いろは堂まなび
← 戻る

ノーベル化学賞受賞者に学ぶ、36年続けた人の始め方

2026年10月28日|いろは堂まなび編集部
和室で眼鏡の男性が机に向かい古い本を開いて読んでいる写真

画像出典: すしぱく / ぱくたそ

この記事の要点
2026年のノーベル化学賞は、95歳のアンリ・カガン氏と76歳の硤合憲三氏に授与されました。硤合氏は着任から14年、成果が出るかも分からないまま実験を続けた末に発見にたどり着いています。学び直しで効くのは才能や開始年齢よりも、短い単位で記録を残しながら続ける仕組みです。
😟
今から勉強を始めても、もう遅いんじゃないかな…

学び直しを考えたとき、最初に浮かぶのが年齢のことだという人は少なくありません。参考書を開く前に「若い頃に始めていれば」と考えて、そのまま閉じてしまう。正直なところ、その気持ちは多くの人が通る道です。

2026年10月7日、スウェーデン王立科学アカデミーが発表したノーベル化学賞の受賞者は、アンリ・B・カガン氏と硤合憲三氏の2名でした。授賞理由は「非対称有機合成における非線形効果と自己触媒作用の発見」。発表時点でカガン氏は95歳、硤合氏は76歳です。

注目したいのは受賞そのものより、二人が「成果が出るか分からない時間」をどれだけ長く過ごしたかです。そこには、仕事や学業と並行して学び続けたい人がそのまま使える考え方があります。

2026年のノーベル化学賞では何が評価されたのか?

二人が解いたのは、「鏡像分子(キラリティー)がなぜ生命では片方だけに偏るのか」という化学の謎です。右手と左手のように重ね合わせられない形をした分子が、生き物の体ではほぼ一方だけで揃っている。その偏りがどこから来るのかという問いです。

カガン氏は1986年に「非線形効果」を不斉触媒反応の中で発見・体系化しました。硤合氏は1995年に、生成物自身が触媒となって同じ反応を促進する世界初の不斉自己触媒反応(通称「硤合反応」)を発見しています。わずかな偏りしかない物質を触媒に加えると、最終的に高い純度の偏りが得られる——きわめて小さな差が大きな差へ増幅される仕組みです。

二つの発見は独立になされましたが、同じ現象の異なる側面を説明し合う形で評価され、共同受賞となりました。賞金は1,200万スウェーデン・クローナ(約120万ドル)で、2氏が折半します。

🤔
すごい発見なのはわかるけど、勉強の話とどうつながるの?

学び直しと重なるのは、発見の内容ではなく発見までにかかった時間の長さです。二人の経歴を年齢で並べると、見えてくるものがあります。

95歳と76歳の受賞者は、何歳から何年続けたのか?

アンリ・カガン氏硤合憲三氏
博士号取得1960年(30歳)1979年(29歳)
自分の場を持った年1968年(37歳・パリ第11大学)1981年(31歳・東京理科大学)
中心となる発見1986年(56歳・非線形効果)1995年(45歳・不斉自己触媒反応)
ノーベル賞受賞2026年(95歳)2026年(76歳)
自分の場を持ってから受賞まで58年45年

ノーベル財団および東京理科大学の公表情報をもとに作成(2026年10月時点)

上の表で目を引くのは、中心となる発見の年齢です。カガン氏の非線形効果は56歳、硤合氏の不斉自己触媒反応は45歳。どちらも、一般に「新しいことを始めるには遅い」と語られがちな年齢の後に来ています。

カガン氏は1971年、41歳のときに、左右どちらかの形に偏った分子(キラル分子)であるDIOPを触媒に使い、狙った片方の形だけを作り分ける反応(不斉水素化反応)のブレイクスルーを発表しました。その15年後に、受賞理由の核となる非線形効果にたどり着きます。1999年に69歳で退官し、その27年後、博士号取得から66年後に受賞しています。歴代のノーベル化学賞受賞者の中で2番目の高齢受賞でした。

硤合氏は1981年に東京理科大学へ着任し、2017年6月まで約36年間、同じ研究を続けています。着任から発見までは14年。成果が出るかどうかも分からないまま、十数年を実験に費やした計算になります。発見からノーベル賞までは、さらに31年かかりました。

「成果が見えない期間」をどう越えたのか?

硤合氏は受賞直後のインタビューで、自身の研究をこう振り返っています。「山があるかどうかも分からないまま、ヘッドランプをつけて地面を手探りで歩いているようだった」。そして「大事なのは実験を続けることだ」と強調しました。

😲
山があるかも分からない、って怖すぎませんか…

この言葉は、学び直しの最初の数か月とよく似た状況を指しています。簿記の仕訳を50問解いても手応えがなく、英語を毎日30分聴いても会話が聞き取れるようにならない。そのとき人は「向いていない」と結論を出しがちですが、実際には手元の地面だけが見えている段階にいます。

手探りの期間を越える手がかりは、硤合氏の発見そのものにもあります。わずかな偏りが増幅されて大きな偏りになる、という現象です。学習でも、1日20分の差は1週間では見えませんが、半年続けば60時間以上の差になります。最初の差が小さいことは、続ける理由を失う根拠にはなりません。

そのまま真似できない部分もあります

研究者は研究が本業であり、十数年を一つの問いに充てられる環境がありました。仕事や学業の合間に学ぶ人が同じ時間配分を取ることはできません。参考にすべきは期間の長さではなく、「成果が見えない時期に手を止めなかった」という一点です。期間の設計は、自分が確保できる時間に合わせて組み直してください。

社会人が仕事と両立して続けるには?

