開放型ノイズキャンセリング、密閉しないのに効く理由
画像出典: オーディオテクニカ
開放型のノイズキャンセリングは、耳を密閉して逆位相の音で打ち消す従来方式とは別で、信号処理によって低い帯域の背景音を減衰させる方式です。空調音やPCのファン音、外の走行音のような単調で低い音には効きやすく、人の声など高い音は構造上そのまま通り抜けます。周囲の音に気づける状態を保ったまま雑音だけ下げたい人に向き、電車や飛行機で音を完全に遮りたい人には向きません。
在宅で仕事をしていると、静けさと「気づけること」がぶつかります。エアコンの低い唸りやPCのファン音は消したい。でも宅配のチャイムや、隣の部屋からの呼びかけは拾いたい。この二つを同時に満たす手段が、これまではあまりありませんでした。
そこに出てきたのが、耳をふさがない開放型(オープンエア型)の構造にノイズキャンセリングを載せた製品です。オーディオテクニカが2026年9月18日に発売した「ATH-AL5NC」(39,600円・税込)がそれにあたります。正直なところ、密閉しないのにノイキャンが成り立つというのは直感に反します。まずはそこから見ていきます。
そもそも普通のノイズキャンセリングは何をしている?
先に、いま多くの人が使っている密閉型のしくみを確認します。ここが分かると、開放型が何を変えたのかがはっきりします。
密閉型のヘッドホンは、イヤーパッドで耳をふさいで小さな密室をつくります。その外側にあるマイクが周囲の音を拾い、逆位相——波の山と谷をちょうど入れ替えた音——をスピーカーから出します。山と谷が重なれば波は打ち消し合い、耳に届く音が小さくなる。これがアクティブノイズキャンセリング(ANC)の基本で、音を物理的に相殺しているわけです。
この方式が成り立つ条件が、耳をふさいだ密閉空間です。打ち消しは波を正確に重ね合わせて初めて働くので、耳のまわりが開いていて音の通り道が定まらないと、狙った場所でぴたりと重ねることができません。つまり開放型では、原理的に「完全な逆位相打ち消し」は成立しにくい。ここが出発点です。
開放型はどうやって雑音を減らしているのか?
ATH-AL5NCが使っているのは「ノイズリダクションモード」と呼ばれる、密閉空間を作らずに信号処理で雑音を減らす方式です。耳の外で音波を相殺しに行くのではなく、ヘッドホンが扱う音声の経路の中で、低い周波数帯の背景音を減衰させます。オーディオテクニカの説明では、生活音や空調音、移動中の雑踏といった不要なノイズだけを低減し、必要な音には自然に気づける設計、とされています。
イメージとしては、遮音カーテンで部屋を閉め切るのではなく、入ってくる音のうち低く唸っている成分だけをつまんで音量を下げるような動き方です。部屋の窓は開いたまま。だから開放感も、外の気配も残ります。
この違いは、効く音と効かない音の差になって現れます。
どんな音に効いて、どんな音は通り抜ける?
効きやすいのは波長の長い中低域です。エアコンや換気扇の音、PCのファン、窓の外を走る車の音、雑踏の低いざわめき。どれも一定して鳴り続ける、輪郭のない音です。
一方で、人の声や高い音は開放構造のまま通り抜けます。減らす効果は限定的とみられます(この効き方の傾向は海外レビューによる分析で、周波数ごとにどれだけ減るかという定量データは公式には公開されていません)。
- 効きやすい: 空調音・換気扇・PCのファン音
- 効きやすい: 窓の外の走行音、雑踏の低いざわめき
- 通り抜ける: 家族の呼びかけ、子どもの声
- 通り抜ける: インターホン、宅配の呼び出し
「高い音が抜けてしまう」と書くと弱点のようですが、在宅ワークや家事の場面では、これがそのまま目的になります。消したいのは唸り続ける雑音で、聞き逃したくないのは人の声とチャイム。効く帯域と効かない帯域が、ちょうどその線で分かれているということです。
音漏れはどうなる?「音漏れ抑制モード」の役割
開放型で気になるのが逆方向、つまり自分の音が外へ漏れることです。耳をふさいでいない以上、音量を上げれば周囲に届きます。
ATH-AL5NCには「音漏れ抑制モード」が別に用意されていて、高音域を抑えることで外に漏れる音を軽くします。ノイズリダクションが外から入る低い音を減らすのに対し、こちらは中から出る高い音を減らす。役割が逆向きの二つが載っている形です。
電車や飛行機のような高騒音の場所で、周囲を完全に遮断して集中したい人には向きません。遮音と逆位相打ち消しを組み合わせた密閉型ANCのほうが、騒音を減らす量そのものは大きくなります。人の話し声のような高域中心のノイズを強く抑えたい用途も同じです。
また、音漏れ抑制モードがあるとはいえ密閉型ほどの遮蔽は期待できません。静かなオフィスなど周囲に人がいる場所では、音量への配慮が必要です。
在宅で使うなら、どの機能が効いてくる?
