いろは堂AI ← 戻る

ディープフェイク逮捕、上半期123件の決め手

2026年8月12日|いろは堂AI編集部
同じ男性の笑顔の顔写真8枚をわずかに変化させて並べたグリッド画像

画像出典: 写真: Edward Webb(CC BY-SA 2.0 / Wikimedia Commons)

この記事の要点
2026年8月1日、生成AIで実在女性のわいせつ画像を約300枚作成し、うち約100枚をSNSグループに投稿したとされる会社員が逮捕されました。警察庁は同年上半期に18歳未満を対象とした性的ディープフェイクを123件把握したと発表しており、前年同期の60件から倍増しています。検挙の起点になっているのは画像そのものではなく、投稿・拡散・依頼のやりとりという「人の動き」の側です。
😟
AIで作った画像で逮捕、ってニュースを見ました。作っただけで捕まるんですか?それとも別の理由?

ここ数か月、生成AIで作られた画像をめぐる摘発の報道が続いています。ただ、報道の見出しだけを追っていると「AIを使うと捕まる」という漠然とした不安だけが残りやすい。実際に問われているのは何なのか、どこで足がつくのかは、見出しの外にあります。

この不安は、加害の側だけの話ではありません。自分や家族の写真が素材にされる可能性は誰にでもあり、そのとき「どこに証拠が残るのか」を知っているかどうかで動き方が変わります。2026年に公表された事例と統計から、検挙のしくみと現実的な自衛の線を引いてみます。

2026年8月に何が起きたのか?

2026年8月1日、生成AIで女性のわいせつ画像を合成・加工した疑いで会社員の男が逮捕されました。素材にされたのは、被害女性が中学1年生だった当時の体操着姿の実写写真です。読売新聞オンラインの報道によれば、生成AIで作成した画像は約300枚、うち約100枚をSNSのグループに投稿したとみられています。

注目すべきは、投稿の約半数が男子生徒からの依頼によるものだった疑いがあるとされている点です。ひとりが黙々と作っていたのではなく、「作ってほしい」という依頼と「作って渡す」という応答が、SNS上のやりとりとして成立していた。日本経済新聞も同年8月3日付で同件を報じています。

生成AIによる画像が刑事事件として扱われた例は、これが最初ではありません。2025年6月には、生成AIで作成した実在しない成人女性のわいせつ画像を印刷した抱き枕カバーを転売したとして、警視庁保安課が40代の男をわいせつ物頒布容疑で書類送検しています。AI生成物への同容疑の適用は全国初とされました。

🤔
2025年のほうは実在しない人物なのに立件されてるんですね

実在の人物を素材にしたかどうかは、この分野を読み解く重要な軸のひとつですが、唯一の軸ではありません。作った画像をどう扱ったか——頒布したか、販売したか、誰に見せたか——という「その後の行為」が、適用される法律を大きく左右します。

検挙件数はどれくらい増えているのか?

個別の事件は「たまたま運が悪かった例」に見えがちですが、統計を見ると背景の輪郭がはっきりします。警察庁は2026年8月3日、生成AI等を悪用した18歳未満の「性的ディープフェイク」——実在する児童の写真を性的に加工・合成したもの——について、全国の警察が対応した件数を公表しました。

期間警察が対応した件数
2025年 上半期(1〜6月)60件
2025年 通年(1〜12月)114件
2026年 上半期(1〜6月)123件

時事通信の報道による警察庁公表データをもとに作成

上の表は同じ「警察が対応した件数」という一つの指標で3つの期間を並べたものです。2026年上半期の123件は、前年1年間の総数である114件を半年だけで上回っています。前年同期の60件と比べれば倍増です。件数の伸び方そのものが、この問題が特殊な事件ではなくなりつつあることを示しています。

被害者の内訳は中学生が最多で79件(全体の64%)、高校生が38件(31%)、小学生の被害も確認されています。そして加害側の内訳が、この問題の性質を端的に表しています。被害者の同級生や同じ学校の生徒によるものが約7割にあたる83件を占めました。SNSで知り合った相手によるものは7件、面識のない児童を街頭で盗撮して加工したケースもあったと報じられています。共同通信も同日、同内容を配信しています。

つまり多くは、遠くの匿名の誰かではなく、被害者と日常的に顔を合わせる相手です。冒頭の8月の事例で「依頼」が介在していたことも、同じ構図の一部として読めます。

なぜ検挙にたどり着けるのか?

