IP68とは?お風呂・プールでスマホが壊れる理由
画像出典: 写真: OutdoorMen(CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons)
IP68は防塵最高等級と「規定の水深・時間の水没に耐える」防水等級を示す表示で、水深と時間はメーカーが自ら設定します。試験は研究所で常温の真水を使った静止水没であり、お風呂の湯気、プールの塩素、海水、石鹸、シャワーの水流はいずれも試験条件の外です。水濡れによる故障はメーカー保証の対象外になるため、濡らさない前提で扱うのが安全です。
IP68の表示は「水に入れて使える」という意味ではありません。正確には、決められた条件の水槽に沈めて壊れなかった、という試験の結果です。その条件がどれくらい限定的なのかを知ると、夏にやりがちな使い方のいくつかが、かなり際どいものだと分かります。
正直なところ、この誤解はメーカー側の見せ方にも一因があります。イタリアでは2020年、防水性能の広告表現が誤解を招くとして、Apple社が競争当局から1000万ユーロの制裁金を課された事例もありました。ここでは表示の中身を分解して、どこまでが保証された話でどこからが自己責任なのかを整理します。
IP68とは?2つの数字が何を表しているのか
IPは Ingress Protection Code の略で、日本ではJIS C 60529(国際規格IEC 60529に対応)として規定されています。IPに続く2桁の数字は、それぞれ別のものを表します。1桁目が防塵等級、2桁目が防水等級です。
| 6(1桁目) | 防塵の最高等級。密閉した試験装置の中を負圧にし、約2〜8時間粉塵にさらしても内部に一切侵入しない |
|---|---|
| 8(2桁目) | 規定の水深・規定の時間の水没に耐える等級。水深と時間はメーカーが独自に設定できる |
電気安全環境研究所(JET)の公表情報をもとに作成
引っかかるのは2桁目です。IP67は「水深1m・30分」と数値が固定されているのに対し、IP68は水深も時間もメーカーが決めてよいことになっています。つまりIP68という表示だけでは、その端末がどこまで耐えるのかは分からないということです。
同じIP68でも耐える水深は機種ごとに違う
実際にどれだけ差があるのか、Appleが公表しているiPhoneの条件を並べてみます。すべて真水(fresh water)での試験値です。
| iPhone 12 / 12 Pro / 12 Pro Max 以降の上位モデル | IP68:最大水深6メートル・最大30分 |
|---|---|
| iPhone 11 Pro / 11 Pro Max | IP68:最大水深4メートル・最大30分 |
| iPhone 11 / XS / XS Max | IP68:最大水深2メートル・最大30分 |
| iPhone SE(第2・3世代) / XR / X / 8 / 7 系 | IP67:最大水深1メートル・最大30分 |
Apple公式サポートの公表データをもとに作成
上の表のとおり、同じ「IP68」の中に水深2mから6mまで3倍の開きがあります。手元の端末が何メートル想定なのかは、メーカーの仕様ページを見ないと分かりません。IP68という文字列は、等級の名前であって性能の数値ではない、というのがここでの要点です。
試験条件の「真水・常温・静止」から外れる場面
水深の数字よりも、水の中身と状態のほうが端末には効きます。IP試験は研究所の中で、常温の真水を張った水槽に静かに沈めて行われます。Apple公式も、この等級は「水泳・シャワー・海水・プール・石鹸・蒸気・水圧・繰り返しの水濡れに対する安全性を意味しない」と明記しています。夏に起きやすい場面を、条件から外れる理由と一緒に見ていきます。
お風呂・温泉:高温と蒸気が条件外
試験は常温の水が前提で、お湯は想定されていません。温度が高いと内部と外気の温度差で結露が生じやすく、湯気は水滴より細かい形で隙間に入り込みます。さらに温度変化の繰り返しは、防水を担っているパッキン(接合部の隙間を埋めるゴム状の部品)の劣化を早めます。動画を見ながら長風呂、という使い方は条件から二重に外れています。
プール・海水:塩素と塩分が金属を侵す
プールの塩素も海水の塩分も、真水にはない腐食性を持っています。海水の塩分濃度は約3.5%あり、水分が乾いても塩は結晶として残ります。その場では動いていても、コネクタや端子、内部のはんだ接合部が数週間かけて腐食し、後から症状が出るのが海水の怖いところです。
石鹸・シャンプー・日焼け止め:シーリング材を弱らせる
石鹸やシャンプーに含まれる界面活性剤(油汚れを水に溶け込ませる洗浄成分)は、隙間をふさぐシーリング材の劣化を早めます。石鹸水は真水よりパッキンを傷めるということです。Appleは石鹸・洗剤・酸性食品のほか、香水、虫よけ、化粧品、日焼け止め、オイル、毛染め剤、溶剤への曝露も最小限にするよう案内しています。夏に手に付きやすいものが、そのまま並んでいます。