実際の使い方で意味が変わってくるのがスタンドアローンモードです。これはBluetoothに接続せず、ヘッドホン単体でノイズキャンセリングだけを動かす使い方で、最大約100時間使えます。Bluetooth接続をしないぶん消費電力を抑えられるため、音楽を鳴らさずに周囲の雑音だけ下げたい作業中や読書のときに向く、と公式に説明されています。
音楽を聴きながらの場合は、NC ON時で最大約50時間、NC OFF時で最大約75時間。フル充電は約3.5時間で、15分の急速充電でも約8時間(NC OFF時)再生できます。1日の在宅勤務でバッテリー残量を気にする場面はほぼ出てこない水準です。
装着面では、開放型は耳をふさがないぶん蒸れや圧迫感が少なく、長時間でも耳が疲れにくいという特性があります。重さは約240g。ほかに、専用アプリ「Connect」でのイコライザー調整、2台同時につなげるマルチポイント接続、低遅延モード、自然音を流すサウンドスケープ機能、プライベートタイマー、本体キーへの操作割り当て、紛失防止機能を備えています。
主要スペック
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 型式 | オープンエアーダイナミック型 |
| ドライバー | φ53mm |
| 出力音圧レベル | 103dB/mW |
| 再生周波数帯域 | 20〜40,000Hz |
| インピーダンス | 52Ω |
| 通信方式 | Bluetooth標準規格Ver.5.3準拠 |
| 最大通信距離 | 見通しの良い状態で10m以内 |
| 使用周波数帯域 | 2.4GHz帯(2.402〜2.480GHz) |
| 充電時間 | 約3.5時間 |
| 連続使用時間 | 最大約50時間(NC ON時)、最大約75時間(NC OFF時) |
| 質量 | 約240g |
オーディオテクニカの公表データをもとに作成
上の表で目を引くのは再生周波数帯域の上限と、対応しているコーデック(音楽をBluetoothで飛ばすときに音声データを圧縮・復元する方式のこと。どれに対応するかで運べる情報量が変わります)です。もっとも情報量の多いLDAC(最大96kHz/24bit、ハイレゾ相当のデータを送れる方式)に加え、iPhoneなどで広く使われるAAC、すべてのBluetooth機器が備える基本のSBCに対応しており、雑音対策の製品でありながら音そのものを落としていません。
買う前に自分で確かめる順番は?
スペックを見比べる前に、自分がどの音に困っているかをはっきりさせるほうが早く決まります。
- 困っている音を1日メモする作業中に気が散った瞬間、その音が何だったかを書き出します。エアコン・ファン・車なのか、話し声・テレビなのか。
- 低い音が多数派なら開放型が候補唸り続ける音が大半なら、開放型の効く帯域と一致します。話し声が大半なら密閉型のほうが期待に合います。
- 「聞き逃したくない音」があるか確認するインターホン、家族の呼びかけ、子どもの様子。ひとつでもあるなら、耳をふさがない構造の価値が出ます。
- 使う場所を思い浮かべる自宅なら音漏れの制約は緩やかです。共有オフィスやカフェが主戦場なら、音量を上げられない前提で考えます。
- 可能なら試聴する効き方は環境と個人差が大きい領域です。店頭で空調の音がどう変わるかを聞くのが、いちばん確実な判断材料になります。
ノイズキャンセリングは長いあいだ「どれだけ静かにできるか」で競ってきました。そこに、静けさの量ではなく消す音を選ぶという方向が加わったのが今回の製品です。密閉して遮る、開放して全部聞く、の二択だったところに第三の選択肢が置かれた、という位置づけで各メディアも報じています。
自分の作業環境にどの音が流れているか。まずそこを知ってから決めれば十分です。
よくある質問
開放型のノイズキャンセリングは密閉型より効果が弱いのですか?
騒音を減らす量そのものは密閉型ANCのほうが大きくなります。密閉型は耳をふさぐ遮音と逆位相の打ち消しを組み合わせるのに対し、開放型は信号処理で低い帯域の背景音を減衰させる方式のため、電車や飛行機のような高騒音下での遮断力では及びません。ただし開放型は周囲の音に気づける状態を保てるという、密閉型にはない利点があります。
開放型ノイズキャンセリングで人の声は消えますか?
人の声や高い音は開放構造のため通り抜けやすく、低減効果は限定的とみられます。家族の呼びかけやインターホンを聞き逃したくない在宅ワーク・家事の場面ではこれが利点になりますが、周囲の話し声を抑えたい用途には向きません。
ATH-AL5NCの発売日と価格は?
オーディオテクニカのワイヤレスヘッドホン「ATH-AL5NC」は2026年9月18日(金)発売で、価格は39,600円(税込)です。公式オンラインストア等で販売されています。
音楽を聴かずにノイズキャンセリングだけ使えますか?
使えます。ATH-AL5NCはBluetoothに接続せずヘッドホン単体でノイズキャンセリングのみを動作させるスタンドアローンモードを備え、最大約100時間使用できます。Bluetooth接続をしないぶん消費電力を抑えられるため、音楽を再生せず周囲の雑音だけ抑えたい作業や読書に適すると公式に説明されています。
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