副業の情報管理、会社への定期報告で守る5手順
画像出典: ぱくたそ (撮影: すしぱく / モデル: 鈴木秀)
副業の許可を得た後も、会社の秘密情報を副業先に持ち込まないための自己管理は本人の責任として残ります。厚生労働省の副業・兼業ガイドラインは企業の懸念点として「企業秘密の漏洩」を挙げており、申請・届出で内容を確認することが望ましいとしています。誓約内容の再確認、定期報告の書式整備、自己点検リスト、会社側の記録保持方針の把握、無意識の持ち出しの洗い出しという5手順で体制を整えられます。
許可が下りた時点で手続きは終わった気になりますが、会社が気にしているのは申請の瞬間ではなく、続いている間の中身です。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定、令和4年7月改定)は、企業が副業・兼業を認める際の懸念点として「労務提供上の支障」「企業秘密の漏洩」「競業・利益相反」の3点を挙げています。
このうち時間の管理は自分でも意識しやすいのですが、情報の扱いは気づきにくい。正直なところ、悪意がなくても線を越えてしまう構造があります。許可を得て副業を続けている人が、今から整えられる実務の順番を見ていきます。
許可が下りた後も、情報管理の責任は本人に残るのはなぜ?
労働者は労働契約に付随して、使用者の業務上の秘密を守る義務(秘密保持義務)を負います。これは副業の許可とは別の話で、許可されたからといって情報の扱いが自由になるわけではありません。ガイドラインでは、就業規則等で、業務上の秘密が漏洩する場合に副業・兼業を禁止・制限できる旨を規定することが想定されています。
つまり許可は「始めてよい」の承認であって、「情報をどう扱ってもよい」の承認ではありません。そして会社側は、副業の内容を労働者に申請・届出させることで、業務上の秘密漏洩や長時間労働の有無を確認することが望ましいとされています。報告は会社の管理のためだけでなく、本人が「ここまでは申告済み」と言える状態を作るための手続きでもあります。
悪意がなくても起きる、というデータ
株式会社エルテスが2025年10月24日時点を対象に実施した「転職時の情報管理に関するアンケート」(21〜60歳男女、有効回答300名、インターネットリサーチ)では、転職経験者の約5人に1人が前職から情報を持ち出した経験があると回答しています。さらに2026年8月公表の続編調査では、退職時の会社との関係が「円満だった」層でも約52%が持ち出しを実行していたことが示されました。
これは転職者を対象にした調査で、副業者を直接調べたものではありません。ただ「次の場所で評価を得たい」という動機の構造は副業にも重なります。円満な関係や善意は、持ち出しが起きない保証にはならないという点が実務上の注意点です。
内部不正は外部からの攻撃よりも見えにくい経路です。IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」(組織編/2026年1月29日公表)では「内部不正による情報漏えい等」が7位に入り、2016年版以来11年連続・11回目の選出となりました。2026年3月にはユナイテッドアローズが退職者による個人情報約1万人分の不正持ち出しを公表しており、サイバー攻撃ではなく内部からの事例として扱われています。
副業の情報管理を見直す5つの手順とは?
順番に意味があります。先に自分の約束内容を確定させないと、報告に何を書くべきかが決まりません。
- 許可時の誓約内容を再確認する申請時に提出した副業許可申請書・誓約書の控えを引き出します。一般に配布されている副業許可誓約書のひな形には、本業に支障をきたさないこと、会社から開示された情報を副業に使用しないこと、会社の信用を損なう行動をしないことといった誓約事項が含まれます。自分が署名したものに情報使用の範囲がどう書かれているかを、文面で確認します。
- 定期報告の頻度と書式を決める兼業・副業を行う従業員が会社へ活動内容を定期的に報告するための「兼業報告書」の書式が、bizocean などで配布されています。これを参考に、副業先名・業務内容・勤務時間・使用ツール・情報へのアクセス状況を載せた1枚を作り、提出の間隔を自分で決めて上司や人事に差し出します。
- 自己点検チェックリストを作る会社の機密情報・顧客情報・ノウハウを副業先に持ち込んでいないかを、自分で確かめる項目を並べます。報告書に添えるのではなく、報告書を書く前に毎回通す順番にすると機能します。
- 会社側の記録保持方針を把握する秘密情報管理の実務では、アクセスログやメール送受信記録等の記録保持が対応策として挙げられています。自社がどの範囲を記録しているかを知っておくと、うっかりの操作が後から疑いの形で出てくる事態を避けられます。
- 無意識の持ち出し経路を洗い出すUSB へのコピー、私用メールへの転送、個人のクラウドストレージへの保存。持ち帰る意図がなくても、作業の都合でこうした経路を使った記録は残ります。該当するものがあれば、社内の手順に沿った方法へ置き換えます。
定期報告書には何を書けばいい?