ここが読者の「なぜ」の中心だと思います。生成AIはローカルでも動かせますし、作った画像を自分の端末に置いておく限り、外からは見えません。それでも検挙に至っているのはなぜか。

報道されている事例に共通するのは、画像が「動いた」瞬間に痕跡が生まれている点です。8月の事例では、SNSグループへの約100枚の投稿と、依頼のやりとりがありました。2025年の書類送検事例では、印刷物としての転売という取引行為がありました。2026年1月に報じられた別の事例——生成AIで女性芸能人のわいせつ画像を作成し会員制サイトで有料公開したとして31歳の容疑者が逮捕されたケース——では、宣伝用のSNSアカウントでサンプルを公開して集客していたと伝えられています。

報道された事例に共通して残っていたもの
  • SNSグループやアカウントへの投稿の記録
  • 「作ってほしい」という依頼と応答のやりとり
  • 販売・課金にともなうお金の流れ
  • 集客のために自ら公開したサンプル

いずれも、生成AIの中で起きたことではなく、生成された画像を人に届けるために行われた行為です。画像を作る工程は端末の中で完結できても、それを誰かに見せた時点で、通信の記録・アカウント・決済という、従来から捜査の対象になってきた痕跡の上に乗ります。ディープフェイクの摘発は、AIを解析して見破る話というより、投稿と拡散という人の動きを追う話に近いと言えます。

そしてこの構造は、被害の広がり方とも表裏一体です。加害者が画像を人に見せなければ痕跡は残りませんが、その場合は被害者も気づけません。逆に、被害が発覚するときは、すでにどこかに拡散の記録が存在しているということでもあります。

法的にはどう扱われるのか?

ここは正直に書いておく必要があります。ディープフェイクを直接名指しした単一の法律があって、それに当てはめれば白黒がつく——という状態ではありません。

弁護士による解説では、ディープフェイクの法的評価はケースによって適用される法律が異なり、一律に合法/違法と言えないグレーゾーンが多いと指摘されています。実際に名前が挙がるのは、次のような法律・権利です。

ディープフェイクで問題になりうる主な法律・権利
  • 名誉毀損——事実を示して人の社会的評価を下げる行為。実際にはしていないことをしたかのような画像を人に見せれば、これにあたりうる
  • わいせつ物頒布——わいせつな画像や物を他人に配る・売る・公開する行為。2025年6月の書類送検はこの容疑だった
  • 肖像権侵害——本人の許可なく顔や姿を撮影・公開されない権利の侵害。刑事罰ではなく、民事の損害賠償の根拠になる

どれが問われるかは、素材が実在の人物か、被害者が18歳未満か、そして作ったものをどこまで人の目に触れさせたかで変わります。

「この行為は大丈夫か」を自己判断しないほうがいい理由

適用される法律が行為の形態によって変わるため、「作っただけならセーフ」「実在しない人物ならセーフ」といった単純な線引きは成り立ちません。作成・保存・送信・公開・販売のどれをしたか、素材が実在の人物か、被害者が18歳未満かによって扱いは変わります。判断に迷う状況にあるなら、ネット上の要約ではなく専門家に個別に確認してください。

被害に遭ったら何ができるのか?

自分や家族の写真が素材にされたと分かったとき、最も避けたいのは「気持ち悪いけれど、どうにもならない」と諦めてしまうことです。弁護士の解説記事では、泣き寝入りせず法的手続きを検討すべきだとされています。取りうる手段は、大きく分けて三つあります。

  1. 削除要請投稿されたプラットフォームに対して、該当コンテンツの削除を求めます。拡散が続いている間は被害が増え続けるため、優先度が高い手段です。
  2. 発信者情報開示請求匿名アカウントの投稿でも、プロバイダに対して発信者の情報開示を求める手続きがあります。相手を特定できなければ、次の賠償請求にも進めません。
  3. 損害賠償請求特定できた相手に対して、被害の賠償を求めます。刑事の手続きとは別に、民事として進められる道です。

