空飛ぶ基地局HAPSのしくみ、圏外でも通話できる理由
画像出典: Sceye, Inc.
ソフトバンクは成層圏の通信プラットフォーム「HAPS」を使い、手持ちのスマートフォンと直接通信する試験を国内で初めて成功させました。高度約17〜19kmから地上の基地局と同じ周波数帯で電波を照射するため、専用機器なしの既存スマホがそのまま使えます。試験では下り最大36Mbps、音声通話100回中100回成功、緊急速報メールの安定動作を確認し、2027年以降の国内商用化を目指すとしています。
停電や断線で基地局が止まれば、電波が届く範囲はそこから消えます。家族の安否確認も、避難情報の受け取りも、電波があって初めて成り立つものです。
その前提を変えようとしているのが、空を飛ぶ基地局です。ソフトバンクは2026年9月30日、成層圏の通信プラットフォーム「HAPS」とスマートフォンの直接通信試験を国内で初めて実施し、成功したと発表しました。専用の機器を買い足さなくても、いま手元にあるスマホがそのまま使えるしくみです。
読者にとって何が変わるのか。地上の設備が被災しても通話や緊急速報メールが届く経路が、もう一本増えるということです。ここでは、その電波がどう届くのかと、実際に使えるようになるのはいつ頃かを順に見ていきます。
HAPS(空飛ぶ基地局)とは?
HAPS は High Altitude Platform Station の略で、日本語では成層圏通信プラットフォームと呼ばれます。飛行機や気象用の気球が飛ぶ対流圏よりさらに高い成層圏(高度約20km)に長期間とどまり、地上の基地局と衛星通信の中間的な役割を担う通信インフラです。
高さのイメージを合わせておきます。旅客機が飛ぶのは高度10km前後、通信衛星はずっと遠い宇宙空間にあります。HAPS はその間、雲より上で風の穏やかな層に浮かび続けます。だから「飛んでいる」というより「空に駐機している」感覚に近いものです。
今回の試験で使われたのは、米 Sceye(スカイ)社の LTA 型と呼ばれる機体です。LTA は Lighter Than Air の略で、ヘリウムの浮力で浮く飛行船型という意味です。全長65mで、数カ月間の滞空ができます。

上の写真のとおり、打ち上げは格納庫と地上設備を備えた拠点から行われます。この機体は2026年8月9日に米ニューメキシコ州ロズウェルを出発し、太平洋上空を横断して8月23日に高知県室戸市・室戸岬沖の日本上空へ到達しました。Sceye の発表によれば、一連のミッション全体で飛行距離は約3万km、飛行日数は約30日間に及んでいます。
日本上空での飛行高度は約17〜19km、岸から約10km沖合の位置です。ソフトバンクは翼長78mで太陽光発電で飛ぶ HTA 型(Heavier Than Air、空気より重く翼の揚力で飛ぶ飛行機型)の「Sunglider」も開発中で、こちらは巡航速度110km/h とされています。
専用機器なしで手持ちのスマホに電波が届くしくみは?
HAPS が特別なのは、機体そのものに地上の基地局と同等の「4G LTE相当の基地局」を積んでいる点です。つまり空に浮かんでいるのは中継器ではなく、基地局そのものです。
電波の道筋はこうなります。
- スマホ ↔ HAPS成層圏の機体に載った基地局と、手持ちのスマホが直接つながります。使う周波数帯は地上の基地局と同じです。
- HAPS ↔ 地上のゲートウェイ局機体は地上に置かれたゲートウェイ局(出入口となる地上設備)と結ばれます。
- ゲートウェイ局 ↔ コアネットワークそこからソフトバンクのコアネットワーク(通信事業者の中枢設備)につながり、通話やインターネットが成立します。
地上の基地局と同じ周波数帯を使うことが、専用機器が不要な理由です。スマホ側から見れば、いつもの電波がいつもの周波数で届いているだけなので、アプリの設定変更も機種の改造も要りません。Sceye も、手を加えていないデバイスへの直接接続に成功したと発表しています。
もうひとつの特徴が、カバーできる広さです。HAPS は1機で直径最大200kmのエリアをカバーできるとされています。成層圏の高所から見下ろすように電波を照射するため、地上の基地局が壊れている場所の上からでも覆えるという考え方です。
- 設置場所は地面ではなく高度約17〜19kmの成層圏
- 1機で直径最大200kmをカバー
- 搭載されるのは4G LTE相当の基地局
- 利用者側の機器は手持ちのスマホのまま
実際にどこまで使えた? 通信速度と試せた内容
試験で記録された通信速度は下り最大36Mbps、上り4.8Mbpsです。光回線の数百Mbps と比べれば控えめですが、災害時に必要なことはこの範囲でおおむね足ります。
確認された通信内容は具体的です。音声通話は100回発信して100回成功、SMS の送受信、Web ブラウジング、LINE、Zoom のビデオ通話、YouTube の動画視聴といった大容量通信まで通っています。
さらに海上保安庁の協力のもと、118番(海上保安庁への緊急通報)の試験も実施されました。大規模災害を想定した緊急速報メール(地震速報・津波警報など)が安定して動くことも確認されています。
自分の使い方に当てはめると、こう整理できます。安否確認の通話と SMS、避難情報の受け取り、地図や自治体サイトの確認は問題なく、家族とのビデオ通話も通る水準です。一方で、平常時の光回線やフルの5G と同じ速さを期待する話ではありません。
これは試験の成功であって、サービスが始まったわけではありません。日本全土を覆うのに何機必要かという具体的な機数は公表されておらず、今後の整備状況次第です。速度も試験で記録された値で、商用時の条件を示したものではありません。
付随して確認された「世界初」の技術は?