報告の目的は、会社の3つの懸念(労務提供上の支障・企業秘密の漏洩・競業や利益相反)に対して「問題は起きていません」と言える材料を渡すことです。そこから逆算すると、載せる項目は自然に決まります。
- 副業先の名称・所在地(個人からの直接受注なら取引形態)
- 業務内容(本業の職務と重なる領域があるかを含めて)
- 稼働時間(曜日・時間帯・月あたりの合計)
- 使用する端末とツール(会社貸与端末を使っていないこと)
- 取り扱う情報の種類(副業先から受け取るもの/自分で作るもの)
- 本業の情報を使用していないことの確認
- 前回報告からの変更点
項目のなかで見落としやすいのは最後の「変更点」です。副業は案件が入れ替わるので、許可を取った時の業務内容と今の業務内容が別物になっていることがあります。申請時の内容から実態がずれた時点が、報告すべきタイミングです。
頻度はどのくらいが現実的か
会社の規定に提出間隔の定めがあればそれに従います。定めがない場合、四半期ごとに1枚という形が、書く負担と情報の鮮度のつり合いとして扱いやすい間隔です。加えて、副業先や業務内容が変わったときは間隔を待たずに出します。
提出の際は、口頭報告だけで済ませないほうが安全です。書面やメールで出しておけば、いつ何を申告したかが双方に残ります。これは会社のためというより、自分の身を守る記録になります。
自己点検チェックリストはどう作る?
チェック項目は抽象的な心がけではなく、操作の単位で書きます。「情報管理に気をつける」では点検になりません。
- 副業の作業で会社貸与の PC・スマホを使っていない
- 会社のアカウントで保存したファイルを個人環境へコピーしていない
- 本業の顧客名簿・取引先リストを副業の営業に使っていない
- 本業で作成した資料・テンプレートをそのまま副業の納品物に流用していない
- 本業で知った未公開の情報を副業先との会話で話していない
- 副業先が本業の競合に当たらない(当たる場合は会社へ申告済み)
- 私用メールへの業務ファイル転送をしていない
- 個人のクラウドストレージに業務ファイルを置いていない
4番目のテンプレート流用は、判断が割れやすいところです。自分で考えた構成でも、業務時間内に会社の設備で作ったものは会社に帰属する可能性があります。副業で使う資料は副業の時間に自分の環境で作り直すのが、説明のしやすい線になります。
本業と副業が同じ職種だと、スキルの持ち出しと情報の持ち出しの境目は文面だけでは決まりません。技術や経験は自分のものですが、特定の顧客に関する知識や社内で決めた手順は会社のものです。判断に迷う具体的な案件については、受ける前に人事や法務へ確認するほうが早く、後から説明するより負担が軽くなります。
情報持ち出しはどんな体制のときに起きやすい?
IPA の調査では、内部不正の背景要因として「少人数での業務運用(39.5%)」「同一人物が長期間同じ業務を担当(36.8%)」といった業務体制の問題が指摘されています。個人要因としては「上司・会社への不満(21.2%)」などが挙げられています。
自分の状況に重ねると、チェックが働きにくい条件が見えます。担当者が自分1人で、長くその業務を持っていて、誰も中身を把握していない。この状態では、持ち出しても気づかれにくいのと同時に、何も持ち出していないことを証明する手段もありません。疑いをかけられたときに反論の材料がないのは、不正の機会があるのと別種のリスクです。
また同じ IPA の実態調査では、内部不正の加害者は一般従業員(退職者を含む)が約6割を占め、管理職・経営層、委託先が続くとされています。持ち出される情報は顧客情報が最多で約6割です。役職や立場に関係なく起こる、ということでもあります。
定期報告を続ける実利はここにあります。副業先・業務内容・使ったツールを申告した履歴があれば、何かあったときに「申告済みの範囲で行っていた」という事実が残ります。副業を長く続けるなら、この積み上げが効きます。
会社の規定に報告の定めがない場合はどうする?
