扶養内で副業、社会保険の壁はどこまで?
画像出典: 写真: Anton Ehrola(CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons)
扶養には税制上の扶養と社会保険上の扶養の2種類があり、判定する年収ラインも判定する主体も別物です。手取りへの影響が大きいのは社会保険の扶養のほうで、外れると自分で保険料を負担することになります。働き方を決める前に、合計収入・勤務先の規模と週の労働時間・配偶者の会社の手当基準の3点を確認しておくと迷いません。
「扶養」という一つの言葉に、実は性格の違う2つの制度が入っています。税制上の扶養と、社会保険上の扶養です。この2つは年収ラインも違えば、判定するところも違います。片方は税務署、もう片方は健康保険組合。同じ「扶養」と呼ぶせいで数字が混ざって見えるだけで、分けて考えれば話はかなりすっきりします。
正直なところ、この区別を知らないまま働き方を決めると、「思っていたより手取りが減った」という結果になりがちです。先に構造を押さえてから、自分の働き方を決めれば十分間に合います。
税の扶養と社会保険の扶養は何が違う?
まず前提を合わせておきます。扶養には「税制上の扶養」と「社会保険上の扶養」があり、まったく別の制度です。税制上の扶養は所得税・住民税の話で、配偶者控除(配偶者の年収が一定以下のとき、納税者本人の課税所得を減らせる仕組み)などが関わります。社会保険上の扶養は、健康保険の被扶養者と国民年金の第3号被保険者、つまり保険証と年金の話です。
判定する相手も違います。税は税務署、社会保険は加入している健康保険組合など。だから「片方は扶養内、もう片方は扶養外」という状態も普通に起こります。
| 税制上の扶養 | 社会保険上の扶養 | |
|---|---|---|
| 関わるもの | 所得税・住民税 | 健康保険・国民年金 |
| 判定するところ | 税務署 | 健康保険組合など |
| 外れたときの負担 | 税額が増える | 保険料を自分で払う |
手取りへの影響が大きいのは、右側の社会保険のほうです。税は超えた分にかかるので段階的に増えますが、社会保険の扶養を外れると、健康保険料と年金保険料をまるごと自分で負担することになります。数字の見張り番を1つだけ置くなら、社会保険側です。
税の扶養の年収ラインはいくら?
長く「103万円の壁」と呼ばれてきた、所得税がかかり始める年収の目安があります。ここが令和7年(2025年)の税制改正で動きました。基礎控除の10万円引き上げと給与所得控除の最低保障額の引き上げにより、160万円に変更されています。
さらに2025年12月18日の与野党合意を受けて、この基準は178万円へ引き上げられる見込みです。令和8年分(2026年分)の所得税から適用され、月々の源泉徴収に反映されるのは2027年1月以降、2026年中は年末調整で精算されるかたちになります。
- 基礎控除 104万円(本則62万円+特例42万円)
- 給与所得控除の最低保障額 74万円(本則69万円+特例5万円)
ここで一つ注意があります。この178万円は「あなた自身に所得税がかかり始めるライン」であって、配偶者控除・配偶者特別控除(配偶者の年収が控除の満額ラインを超えても、段階的に控除が残る仕組み)の年収ラインとは別の話です。同じ税の話でも、自分にかかる税金と、配偶者側の控除は分けて数えます。混ざりやすいところなので、「これは誰の税金の話か」を毎回確認すると間違えません。
社会保険の扶養から外れるのはいくらから?
こちらには2つの数字があります。130万円と106万円です。
130万円の壁
年間の給与収入の見込みが130万円を超えると、健康保険の被扶養者と国民年金の第3号被保険者から外れます。外れた後は、自分で国民健康保険と国民年金に加入するか、パート先の社会保険に入るかを選ぶことになります。ここが「保険料の自己負担が始まる線」です。
106万円の壁
もう一つ、130万円より手前で社会保険への加入義務が生じるケースがあります。従業員数51人以上の企業で、週20時間以上勤務・月額賃金8.8万円以上といった要件を満たすパートなどは、年収106万円程度でも勤務先の社会保険(厚生年金・健康保険)に加入することになります。
2025年6月13日に成立した年金制度改正法により、月額賃金8.8万円以上という賃金要件は2026年10月に撤廃されることが決まっています。撤廃後は、週の所定労働時間が20時間以上であれば、年収額や企業規模にかかわらず勤務先の社会保険に加入する仕組みへ変わる予定です。企業規模要件(51人以上)の撤廃は2027年10月が予定されています。
つまり、これから先は「いくら稼いだか」より「週に何時間働く契約か」が判定の主役になっていきます。年収だけを見張る発想から、契約上の労働時間を見る発想へ切り替えておくと慌てずに済みます。
雇われる副業と、案件で受ける副業のどちらを選ぶ?
ここが扶養内で副業する人にとって、いちばん結果を分ける分岐です。時給で雇われる副業は週の労働時間で社会保険の加入判定に引っかかりますが、業務委託で案件単位で受ける副業は、この週20時間の判定対象になりません。雇用契約ではないためです。
たとえばパート先で週12時間働いている人が、もう8時間パートを足すと週20時間に届いてしまいます。同じ収入を業務委託の案件で得るなら、労働時間の合算という論点が消え、見張る数字が130万円だけになります。扶養内で調整しながら働きたいなら、案件で受ける形のほうが手綱を握りやすいわけです。
ただし業務委託は経費を差し引いた所得で判断が変わる場面があり、健康保険組合によって収入の見方に差があります。ここは後述のとおり、組合への確認が必要な領域です。
最初の1案件はどう取る?
