電子書籍と紙の本、勉強に向くのはどっちが正解?
画像出典: 写真: Costa1001(CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons)
じっくり読み込んで理解を積み上げる教材(資格の教科書、文法書などの説明的文章)は紙、辞書的に引く教材や持ち歩いて何度も参照するものは電子書籍が向きます。表示媒体を比較した研究では説明的文章で紙媒体の理解・記憶が優位という結果が報告されており、一方で電子書籍は全文検索と価格の安さで有利です。迷ったら公立図書館の無料の電子書籍貸出で読み方の相性を試してから買うのが確実です。
参考書を買うときの、地味だけど毎回つまずくところです。値段は電子が安い、でも「紙のほうが頭に入る」という話も聞く。どちらの言い分にも根拠があるので、片方が全面的に正しいという結論にはなりません。
正直なところ、決めるべきは「電子か紙か」ではなく「その1冊を、自分がどう使う本なのか」です。読み込む本なのか、引く本なのか。ここが決まれば、媒体は自動的に決まります。
以下では、定着・検索性・費用という3つの観点それぞれで何がわかっているのかを押さえたうえで、教材のタイプごとの振り分け方と、買う前に相性を確かめる手順まで具体的にお渡しします。
紙のほうが記憶に残るというのは本当?
「紙のほうが覚えられる」は感覚論ではなく、表示媒体を比べた研究がいくつか存在します。小林亮太氏の論文「表示媒体が文章理解と記憶に及ぼす影響―電子書籍端末と紙媒体の比較―」では、説明的文章——つまり物事を順序立てて説明する論理的な文章において、紙媒体のほうが理解・記憶で優位という結果が報告されています。
ここで大事なのは「説明的文章で」という限定です。資格の教科書、英文法の解説書、専門書の理論パートは、まさにこの説明的文章にあたります。逆に、単語をひたすら確認する、答え合わせのために該当ページを開く、といった読み方はこの研究が扱った土俵とは別の話です。
脳科学の分野でも、ページをめくる・線を引くといった手を動かす操作が記憶の定着に関わっているという説が紹介されています。紙の本では「あの話は右ページの下のほうにあった」という空間的な手がかりが残りますが、スクロールで表示が流れていく電子書籍ではこの手がかりが弱くなります。
勉強の本をすべて紙で買う必要はありません。研究が示しているのは「じっくり読んで理解する場面で紙が有利」という限定的な優位であって、あらゆる学習用途で紙が勝つという話ではないからです。持ち歩けない・検索できない・高いという紙の弱点は、そのまま残ります。
電子書籍が明確に勝つのはどんな場面?
電子書籍の強みは、紙では物理的に不可能なことができる点に集中しています。
- 全文検索——「あの用語どこで説明されてたっけ」が数秒で解決する
- ハイライトの同期——スマホで引いた線がPCでも見られる
- 辞書連携——わからない語をその場で長押しして引ける
- 冊数を持ち歩ける——参考書3冊+問題集をカバンに入れなくていい
この4つのうち、学習で効いてくるのは圧倒的に全文検索です。勉強が進むと「前に出てきたはずのあの概念」を探し戻す作業が急増します。紙だと索引を引いて、載っていなければ記憶を頼りにページをめくることになりますが、電子なら語を打ち込むだけで終わります。
この「紙と電子をまたいで探せる」考え方は図書館の世界でも標準になりつつあり、群馬県立図書館の蔵書検索や札幌市電子図書館の検索システムでは、紙の資料と電子書籍を一括で検索できるようになっています。探す手間を減らすことが、それだけ利用のハードルを下げるということです。
費用はどのくらい違う?
価格差には制度上の理由があります。紙の本は再販売価格維持制度——出版社が決めた定価で売ることを書店に義務づける仕組み——の対象で、原則として値引き販売ができません。一方、電子書籍はこの制度の対象外なので、販売店が自由に価格を決められます。だから電子だけがセールをやっているわけです。
加えて、電子書籍には印刷・製本・配送・在庫保管のコストがかかりません。この差も価格に反映されやすくなります。
各ストアの割引・還元も、初回は無視できない規模です。ebookjapanは無料の会員登録で70%OFFクーポンが6枚配布され、コミックシーモアには上限2,000円の70%オフや上限1,000円の100%ポイント還元といった初回特典があります。DMMブックスは年数回のスーパーセールで購入額の50%以上がポイント還元された実績があり、BookLive!も最大97%オフの割引や毎日のクーポンガチャを実施しています。
3,000円前後の参考書を数冊そろえる場面では、この差はそのまま受験料1回分くらいになります。とくに学生は、受験料も教材費も自分の限られた予算から出ることが多いので、教材を電子で圧縮して受験料に回す、という配分の考え方は現実的です。社会人は逆に、お金より可処分時間のほうが希少なことが多いので、多少高くても読みやすい媒体を選んだほうが結果的に得をします。
結局、どの本を電子にしてどれを紙にする?