就業規則に副業の許可手続きはあっても、その後の報告について何も書かれていないことがあります。この場合、報告義務はないとも読めますが、情報漏洩が起きたときに秘密保持義務の問題は残ります。
規定がないなら、自分で形を決めて出してしまうのが実務的です。提出先は許可を出した部署(多くは人事)に合わせます。初回は「副業の状況をこの形で定期的に報告したいのですが、この内容で問題ないでしょうか」と形式の確認から入ると、相手も受け取り方を決めやすくなります。
会社側が秘密情報管理の実務として挙げられる対応は、労働契約・誓約書での秘密保持義務の明確化、秘密情報の範囲の明確化、社内の管理体制の整備、従業員への教育・研修、アクセスログやメール送受信記録等の記録保持です。このうち「秘密情報の範囲の明確化」が社内で曖昧なままだと、本人も何を守るべきか分かりません。範囲が示されていないなら、それを尋ねること自体が有効な一歩になります。
尋ねるときの具体的な聞き方
- 範囲を聞く「副業で扱ってはいけない情報の範囲について、社内の定義や一覧はありますか」
- 経路を聞く「副業の作業で会社貸与端末を使わない運用にしていますが、ほかに避けるべき操作はありますか」
- 報告先を確定する「副業先や業務内容が変わった場合、どこへ報告すればよいですか」
3つとも、答えが返ってくれば自分の点検項目が具体化します。答えが「決まっていない」だった場合も、その回答をメールで残しておけば、自分の判断で運用した根拠になります。
今日できることから始める
一度に体制を整えなくてかまいません。手順1の誓約書の控えを探すところからで十分です。何に署名したかを読み直すと、自分が守ると約束した範囲が具体的な文章として見えます。
そこから報告書の1枚目を作るまでが、おそらく一番時間のかかる部分です。2回目からは変更点を書き換えるだけになるので、最初の1枚を用意できれば運用に乗ります。副業を安心して続けるための土台として、知ってから手を付ければいい順番です。
よくある質問
副業の許可を得ていれば、会社の情報を副業で使ってもいいのですか
いいえ。副業の許可と情報の使用許可は別です。労働者は労働契約に付随して使用者の業務上の秘密を守る義務を負い、厚生労働省の副業・兼業の促進に関するガイドラインでは、就業規則等で業務上の秘密が漏洩する場合に副業・兼業を禁止・制限できる旨を規定することが想定されています。許可は副業を始めることへの承認であって、会社の情報を持ち込んでよいという意味ではありません。
副業の定期報告書には何を書けばよいですか
副業先の名称・所在地、業務内容、稼働時間、使用する端末とツール、取り扱う情報の種類、本業の情報を使用していないことの確認、前回報告からの変更点を載せます。兼業・副業を行う従業員が会社へ活動内容を定期的に報告するための「兼業報告書」の書式が bizocean などで配布されており、項目の参考にできます。
会社の就業規則に副業の報告義務が書かれていない場合、報告しなくてよいですか
報告義務が明記されていなくても、秘密保持義務は労働契約に付随して残ります。規定がない場合は自分で書式と頻度を決め、許可を出した部署(多くは人事)へ提出する形が実務的です。申告した履歴が残ることで、問題が生じた際に申告済みの範囲で活動していた事実を示せます。
悪意がなければ情報持ち出しは問題になりませんか
意図の有無とは別に、操作の記録は残ります。エルテスが2025年10月24日時点を対象に実施した調査(21〜60歳男女、有効回答300名)では転職経験者の約5人に1人が前職からの情報持ち出し経験があると回答し、2026年8月公表の続編調査では退職時の関係が円満だった層でも約52%が持ち出しを実行していました。USBへのコピー、私用メールへの転送、個人のクラウドストレージへの保存は、持ち帰る意図がなくても持ち出しの形で記録されます。
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