ここからは、平日に仕事がある人を前提にした組み立てです。確保できる時間は平日30〜60分、休日2時間程度、費用は書籍と受験料で年間1〜3万円を想定します(この時間配分と金額は本記事での想定で、必要量は学ぶ分野によって変わります)。

  1. 問いを1つに絞る「英語ができるようになりたい」ではなく「仕事のメールを辞書なしで書けるようになりたい」まで狭めます。二人に共通するのは、分野を転換したのではなく一つの問いを掘り続けたことでした。
  2. 平日の最小単位を20分にする帰宅後に1時間を確保しようとすると、取れなかった日に計画ごと崩れます。20分なら移動中や寝る前に回収できます。
  3. 手を動かす形で記録する読むだけでなく、解いた問題数・書いた英文の数など、数えられる形を1日1行で残します。
  4. 3か月ごとに外部の物差しを置く検定や模試など、自分の外にある基準を予定に入れます。手探りの期間に、地面以外の目印ができます。
  5. 記録を見返す日を月1回決める進んでいないと感じる日こそ、1か月前の記録と比べます。増幅は、記録がなければ見えません。
社会人が続けやすくなる条件
  • 平日の学習が20分以内で完結する形になっている
  • 学習場所と教材が固定され、始めるまでの手間が1分以内
  • やらなかった日を記録に残し、責めずに翌日へ戻す
  • 3か月先に受験日や提出日など外部の期日がある

学生が時間のあるうちに積むには?

ここからは、学業が中心で平日にまとまった時間を取りやすい人を前提にした組み立てです。確保できる時間は平日1〜2時間、長期休暇中は1日3時間以上、費用は書籍中心で年間5千〜2万円程度を想定します(こちらも本記事での想定で、分野によって変わります)。

時間が取れる立場で効くのは、短期で結果が出る方法よりも、長く効く土台を選ぶことです。カガン氏は博士号取得後すぐに成果が出たわけではなく、研究員として続けた期間を経て、自分の研究室を持ってから本格的な成果へ進んでいます。

  1. 1日2時間を2分割する60分を理解に、60分を演習に充てます。理解だけでは定着せず、演習だけでは応用が利きません。
  2. 長期休暇に「集中して進める単元」を決める平日に細切れでは進みにくい分野(統計やプログラミングの基礎など)を休暇にまとめます。
  3. 学んだことを説明する相手を作る友人・勉強会・記録用のノートなど、誰かに向けて説明する形にすると、理解の穴が先に見つかります。
  4. 1年単位で成果物を1つ残す合格証でも制作物でもかまいません。積み上げを目に見える形にしておくと、数年後に振り返る物差しになります。

年齢を理由にしないために、今日できることは?

二人に共通するのは、年齢が障壁として語られなかった点です。95歳と76歳という数字は、始めるのが遅いことの証明ではなく、積み重ねてきた年数そのものとして評価されました。

とはいえ、明日から十数年の計画を立てる必要はありません。今日できるのは、学びたい分野の入門書を1冊決めること、学習時間を記録する場所を1つ作ること、そして最初の20分を今日のうちに使うことです。続けるかどうかを決めるのは才能ではなく、始めるまでの手間をどれだけ小さくできたかです。

😤
20分なら、今日のうちにできそうです

手探りの期間は誰にでもあります。地面しか見えない時期に歩き続けた記録が残っていれば、半年後に自分がどこまで来たかを確かめられます。小さな偏りが増幅されるまで、記録を取りながら進んでいきましょう。

よくある質問

2026年のノーベル化学賞は誰が受賞しましたか?

アンリ・B・カガン氏(フランス)と硤合憲三氏(日本)の2名が、「非対称有機合成における非線形効果と自己触媒作用の発見」により2026年のノーベル化学賞を受賞しました。発表は2026年10月7日、スウェーデン王立科学アカデミーによるものです。

硤合憲三氏はどのくらいの期間、研究を続けたのですか?

硤合憲三氏は1981年に東京理科大学へ着任し、2017年6月まで約36年間、不斉自己触媒反応の研究を続けました。中心となる発見は着任から14年後の1995年(45歳)で、そこからノーベル賞受賞までさらに31年かかっています。

学び直しを始めるのに年齢的な上限はありますか?

学習そのものに年齢の上限はありません。2026年のノーベル化学賞では、95歳のカガン氏が歴代2番目の高齢受賞者となり、中心的な発見も56歳時点のものでした。重要なのは開始年齢よりも、成果が見えない期間に手を止めない仕組みを作ることです。

成果が見えないときに学習を続けるコツは何ですか?

1日の最小単位を20分程度まで下げ、解いた問題数など数えられる形で記録を1日1行残すことです。加えて3か月ごとに検定や模試など外部の基準を予定に入れると、自分の中の手応えに頼らずに進捗を確認できます。

※記事で使用した内容・数値は変更される場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。