同日の発表では、スマホとの直接通信以外にも世界初とされる検証結果が公開されています。
ひとつは、HAPS 経由でのドローンの自動飛行制御・位置情報送信・映像伝送です。被災地上空のドローンを、地上の基地局が使えない場所でも動かせる余地が出てきます。
もうひとつが成層圏エッジコンピューティングです。エッジコンピューティングとは、遠くのクラウドに送らず近くの機器でデータを処理する方式のこと。HAPS にモバイルコアとサーバーを搭載し、スマホのデータをクラウドを経由せずに処理した結果、往復平均応答時間は68ミリ秒、クラウド処理と比べて40%以上の遅延低減が確認されました。
加えて、室戸市から HAPS に載せた反射鏡へのレーザー測距・追尾も世界初として実施されています。数十km離れた成層圏の飛行体を地上から正確に追い続ける技術です。
いつから使えるようになる? 商用化までの見通し
時期の話は、目標として語られている段階です。ソフトバンクは2025年6月26日のプレスリリースで、2026年に日本国内で LTA 型 HAPS の「プレ商用サービス」を開始すると発表していました。想定用途は大規模災害時の通信復旧と、山間部・離島のデジタルデバイド解消です。
そして今回の2026年9月30日の発表では、2027年以降の国内商用化を目指すとしています。商用化の当初はまず災害時の緊急通信としての利用から始め、数年後をめどに日本国内での運用拠点設立を構想しているとされています(この拠点の話は未確定の将来計画です)。
さらに先の構想もあります。2027年には低軌道衛星と HAPS の間で双方向の光無線通信を検証する予定で、地上の通信網・HAPS・衛星を組み合わせた「3次元通信ネットワーク」を見据えています。高さの違う三層で電波の道を用意しておく、という考え方です。
注意しておきたいのは、2027年以降という時期が複数の報道で「目指す」という表現で語られている点です。確定したサービス開始日ではありません。
HAPS を待つ間、いまの端末でできることは?
空飛ぶ基地局が実際に使えるようになるのは数年先です。その間に備えられることは、手元の設定の中にあります。
- 緊急速報メールの受信設定がオンになっているか
- 家族の連絡先と待ち合わせ場所を、電波がなくても見られる形(端末内のメモ・紙)で持っているか
- オフラインで見られる地図を落としてあるか
- モバイルバッテリーの残量と、充電ケーブルの本数
今回の試験で緊急速報メールの安定動作が確認されたことは、将来 HAPS が運用されたときにこの経路が生きるという意味でもあります。受信設定を切ったままにしていると、どの経路から届いても気づけません。
仕組みがわかると、備えの考え方も変わります。電波が一本道ではなくなる方向に進んでいる、という前提で手元を整えておけば十分です。
よくある質問
HAPSを使うのに専用の端末や機器は必要ですか?
必要ありません。HAPSに搭載された基地局は地上の基地局と同じ周波数帯を使うため、手持ちの既存スマートフォンやIoT機器がそのまま通信できます。試験では、手を加えていないデバイスへの直接接続に成功したと発表されています。
HAPSはどのくらいの高さを飛んでいますか?
2026年9月の試験では、日本上空での飛行高度は約17〜19kmで、これは旅客機が飛ぶ高度より高い成層圏にあたります。位置は高知県室戸市・室戸岬沖の、岸から約10km沖合でした。
HAPS経由の通信速度はどのくらいですか?
2026年9月30日にソフトバンクが発表した試験結果では、下り最大36Mbps、上り4.8Mbpsが記録されました。音声通話、SMS、Webブラウジング、LINE、Zoomのビデオ通話、YouTubeの動画視聴まで利用できたと発表されています。
HAPSはいつから実際に使えるようになりますか?
ソフトバンクは2027年以降の国内商用化を目指すとしていますが、確定したサービス開始日ではありません。商用化の当初は災害時の緊急通信としての利用から始める想定とされています。
※記事で使用した内容・数値は変更される場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。