ここまでの3観点を、教材のタイプに落とし込みます。判断の軸は「通読する本か、参照する本か」の一点です。
| 教材のタイプ | おすすめ | 理由 |
|---|---|---|
| 資格の教科書・理論の解説書 | 紙 | 説明的文章を通読して理解を積む用途。研究が紙優位を示している領域 |
| 英文法の参考書 | 紙 | 解説を読み込む本。書き込みと見返しが多い |
| 単語帳 | 電子(またはアプリ) | スキマ時間に何十回も開く。持ち歩きやすさが最優先 |
| 用語辞典・リファレンス | 電子 | 引く本。全文検索の恩恵が最大 |
| 過去問・問題集 | 紙 | 本番が紙なら解く感覚を揃える。書き込み前提 |
| 入門書・概論の読み物 | 電子 | 1回通せば十分な本。安く済ませたい |
迷ったときの一言判断はこうです。3回以上ひらき直して同じページを読む本は紙、1回読むか検索して引くだけの本は電子。
紙の本を置く場所がない、通勤中しか勉強時間が取れない、という条件があるなら、上の表を無視して全部電子で問題ありません。研究が示す紙の優位は「同じ条件で比べたら」の話であって、紙にしたせいで本を開く回数が減るなら、電子で読んだほうが確実に定着します。媒体の差より、触れた回数の差のほうがずっと大きく効きます。
逆に、画面を見ると目が疲れて長く続かない人も、紙一択で構いません。自分の体感が「続かない」と言っているなら、その情報のほうが研究結果より優先されます。
買う前に相性を確かめる手順は?
自分がどちらのタイプかは、実際に読んでみないとわかりません。いきなり数千円の教材で試す必要はなく、無料で確かめる道があります。
- 公立図書館の電子書籍サービスに登録する名古屋市図書館は電子書籍の無料貸出を行っており、神奈川県立図書館の電子書籍サービスも無料で使えます(通信料のみ自己負担)。まず自分の自治体の図書館サイトで「電子図書館」を探してください。
- 学習分野に近い解説書を1冊借りて、30分読む小説ではなく、説明が続くタイプの本を選ぶのがポイントです。楽しく読める本では判定になりません。
- 翌日、内容をメモに書き出してみる思い出せる量が体感で半分を切るようなら、その分野の教科書は紙のほうが向いています。
- 検索を1回使ってみる「さっき出てきた用語」を検索して引き戻す動作を試します。ここで手放せないと感じたら、参照系の教材は電子で決まりです。
- 結果に従って買い分ける全部を同じ媒体でそろえる必要はありません。教科書は紙、単語帳は電子、という混在が最も合理的です。
この手順は、教材費をかける前に自分のデータを取る作業です。使える時間が学生と社会人で違うのと同じで、読み方の癖も人によって違います。他人の結論をそのまま採用するより、30分の実験のほうが確実です。
電子で買った本の定着を上げる方法は?
電子を選んだ場合でも、紙に近い定着を取り戻す手はあります。紙が有利とされる理由が「手を動かすこと」と「位置の記憶」にあるなら、そこを別の形で補えばいいわけです。
- ハイライトしたら、その場で一言メモを添える——線を引くだけでは手を動かしたことにならない
- 章を読み終えたら本を閉じて要点を書き出す——思い出す動作そのものが記憶を強くする
- ページ単位表示があれば使う——スクロールより位置の手がかりが残る
- ハイライト一覧を週に1回見返す——電子の同期機能が最も活きる使い方
2つ目の「閉じて書き出す」がとくに効きます。読み返せば思い出せる状態と、何も見ずに出てくる状態はまったく別物で、後者を作る作業が定着そのものだからです。電子だと画面を閉じるのが一瞬なので、むしろ紙よりやりやすい面があります。
媒体の選択は、勝負のスタート地点を少しずらすだけのものです。紙を選んでも開かなければ意味がなく、電子を選んでも読みっぱなしなら残りません。3観点で当たりをつけたら、あとは「何回その本に触れたか」のほうが結果を決めます。
次の1冊はどう決めればいい?
いま買おうとしている本を思い浮かべて、ひとつだけ答えてください。その本を、来月も再来月も開いている自分が想像できますか。
想像できるなら通読する本なので紙、思い浮かばないなら参照するか1回読むだけの本なので電子。それで十分です。判断に時間をかけるより、図書館の電子貸出で30分試すほうが早く答えが出ます。無料なので、外れても失うものはありません。
よくある質問
資格の勉強では電子書籍と紙の本、どちらを買うべきですか?
教科書や理論の解説書は紙、単語帳や用語辞典は電子書籍が向いています。表示媒体を比較した研究では、説明を順序立てて追う説明的文章において紙媒体の理解・記憶が優位という結果が報告されており、資格の教科書はこのタイプにあたります。一方、何度も引き直す参照系の教材は電子書籍の全文検索が大きく効きます。
電子書籍が紙の本より安いのはなぜですか?
紙の本は再販売価格維持制度の対象で出版社が決めた定価での販売が義務づけられていますが、電子書籍はこの制度の対象外のため、販売店が自由に価格を設定でき割引販売ができます。加えて電子書籍は印刷・製本・配送・在庫保管のコストがかからないため、その分も価格に反映されやすくなっています。
無料で電子書籍の読み心地を試す方法はありますか?
公立図書館の電子書籍貸出サービスが使えます。名古屋市図書館は電子書籍の無料貸出を提供しており、神奈川県立図書館の電子書籍サービスも無料です(通信料のみ利用者負担)。自分の自治体の図書館サイトで「電子図書館」を探し、学習分野に近い解説書を1冊借りて30分読んでみると、自分に合うかどうかが判断できます。
電子書籍でも記憶に残りやすくするにはどうすればいいですか?
ハイライトを引いたその場で一言メモを添える、章を読み終えたら画面を閉じて要点を何も見ずに書き出す、スクロールよりページ単位表示を使う、ハイライト一覧を週1回見返す、の4つが有効です。紙が有利とされる理由は手を動かす操作と位置の記憶にあるため、その2つを別の形で補う発想です。
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