アクティブリコール 覚え方の手順と1日5分の練習量
画像出典: すしぱく / ぱくたそ
アクティブリコールは、教材を閉じて白紙に思い出す練習に切り替える学習法です。Roediger & Karpicke(2006)では、読み返しを繰り返した群の1週間後の保持率40%に対し、想起を繰り返した群は61%でした。練習は1回5〜10分の短さで足り、同じ時間を数日に分けたほうが記憶に残りやすいとされています。
読んだ回数を増やしても手が止まるとき、足りないのは読む量ではなく「教材を見ずに思い出した回数」です。読んでいる最中は文字が目の前にあるので、頭は「知っている」と判断します。ところが試験本番でも問題集でも、目の前に答えはありません。
この差を埋めるのがアクティブリコール(教材を閉じて記憶から引き出す練習。想起練習・検索練習とも呼ばれます)です。正直なところ、読み返すより疲れます。そのかわり、かかる時間は1回5〜10分で済みます。
ここからの手順は、まとまった時間が取りにくい社会人を基準に、1回5〜10分の細切れで回せる形で書きます。平日に机に向かえる学生の場合は、同じ手順を科目ごとに繰り返す使い方になります(後半で分けて説明します)。
アクティブリコールとは? 読み返しと何が違うのか
アクティブリコールは、教材を閉じた状態で内容を思い出す練習を学習の中心に置くやり方です。読む・線を引く・まとめノートを作る、といった作業はすべて教材を「見ながら」行いますが、アクティブリコールだけは見ずに行います。この一点が違いのすべてです。
イメージとしては、参考書を読むのが「地図を眺めること」だとすれば、アクティブリコールは「地図を閉じて道順を口に出すこと」に近い作業です。眺めているあいだは道を知っている気がしますが、言えるかどうかは閉じてみないとわかりません。
研究では保持率がどれくらい違う?
Roediger & Karpicke(2006)は、文章を「読むだけ」で繰り返した群と、「読んだ後に自己テスト(想起)」を繰り返した群を比べました。学習直後のテストでは読むだけの群が有利でしたが、1週間後には逆転しています。1週間後の記憶保持率は次のとおりです。
| 学習のしかた | 1週間後の記憶保持率 |
|---|---|
| 読んだ後に自己テストを繰り返す | 61% |
| 3回読み+1回の自己テスト | 56% |
| 読み返しのみを繰り返す | 40% |
Roediger & Karpicke(2006)の公表データをもとに作成
上の表で目を引くのは、自己テストを繰り返した群と読み返しのみの群で21ポイントの差がついている点です。さらに注目したいのは、直後のテストでは読むだけの群のほうが成績が良かったことです。つまり読み返しは「今できている感じ」を作るのが上手い。これは熟達の錯覚(illusion of competence/理解した気になる現象)と呼ばれ、学習者が読み返しを選びがちな理由として説明されています。
手法の比較でも同じ方向の結果が出ています。Dunlosky et al.(2013)のレビューは10種類の学習法を精査し、自己テスト(practice testing)と分散学習(distributed practice)の2つを最高評価とし、要約・ハイライト・単なる再読を低評価としました。2021年には、242研究・169,179人分のデータを集めて統計的にまとめ直す分析(メタ分析)も行われ、全体平均の効果量は0.56と報告されています。効果量は学習法を使った群と使わなかった群の差の大きさを表す指標で、教育研究では0.5前後あれば実用的な差があるとみなされる水準です。
初めて触れる分野で、そもそも書いてある意味がわからない段階では、思い出そうにも中身がありません。1回目は普通に読んで理解する時間です。切り替えるのは「一度読んで、わかったつもりになった後」から。低評価とされたのは、理解した後も読み返しだけを続ける進め方です。
アクティブリコールの具体的な進め方は? ブレインダンプの4ステップ
いちばん道具がいらないのが、白紙に覚えている内容を書き出すブレインダンプ(brain dump/思い出せることを全部書き出す自由再生)です。必要なのは紙とペンだけで、1分間の短縮版も紹介されています。
