がずいぶん違って見えてきます。ここでは家のWi-Fiから海外のサーバーまで、信号と一緒に旅をしてみます。
海外との通信は衛星ではなく海底ケーブルなのか?
そのとおりです。国際間のデータ通信のうち99%が海底ケーブル経由で、衛星が担っているのはごく一部にすぎません。世界の海底には約500本のケーブルが敷かれていて、総延長は130万〜140万km。地球を30周以上できる長さです。
意外なのは、その太さです。海底ケーブルの直径はわずか17mm程度、庭で使う散水ホースくらいしかありません。その中心を通っているガラスの繊維——光ファイバーは直径9マイクロメートル、髪の毛よりずっと細い糸です。地球全体のインターネットが、この細さの上に乗っています。
細さと容量は別の話です。最新の海底ケーブルは毎秒200〜360テラビットという容量を持っています。たとえばアジアと北米を結ぶAPRICOTケーブルは290Tbps。ざっくり映画11,600本分を毎秒送れる規模だと説明されています。1本の光ファイバーに波長の違う光を何色も重ねて同時に流すため、太さの割に桁外れの量を運べるのです。
スマホから海外のサーバーまで、信号はどこを通るのか?
「海外サイトを開く」とき、信号は次のような順路をたどります。目的地に着くまでも、返事が返ってくるまでも、この道を通ります。
- 家からISPまでスマホやPCから出たデータは、Wi-Fiルーターと光回線を通って契約しているプロバイダ(ISP)へ。そこからIX(インターネット相互接続点)という、事業者どうしが回線をつなぎ合う交差点に集まります。
- 陸揚局へ国内を陸上のケーブルで移動し、海底ケーブルの出入口である「陸揚局」に到着します。三重県志摩市など、海に面した場所に置かれています。
- 海へ潜る陸揚局から海底ケーブルへ。ここから太平洋や日本海の底を、光の速さに近い速度でひた走ります。
- 向こう岸に上がる海外側の陸揚局で受け取られ、現地のISPを経てデータセンターへ。目的のサーバーに届きます。
- 折り返すサーバーの応答が、ほぼ同じ道を逆向きに戻ってきて、あなたの画面が表示されます。
この往復のうち、海底を渡る部分にかかる時間が驚くほど短いのです。日本と米国を結ぶ太平洋横断でも、伝送の遅れは0.06秒程度とされています。まばたきより速く、海の底を一往復しているわけです。
0.06秒はあくまでケーブルを光が伝わる時間です。実際のWeb表示には、途中の機器での中継処理、相手サーバーがページを組み立てる時間、画像や広告の読み込みなどが積み重なります。海外サイトが遅く感じるときの原因は、海の距離よりサーバー側や経路の混雑にあることも多いです。
日本にはどれくらいのケーブルがつながっているのか?
日本には30本を超える海底ケーブルが接続していて、太平洋地域でも最大級の通信ハブの一つになっています。日本の国際通信のおよそ3分の1が海底ケーブル経由という数字もあり、島国でありながら世界の通信の結節点に位置しているわけです。
とはいえ、接続点が特定の場所に集中していると、そこで何かあったときに影響が広がります。総務省はこの弱点に手を入れる計画を進めていて、日本海側の海底ケーブルを2026年度中に運用開始すること、陸揚局を各地に分散させること、国際海底ケーブルのルートを複数化し分岐支線を敷くことなどを、デジタルインフラ整備基金で支援するとしています。要するに「太平洋側の一本道」にしないための工事です。
海底で電気も必要なのか?中継器のしくみ
光ファイバーの中を進む光も、距離が延びれば少しずつ弱まります。そこで海底ケーブルには一定間隔で中継器(信号を増幅する装置)が組み込まれています。海の底に電源はありませんから、電力は陸から送ります。
その送り方が豪快です。陸揚局からケーブル自体を通して直流15,000V程度の高電圧をかけ、1つのルートで最大100基ほどの中継器にまとめて給電する構成があります。データを運ぶ線が、同時に電力線でもあるということです。深海数千mに沈んだ機器を、何十年も陸側から生かし続ける設計になっています。
ケーブルが切れたらどうなるのか?
切れます。しかも珍しいことではありません。海底ケーブルの切断は世界で年間100〜150件発生しています。主な原因は自然災害よりむしろ人の活動で、漁船の底引き網や船の錨が引っかかるケース、それに地震による海底地滑りなどが挙げられます。
それでも私たちが毎日ふつうにネットを使えているのは、複数のケーブルで経路が冗長化されているからです。1本が切れても別のルートへ迂回して通信が続きます。ただし、修理の体制はかなり細い糸の上にあります。
- 修理専用船は世界に62隻。平均船齢は20年を超える
- ケーブルを製造できるメーカーは世界に4社のみ
- そのうち日本のNECが世界シェア約35%を占める
- 新規敷設は最短でも2年、複雑なルートでは4年以上かかる
船62隻で、130万kmを超えるケーブルの面倒を見ている計算です。作れる会社が4社しかない、という数字も含めて、世界の通信を支える基盤としてはずいぶん少人数の現場だと感じられます。日本のNECがその一角を占めているのは、この分野では長く知られた話です。
「一瞬で表示される」を支えているのは何か?
ここまでを一つにまとめると、海外サイトがすぐ開く理由は次の三つが重なった結果です。
| 理由 | 裏づけとなる数値 | 体感への効き方 |
|---|---|---|
| 光の速さ | 太平洋横断の伝送遅延 0.06秒程度 | 距離があっても待ち時間として現れない |
| 太い容量 | 最新ケーブルで毎秒200〜360テラビット | 多数の利用者が同時に使っても詰まりにくい |
| 複数の経路 | 日本に接続するケーブル30本超 | 1本が切れても別ルートへ迂回できる |
普段スマホを触っているとき、その裏では水深数千mの闇の中を、直径17mmのケーブルが何千kmも横たわっています。そこを光が走り、15,000Vが流れ、どこかでは修理船が出動している。「一瞬で表示される」の正体は、海の底にある物理的な設備そのものです。
知ったからといって通信が速くなるわけではありません。ただ、海外のページが開くのを待つ数秒のあいだに、その信号が海を渡っていると思うと、少しだけ景色が変わります。次に接続が不安定になったときも、原因は自分の部屋のWi-Fiか、それとも遠くの海の話なのか——切り分けの視点が一つ増えるはずです。
よくある質問
海外との通信に衛星は使われていないのですか?
衛星通信も存在しますが、国際間のデータ通信の99%は海底ケーブル経由です。容量と遅延の面で海底ケーブルが圧倒的に有利なため、日常的なインターネット利用のほとんどは海の底を通っています。
日本からアメリカのサイトまで、どのくらいの時間がかかりますか?
太平洋横断の海底ケーブルを信号が伝わる時間は0.06秒程度です。ただし実際のページ表示にはこれに加えて、経路上の中継処理やサーバー側の応答時間、画像などの読み込み時間が加わります。
海底ケーブルはどのくらいの太さですか?
直径17mm程度で、庭で使う散水ホースほどの太さです。その中心には直径9マイクロメートルの光ファイバーが通っており、最新のケーブルは毎秒200〜360テラビットの通信容量を持ちます。
海底ケーブルが切れると、インターネットは使えなくなりますか?
切断は世界で年間100〜150件発生していますが、複数のケーブルで経路が冗長化されているため、1本が切れても別ルートへ迂回して通信は続きます。日本には30本を超えるケーブルが接続しています。
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