Auracast対応イヤホン、1台のスマホで何台まで聞ける?
画像出典: すしぱく / ぱくたそ
Auracastは、Bluetooth LE Audioに含まれるブロードキャスト機能で、1台の送信機から範囲内にある任意の台数のイヤホンへ同じ音声を同時に配信できます。Wi-Fiのアクセスポイントを選ぶのと同じように「放送を選んで参加する」方式で、送信側と受信側の両方がAuracast対応である必要があります。iPhoneは2026年10月時点でAuracastを標準搭載していません。
イヤホンの片側を渡すと、音は左右どちらかだけになり、ノイズキャンセリングも片方しか働きません。有線の分岐プラグを持ち歩くのも、完全ワイヤレスが主流になった今では現実的ではなくなりました。
正直なところ、これはBluetoothの作りに理由があります。従来のBluetoothオーディオは「送信機1台と受信機1台を結ぶ」ことを前提にした規格で、同じ音を2人以上で聞くという使い方が想定に入っていませんでした。その前提を「1対多の放送」に組み替えたのが、Auracast(オーラキャスト)です。
仕組みと、今どこまで使えるのかを順に見ていきます。
Auracastとは?
Auracastは、Bluetooth技術の標準化団体であるBluetooth SIGが策定した「Bluetooth LE Audio」規格に含まれるブロードキャスト(放送)機能です。仕様上はPublic Broadcast Profile(PBP)として規定されています。
できることを一言でいえば、1台の送信機から、範囲内にある任意の台数の受信機へ、同じ音声を同時に配信することです。送信機になれるのはスマホ・テレビ・公共施設のPA(館内放送)システムなど。受信機はイヤホン・ヘッドホン・補聴器です。
ここが従来との決定的な違いです。これまでのBluetoothイヤホンは、スマホと「握手」して1対1の回線を結んでいました。だから相手は常に1台で、2人目が入る余地がありません。Auracastは握手をやめて、ラジオのように音声を電波に乗せて流し続けます。聞きたい人がその放送に合わせれば、何人でも同じ音を受け取れます。
放送は複数が同時に存在でき、受信側は自分が参加するものを選びます。感覚としてはWi-Fiのアクセスポイント選びに近く、空港やカフェで複数のネットワーク名が並ぶなかから1つを選んでつなぐのと同じ操作です。Auracastでは、電波の届く範囲にある放送の一覧から、聞きたいものを1つ選んで参加します。
音声の圧縮にはLC3(Low Complexity Communication Codec)というコーデックが使われます。LE Audio規格が標準として定めているもので、Auracastもこれに従います。
Auracastの3つの役割とは?
仕様では、関わるデバイスに3つの呼び名が付いています。設定画面やメーカーの対応表でもこの言葉が出てくるので、先に渡しておきます。
- トランスミッター:音声を配信する側。スマホ、テレビ、公共施設のPAシステムなど
- レシーバー:音声を受け取る側。イヤホン、ヘッドホン、補聴器
- アシスタント:レシーバーが放送を見つけて参加するのを助ける役。スマホのアプリなどが担う
注目したいのはアシスタントです。イヤホンには画面がなく、自分だけでは放送の一覧を表示できません。そこでスマホが代わりに一覧を出し、「この放送につなぎなさい」とイヤホンへ指示を渡します。自分のスマホが送信機と受信補助を兼ねる場面もあり、1台が2つの役割を持つこともあります。
Auracastの放送に参加する方法は?
公式に想定されている参加のしかたは、大きく3通りです。
- 一覧から選ぶWi-Fiネットワークを探すのと同じように、周囲の放送をスキャンして名前から選びます。
- QRコードを読み取る掲示されたQRコードをスマホで読み取り、その放送に参加します。会場や施設で案内しやすい方法です。
- タップして参加する非接触決済のように、端末を所定の場所にかざして参加します。
いずれも共通しているのは、放送する側と聞く側が事前にペアリングしなくていいという点です。知らない人同士で機器を登録し合う必要がないので、公共の場で成り立ちます。
どんな場面で役に立つ?
Bluetooth SIGが公式に挙げている使い方には、次のようなものがあります。
- 空港や駅のアナウンスを、館内スピーカー越しではなく自分のイヤホンで直接、明瞭に聞く
- 美術館・博物館の音声ガイドを、貸出機器ではなく自分のイヤホンで聞く
- ジムに並んだ複数のテレビから、見たい画面の音声だけを選んで聞く
- 家庭の多言語放送・二重音声放送を、家族それぞれが好きな言語で同時に聞く
- 1台のスマホで再生している音楽やポッドキャストを、同じ部屋にいる複数人がそれぞれのイヤホンで同時に聴く
最後の使い方が、移動中のシェアリスニングにそのまま当てはまります。新幹線や車内で1台のスマホで動画を再生し、同行者がそれぞれ自分のイヤホンで音声を受け取る——イヤホンを分け合わなくても、全員が左右そろった音で聞ける形です。
国内でも取り組みが始まっています。イヤホンガイド・ヒビノ・東芝情報システムの3社は2026年6月15日、Auracastを活用した歌舞伎・伝統芸能向けの次世代解説システムの提供を目指すと発表しました。言語・年齢・障がいの有無を問わず多様な来場者が観劇を楽しめる体験をつくることが目的とされています。オフィスでの導入例としては、GN Hearing Japanが社内にAuracast broadcast audioを導入した事例がBluetooth SIGの公式ブログで紹介されています。
鉄道事業者がAuracastを車内放送に導入した事例は、現時点では確認できていません。移動中の使い方として挙げたのは、あくまで自分のスマホを送信機にして同行者と音声を分け合う形です。車内アナウンスを自分のイヤホンで聞けるようになるかどうかは、今後の導入次第です。
Auracastに対応しているスマホ・イヤホンは?