案件で受ける形を選ぶなら、進め方はかなり決まっています。特別な実績がなくても、次の順番で動けば最初の1件までたどり着けます。
- できることを「作業名」で3つ書き出す「文章が書ける」ではなく「商品説明文の作成」「アンケート結果の入力」「画像のリサイズ」のように、依頼する側が発注ボタンを押せる粒度まで具体化します。前職や家事で日常的にやっている作業で構いません。
- クラウドソーシングに登録し、プロフィールを埋めるプロフィールが空欄のままだと、まず選ばれません。対応できる作業、稼働できる曜日と時間帯、返信できる時間帯の3つを書きます。「平日9〜15時に対応、返信は当日中」のように書くだけで通過率が変わります。
- 単価より「タスク形式」の小さい案件から入る最初は数百円〜数千円のデータ入力・文字起こし・簡単なライティングで実績件数を作ります。ここで狙うのは報酬ではなく、評価と実績数です。3〜5件こなすと、応募の返信率が目に見えて上がります。
- 応募文は「相手の募集文の条件」に一つずつ答えるテンプレートの自己紹介ではなく、募集要項に書かれた条件(納期・本数・使用ツール)へ順番に「対応できます」と返す形にします。読む側は条件を満たすかだけを見ているためです。
- 受注したら、報酬の受取月を記録し始める年内の合計額を管理する土台になります。入金日ベースで一覧にしておくと、年末に「あと何万円まで受けられるか」が即答できます。
この段階で報酬額は小さいので、扶養の壁に触れることはまずありません。壁を意識するのは、月あたりの受注が安定してきてからで十分間に合います。
働き方を決める前に確認すべきことは?
受注が安定してきたら、次の3点を確認しておけば判断材料がそろいます。
- 本業+副業の合計収入がどのラインに近いか年内の見込み額を、税の側(自分に所得税がかかり始める線)と社会保険の側(130万円)の両方に当てて、どちらが先に近づくかを確かめます。パートと副業を掛け持ちしている場合は、合算で見るのを忘れずに。
- 勤務先の従業員規模と、週の所定労働時間106万円の対象になるかは、企業規模と週20時間以上かどうかで決まります。契約書の労働時間の欄を見て、20時間のラインに対してどの位置にいるかを把握しておきます。2026年10月以降はここが判定の中心になります。
- 配偶者の会社の家族手当などの独自基準法律の壁とは別に、会社が独自に「配偶者の年収◯万円まで」と決めている手当があります。この基準は会社ごとに違うので、配偶者に就業規則を確認してもらうのが確実です。手当が止まる額のほうが、法律の壁より手前にあることもあります。
収入が壁を超えそうなときはどう考える?
超えるか超えないかを迷ったときの考え方はシンプルです。社会保険の扶養を外れる場合は、保険料の負担分を上回る収入を取りにいくほうが、中途半端に抑えるより結果が安定します。ぎりぎりで抑えると、手取りが増えないまま働く時間だけが増えることになりがちだからです。
一方で、扶養内にとどめると決めたなら、報酬の受け取り時期をコントロールできる副業のほうが管理しやすくなります。時給で働く形より、案件単位で受ける形のほうが、年内の合計額を自分で調整しやすいためです。納品を年内に済ませ、入金を翌年に回せる案件なら、年またぎで平準化する余地も出てきます。
社会保険の扶養に入れるかどうかを最終的に判断するのは、配偶者が加入している健康保険組合です。組合によって、収入の見込み方や必要書類の扱いに違いがあります。ラインぎりぎりの働き方をする予定なら、契約前に配偶者経由で組合へ確認しておくと、後から「扶養から遡って外れる」といった手戻りを避けられます。
制度の名前を覚える必要はありません。「税の扶養」と「社会保険の扶養」は別物で、手取りに効くのは社会保険のほう。この一点さえ持っていれば、あとは自分の合計収入と週の労働時間を確認するだけです。数字が見えたところから、働き方を選べば十分間に合います。
よくある質問
税制上の扶養と社会保険上の扶養は何が違いますか?
税制上の扶養は所得税・住民税に関わる制度で税務署が判定し、社会保険上の扶養は健康保険の被扶養者・国民年金第3号被保険者に関わる制度で健康保険組合などが判定します。年収ラインも判定主体も別で、片方だけ扶養から外れることもあります。
所得税がかかり始める年収はいくらですか?
令和7年(2025年)の税制改正により、基礎控除の引き上げと給与所得控除の最低保障額の引き上げで160万円に変更されました。さらに2025年12月18日の与野党合意を受けて178万円へ引き上げられる見込みで、令和8年分(2026年分)の所得税から適用される予定です。
106万円の壁はなくなるのですか?
2025年6月13日に成立した年金制度改正法により、月額賃金8.8万円以上という賃金要件は2026年10月に撤廃されることが決まっています。撤廃後は週の所定労働時間が20時間以上であれば、年収額や企業規模にかかわらず勤務先の社会保険に加入する仕組みへ変わる予定です。企業規模要件(51人以上)は2027年10月に撤廃予定です。
扶養内で副業するなら、パートと業務委託のどちらが調整しやすいですか?
業務委託で案件単位に受ける形のほうが調整しやすくなります。106万円の壁は週20時間以上の勤務などを条件とする雇用契約が対象で、業務委託はこの労働時間の判定に含まれないためです。ただし収入の見込み方は健康保険組合によって扱いが異なるため、事前の確認が必要です。
副業の働き方を決める前に何を確認すべきですか?
確認すべきは3点です。1つ目は本業と副業を合わせた収入がどの年収ラインに近いか、2つ目は勤務先の従業員規模と週の所定労働時間(106万円の対象条件)、3つ目は配偶者の会社が独自に定める家族手当などの基準です。3つ目は法律の壁より手前にあることもあります。
※記事で使用した内容・数値は変更される場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。