シャワー・水上スキー:水圧と水流が加わる
試験は静止した水に沈めるだけで、流れも圧力もかかりません。シャワーの水流やマリンスポーツ中の飛沫は、局所的に強い圧力を隙間へ押し当てます。Apple公式が水圧と水泳を明示的に除外しているのは、この違いによるものです。
Apple公式は「防塵・防水性能は永続的な状態ではなく、通常の使用による経年劣化で低下する可能性がある」と注記しています。落下の衝撃、日々の温度変化、パッキンの経年変化で、新品時の等級はそのまま維持されません。そして水濡れによる損傷はメーカー保証(Warranty)の対象外です。等級を根拠に「壊れても直してもらえる」とは考えないほうが安全です。
どう付き合えばいいのか:現実的な線引き
ここまでを踏まえると、IP68の価値は「水に入れて使うため」ではなく「うっかり濡れたときに助かるため」の保険だと分かります。線を引くなら、こうなります。
- 急な雨に降られた、手が濡れたまま操作した
- 洗面所で水はねを浴びた、飲み物を少しこぼした
- 汗をかいた手で持ち続けた
- 浴室・サウナへの持ち込み(高温と蒸気)
- プール・海での水中撮影(塩素・塩分)
- シャワーで洗い流す(水流と水圧)
- 石鹸・日焼け止め・虫よけが付いた手での長時間操作
それでも水辺で使いたいなら、端末そのものを濡らさない方向で解決するのが結局は安上がりです。防水ケースや防水ポーチに入れる、水中撮影は専用のアクションカメラに任せる、といった切り分けが現実的です。
濡らしてしまったときは何をすればいい?
やってしまった後の対応で、被害の大きさはかなり変わります。特に致命的なのが、濡れたまま充電することです。
- すぐ電源を切る通電したまま水分が内部に残っていると、回路がショートして基板側が壊れます。
- 真水ですすぐか判断する海水やプール、石鹸水で濡れた場合は、塩分や薬剤を残さないほうが被害が小さくなります。付着したまま乾かすと結晶が残って腐食が進みます。
- 柔らかい布で外側の水分を拭き取る端子部分は特に丁寧に。振り回して水を飛ばすと、かえって奥へ押し込むことがあります。
- 風通しのよい場所で乾かすドライヤーの熱風や電子レンジ、乾燥剤に埋めるといった方法は内部を傷めるおそれがあります。
- 充電は最低5時間以上あけてからApple公式が、充電前に最低5時間の乾燥期間を推奨しています。急いで充電するのが一番危険です。
確認したい気持ちを5時間だけ我慢できるかどうかが、分かれ目になります。電源を入れて正常に見えても、内部に水分が残っていれば数日後に腐食で症状が出ることがあります。乾燥を待ってから起動し、その後しばらくは充電やスピーカーの音に異常がないか気にかけておくと安心です。
結局、IP68はどう読めばいいのか
まとめると、IP68は「粉塵は完全に防ぎ、メーカーが定めた水深と時間の水没には研究所の条件下で耐えた」という表示です。そこには常温・真水・静止という三つの前提が隠れていて、夏の水辺はそのどれもが崩れます。
防水等級は、水に入れる許可証ではなく、うっかりに対する保険です。そう捉え直すだけで、夏の使い方の判断はかなり楽になります。水中で撮りたい場面があるなら、端末を濡らさない道具を一つ挟む。それが手元の端末を長く使う一番静かな方法です。
よくある質問
IP68とIP67は何が違いますか?
防塵等級の6は同じで、違うのは防水等級です。IP67は「水深1m・30分」と条件が固定されているのに対し、IP68は「規定の水深・規定の時間の水没に耐える」等級で、その水深と時間はメーカーが独自に設定します。そのためIP68同士でも、機種によって想定水深が2mから6mまで異なります。
IP68のスマホをお風呂で使ってもいいですか?
推奨できません。IPの防水試験は常温の真水を使った静止状態の水没が前提で、お湯の温度や湯気は試験条件に含まれていません。高温は内部結露を招き、温度変化の繰り返しは防水パッキンの劣化を早めます。Apple公式も、等級は蒸気に対する安全性を意味しないと明記しています。
海やプールで濡れた後、動いていれば問題ないですか?
その場で動いていても安心はできません。海水の塩分(濃度約3.5%)やプールの塩素は腐食性が高く、乾いた後も塩が結晶として残り、コネクタや端子、はんだ接合部を時間をかけて侵食します。症状が数週間後に出ることもあるため、濡れた直後に真水ですすいで薬剤や塩分を落としておくことが有効です。
水濡れで壊れた場合、メーカー保証は使えますか?
使えません。Apple公式は水濡れによる損傷を保証(Warranty)の対象外としています。防水等級はあくまで研究所での試験結果であり、防水を保証するものではないためです。水濡れの補償が必要な場合は、有償の保証サービスやスマホ保険など別の手段を検討することになります。
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