- 1単元を読む章・節など、区切りのよい範囲をいつもどおり読みます。線を引いてもかまいません。
- 教材を閉じるここが手順の本体です。閉じる、裏返す、画面を消す。見えない状態を作ります。
- 白紙に5分書き出す覚えている用語・定義・手順・数字を、順番も体裁も気にせず書き出します。思い出せずに止まった箇所には印を付けておきます。
- 開いて答え合わせ教材を開き、書けなかった箇所・間違えた箇所だけを読み直します。全部読み直さないのがコツです。
ステップ3で手が止まる感覚は、失敗ではなく目的のほうです。止まった箇所こそ、読み返しでは見つけられなかった穴だからです。
何も出てこない状態への対処は、問いを細かくすることです。「この章の内容」では広すぎるので、「この章に出てきた用語を3つ」「手順を最初から順に」のように、答えの形が決まる問いに変えます。書き出す代わりに声に出して説明するのでも、教材を見ていなければ同じ練習になります。
フラッシュカードを使うならライトナーシステム
用語と定義、単語と訳のように1対1で覚えるものは、カードのほうが回しやすくなります。ライトナーシステム(1970年代にドイツのセバスチャン・ライトナーが考案した方式)は、表に問題・裏に答えを書いたカードを箱で仕分けます。
- 正解したカード → 次の箱(復習間隔が長い箱)へ移す
- 間違えたカード → 最初の箱(復習間隔が短い箱)へ戻す
- 毎日開けるのは最初の箱、次の箱は数日おき、とずらす
- 結果として、苦手なカードだけが何度も手元に戻ってくる
紙の箱でも、同じ仕組みを持つアプリでも動きは変わりません。できたカードに時間を使わないことが、この方式の狙いです。全カードを毎日めくると、覚えたものの確認に時間の大半が消えます。
1日あたりどれくらい練習すればいい? 時間の目安
研究間で「1日◯分」という単一の正解値は定まっていません。文献ごとに示されている目安を並べると、次のようになります。
| retrievalpractice.org のガイド | 5分程度の短い自己テストを毎日 |
|---|---|
| ブレインダンプの実施時間 | 1分〜5〜8分 |
| 練習問題を分散させた例 | 10分×3日(まとめて実施より良い結果) |
各文献で示されている実施時間をもとに作成
上の表に共通するのは、1回あたりが5〜10分と短いことです。まとめて長時間復習するより、短い自己テストを毎日行うほうが効果的だとされています。10分間の練習問題を3日に分けた群は、同じ量を1回にまとめた群より成績が良かったという結果も示されています。
これは個人差のある目安で、この時間をこなせば覚えられると保証するものではありません。教材の量・難しさ・試験までの期間によって必要量は変わります。
同じ時間なら「分けたほうが」残る
学習の効果を決めるのは総学習時間ではなく、その時間をどう分散させるかという点が研究で強調されています。3時間を1日で一気に行うより、1時間ずつ3日に分けたほうが記憶定着に優れるという説明です。
Lawson & Kintsch(2005)の実験では、大学生を「続けて2回読む」群と「1週間空けて2回読む」群に分けたところ、直後テストは連続読み群が有利でしたが、時間が経つと逆転しました。テスト効果と同じ形の逆転が、間隔の空け方でも起きています。
間隔の決め方の目安としては、学習後の経過期間の一定割合を復習間隔にする「1:5の比率」という考え方が紹介されています(内容や習熟度によって変動します)。厳密に管理しようとすると続かないので、最初は「翌日・3日後・1週間後」程度のざっくりした3回で始めて、思い出せたものは間隔を広げていく運用で十分です。
なお、よく引き合いに出される「学習直後は覚えていても20分後に4割、1日後に7割、1ヶ月後には8割程度忘れる」という数字は、間隔を空けた復習の必要性を説明する目安として広く紹介されているものです。エビングハウス自身の実験データそのものではなく後年の解釈を含むため、厳密な統計としてではなく「早い段階で1回思い出しておく」目安として受け取るのが安全です。
社会人と学生で、組み方はどう変える?