ここが実際に使えるかどうかの分かれ目です。Auracastは送信側と受信側の両方が対応していないと成立しません。イヤホンだけ対応していてもスマホから放送できず、逆も同じです。
送信側(スマホ・テレビ)
Androidでは、Android 16以降およびSamsungのOne UI 7(Android 15ベース)でAuracastのサポートが進んでいます。Pixel 9などAndroid 16ベータ以降の端末での対応が案内されてきました。国内発売のAndroidスマホでも、AQUOS R8やGoogle Pixel 8aなど一部機種がAuracast送信対応をアナウンスしています。ただしこれはメーカー発表ベースで、機種ごとに対応状況が異なるため個別の確認が必要です。
テレビではPhilipsが、2026年発売のテレビ全ラインアップにAuracastを搭載すると発表しています(2026年夏発売予定)。
受信側(イヤホン・ヘッドホン・補聴器)
Auracast受信対応をアナウンスしている製品には、Technics EAH-AZ100、EarFun Air Pro 4+、Sony WF-1000XM6、Bowers & Wilkins Pi8/Pi6(アップデートでの対応)などがあります。
補聴器では、GN Hearing、Starkey、Phonak、Oticon、SigniaといったメーカーがLE Audio/Auracast対応のラインアップを順次拡大しています。補聴器にとってAuracastは、施設の放送を雑音の多い空間を経由せずに耳元へ直接届ける手段になるため、イヤホン以上に実用上の意味が大きい分野です。
iPhoneは2026年10月時点で使えません
iPhone・iOSは、2026年10月時点でAuracastを標準搭載していません。Appleは2026年のWWDC(iOS 27に関する発表)でもAuracast対応を発表しておらず、iPhoneでAuracastを使う機能やアプリは現時点では利用できません。
将来的にBluetoothチップ側でLE Audioに対応するのではという見方はありますが、Appleからの公式発表はありません。iPhoneユーザーが今日できるのは「対応したら使える」と知っておくところまでで、そのためにイヤホンを買い替える段階ではありません。
今、買い替えなくていい条件は?
Auracastは魅力的な機能ですが、これを目的に手持ちの機器を買い替える必要があるかは分けて考えたほうがいいです。次のどれかに当てはまるなら、急ぐ理由はありません。
- 送信側に使いたい端末がiPhoneである(対応していないため、イヤホンだけ揃えても使えません)
- 一緒に聞く相手のイヤホンが未対応(放送する側が対応していても、受け取る側が対応していなければ参加できません)
- 音声を分け合う機会が年に数回程度(その頻度なら、交代で聞く・スピーカーが使える場所を選ぶで足ります)
- 手持ちのイヤホンがアップデートで対応する可能性がある(Pi8/Pi6のようにファームウェア更新で対応した例があるため、まずメーカーの告知を確認する)
逆に、次にイヤホンを買い替える予定がもともとあって、送信側がAndroid 16以降の端末なら、対応製品を選んでおくと選択肢が広がります。新しく買うときの判断材料として覚えておく、という距離感がちょうどいい機能です。
対応機器は増えている段階で、公共施設での導入も始まったところです。しくみを知っておけば、店頭で「Auracast対応」の表記を見たときに、それが自分に意味があるかどうかを自分で判断できます。
よくある質問
Auracastでは何台のイヤホンまで同時に聞けますか?
Bluetooth SIGの公式解説では、1台の送信機から電波の届く範囲にある任意の台数の受信機へ同時に配信できるとされています。従来の1対1のBluetooth接続と異なり、受信する側の台数に制限を設けない放送型の方式です。
iPhoneでAuracastは使えますか?
2026年10月時点で、iPhone・iOSはAuracastを標準搭載していません。Appleは2026年のWWDCでもAuracast対応を発表しておらず、iPhoneでAuracastを利用する機能やアプリは提供されていません。将来の対応について公式の発表はありません。
Auracastを使うには何が必要ですか?
音声を配信する送信側(スマホやテレビなど)と、受信する側(イヤホン・ヘッドホン・補聴器)の両方がAuracastに対応している必要があります。片方だけが対応していても音声を共有できません。
Auracastの放送にはどうやって参加しますか?
公式に想定されているのは、Wi-Fiのネットワークを探すように周囲の放送をスキャンして選ぶ方法、掲示されたQRコードを読み取る方法、非接触決済のように端末をかざして参加する方法です。放送する側との事前のペアリングは不要です。
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