この三つはいずれも、投稿の記録が残っているうちに動くほど成功率が上がる性質のものです。前の章で見たとおり、拡散の記録こそが加害者を追う手がかりになるからです。先に画面のスクリーンショットとURL、投稿日時を保存しておくことが、実務上の最初の一歩になります。

🥺
子どもが被害に遭ったとき、本人が親に言えないまま時間が過ぎそうで怖いです

被害を打ち明けにくい構造は、統計にもはっきり表れています。加害者の約7割が同級生や同じ学校の生徒であるということは、被害を訴えることが日常の人間関係を揺らす行為になってしまう、ということでもあります。被害者の中心が中学生(79件)である以上、本人が単独で削除要請や開示請求まで進むのは現実的ではありません。

今日からできる自衛は何か?

完全に防ぐ方法はありません。公開された写真が素材にされる以上、素材を減らすこと以外に事前の対策はほとんどないのが実情です。そのうえで、現実的に効く行動は絞り込めます。

効き目のある範囲で、今日できること
  • 顔がはっきり写った写真の公開範囲を見直す(特に制服・体操着など、被害事例で素材にされている種類のもの)
  • 過去に公開したまま放置しているアカウントの投稿を確認する
  • 子どもと「もし自分の画像が加工されたら、怒られるのではなく助けてもらえる」と先に話しておく
  • 被害を見つけたら、削除依頼より先に証拠(URL・スクリーンショット・日時)を保全する
  • 加害側に回らない線を知っておく——「頼まれて作る」も、報道された事例では立件対象の側にある

最後の項目は、8月の事例で明らかになった「依頼の約半数が男子生徒からだった疑い」という部分に対応します。依頼する側・作る側のどちらも、軽い遊びのつもりで関与しうる距離にいる。この問題で最も現実的なリスクは、見知らぬ犯罪者ではなく、身近な人間関係の中にあります。

ニュースの見出しは「AIで逮捕」と短くまとめますが、実際に起きているのは、生成の技術が身近になったことで、これまで実行できなかった行為の敷居が下がった、という変化です。検挙のしくみが投稿と拡散の記録に依存しているという構造は、当面変わらないと考えられます。だからこそ、記録を残す側にも、記録をたどる側にも、同じ知識が役に立ちます。

よくある質問

生成AIでわいせつ画像を作っただけでも逮捕されますか?

適用される法律は行為の形態によって変わるため、一律には答えられません。2026年8月に報道された逮捕事例では、実在女性の写真を素材に約300枚を作成し、うち約100枚をSNSグループに投稿したとされる点が問題とされました。2025年6月には、生成AIで作成した実在しない女性のわいせつ画像を印刷して転売したケースで、わいせつ物頒布容疑での書類送検が行われています。作成・保存・公開・販売のどこまでを行ったかによって扱いが異なるため、個別の判断は弁護士に確認してください。

性的ディープフェイクの検挙件数はどれくらいですか?

警察庁は2026年8月3日、18歳未満を対象とした性的ディープフェイクについて、2026年上半期(1〜6月)に全国の警察が対応した件数が123件だったと発表しました。前年同期の60件から倍増し、2025年の年間件数114件を上半期だけで上回っています。被害者は中学生が最多で79件(64%)、高校生が38件(31%)でした。

ディープフェイクの加害者はどんな人が多いのですか?

警察庁が2026年8月3日に公表した2026年上半期の集計では、18歳未満の性的ディープフェイク123件のうち、被害者の同級生や同じ学校の生徒によるものが約7割にあたる83件を占めました。SNSで知り合った相手によるものは7件で、面識のない児童を街頭で盗撮して加工したケースも確認されています。加害者の多くは被害者にとって身近な人物です。

自分の写真がディープフェイクにされたら何ができますか?

取りうる手段は主に三つあります。投稿されたプラットフォームへの削除要請、プロバイダに対する発信者情報開示請求、そして特定できた相手への損害賠償請求です。弁護士の解説では、泣き寝入りせずこれらの法的手続きを検討すべきだとされています。手続きはいずれも投稿の記録が手がかりになるため、削除を依頼する前にURL・スクリーンショット・投稿日時を保存しておくことが実務上の第一歩になります。

※記事で使用した内容・数値は変更される場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。