使える時間の形が違うので、同じ手順でも置き場所を変えます。
- 朝の5分:前日の単元をブレインダンプ(紙1枚・スマホのメモ可)
- 通勤・昼休みの5分:ライトナーの「最初の箱」=間違えたカードだけ
- 夜:新しい単元を読む(ここは普通に読んでよい)
- 週末に1回:その週の全単元をまとめてブレインダンプし、抜けを洗い出す
- 1科目ごとに「読む→閉じる→5分書き出す」を1セットとして回す
- まとめノートを作る時間があるなら、その時間を想起の回数に振り替える(要約・ハイライトは低評価の手法)
- 問題集・過去問・模試を解いて自己採点する流れ自体が自己テストに該当するので、これを前倒しで始める
- 1日に同じ単元を何度も繰り返すより、翌日・3日後に持ち越す
資格試験やTOEICの学習では、教材を読んだ後に問題集・模擬テストで自己採点する進め方が、そのまま自己テストにあたります。「まだ範囲が終わっていないから問題集は後で」をやめるのが、実質的な切り替えの第一歩です。
かかる費用はどれくらい?
この学習法そのものに費用はほとんどかかりません。内訳を分けて見ておきます。
- 道具代:白紙(コピー用紙・裏紙)とペンのみ。手持ちのもので足ります
- 教材費:いま使っている教材をそのまま使うため、買い足しは不要
- フラッシュカード:紙のカードか、手持ちのスマホのアプリ。アプリは無料で使える範囲でも仕組みは同じです
- 受験料・交通費:資格試験を受ける場合に別途かかります。これは学習法とは関係なく、受ける試験ごとの金額です
教材を買い足す前にできることが残っている、という点がこの方法のいいところです。手元の1冊を閉じて思い出すだけで、同じ教材から引き出せる量が変わります。
初学の1周目や、そもそも用語の意味がわからない段階では、思い出す対象がまだ頭に入っていません。まず理解する時間が必要です。また、手を動かす技能(プログラミングの実装、Excelの操作など)は、書き出すより実際に動かすほうが練習になります。この場合は「手順を見ずに最後まで作る」ことが、そのまま想起練習になります。
よくある質問
アクティブリコールとは何ですか?
教材を閉じた状態で、学んだ内容を記憶から思い出す練習を学習の中心に置く方法です。白紙に書き出す、声に出して説明する、問題を解くといった形があり、いずれも「見ずに引き出す」点が共通しています。教育心理学のレビューでは自己テスト(practice testing)として最高評価の手法に分類されています。
アクティブリコールは1日どれくらいやればいいですか?
1回5〜10分程度が目安です。retrievalpractice.orgのガイドは5分程度の短い自己テストを毎日行うことを勧めており、10分の練習問題を3日に分けた群がまとめて行った群より成績が良かったという結果も示されています。ただし単一の正解値は研究間で統一されておらず、教材の量や試験までの期間による個人差があります。
読み返しでは本当に覚えられないのですか?
初めて読んで理解する段階では読むことが必要です。問題なのは理解した後も読み返しだけを続けることで、Roediger & Karpicke(2006)では1週間後の記憶保持率が読み返しのみの群で40%、自己テストを繰り返した群で61%でした。直後のテストでは読み返し群のほうが成績が良かったため、できている感覚と実際の定着がずれやすい点に注意が必要です。
ライトナーシステムはどう使うのですか?
表に問題・裏に答えを書いたフラッシュカードを複数の箱で管理し、正解したカードは復習間隔の長い次の箱へ、間違えたカードは最初の箱へ戻す方式です。1970年代にドイツのセバスチャン・ライトナーが考案しました。理解度別に振り分かれるため、苦手な項目に学習時間を集中できます。
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