いろは堂投資 ← 戻る

自社株買いとは?EPSが上がる仕組みと消却の違い

2026年8月4日|いろは堂投資編集部
黒背景に株価チャートの折れ線と出来高バーが表示された画面

画像出典: Rafael Minguet Delgado / Pexels

この記事の要点
自社株買いは、会社が市場から自社の株式を買い戻すことです。1株当たり利益(EPS)は「当期純利益 ÷ 発行済株式数(自己株式を除く)」で計算されるため、利益が同じでも分母の株式数が減ればEPSは上がります。ただし買い戻しただけの段階では発行済株式総数そのものは減らず、消却して初めて総数が減少します。この取得と消却の区別が、ニュースを読み解く分かれ目になります。
😟
「自社株買いを発表」って見出しが出た日に株価が動くけど、会社が自分の株を買うと何が良くなるの?

会社が自分の株を買い戻す行為は、外から見ると「お金を出して自分のものを買っただけ」に見えます。売上が増えるわけでも、新しい工場が建つわけでもありません。それなのに市場が反応するのは、株主が持っている1株の中身が変わるからです。

ここで鍵になるのが、1株当たり利益(EPS。当期純利益を株式数で割った値)です。会社全体の利益は同じでも、株式の枚数が減れば1枚あたりの取り分は増えます。ピザの大きさが同じまま、切り分ける枚数だけ減るようなものです。

もうひとつ、ニュースを読むうえで見落とされやすいのが「買い戻した株をどうするか」。買っただけで会社が抱えたままなのか、消してしまうのかで、意味が変わります。順に数字で追っていきます。

自社株買い(自己株式取得)とは何をすることか?

自社株買いとは、会社が株式市場などを通じて、自社の発行済株式を買い戻すことです。買い戻した株式は「自己株式」、通称金庫株と呼ばれ、会社自身が保有する形になります。

ここで最初に押さえておきたい事実があります。自己株式を取得しただけの段階では、登記事項である発行済株式総数は変わりません。会社が市場から株を引き取って手元に置いた、という状態です。株主名簿の上では、その株の持ち主が投資家から会社自身に移っただけ、と考えると絵が描きやすいはずです。

金庫株は消えたわけではないので、後から使い道があります。役員・従業員へのストックオプションの原資にしたり、他社を買収するときの株式交換の対価に充てたり、市場へ再び売り出すこともできます。

🤔
じゃあ買い戻しただけだと、株式数は減っていないってこと?

登記上の発行済株式総数と、1株当たり利益の計算に使う株式数は、別のものとして扱われます。会社が抱えている自己株式は、EPSの計算では分母から除いて数えるのが一般的です。ここが混乱しやすいところなので、次に計算式そのものを見ていきます。

EPS(1株当たり利益)はどう計算する?

EPSの計算式はとても素直です。

EPSの計算式
  • EPS = 当期純利益 ÷ 発行済株式数(自己株式を除く)
  • 分子は会社が1年で稼いだ最終的な利益
  • 分母は「外に出回っている株式の枚数」

分子の利益が同じままでも、分母の株式数が減ればEPSは上がります。これが、自社株買いのニュースで市場が反応する理由の中心にある算数です。会社の稼ぐ力が急に強くなったのではなく、同じ利益を分け合う人数が減ったという話です。

逆に言えば、EPSが上がったからといって事業そのものが良くなったわけではありません。ここを取り違えると、数字の見え方だけで会社を評価してしまうことになります。

数値例:1億株・純利益10億円の会社で追ってみる

実際に数字を入れてみます。発行済株式数1億株、当期純利益10億円の会社が、発行済株式数の10%にあたる1,000万株を自社株買いし、さらに消却したとします。純利益は10億円のまま変わらない前提で、買い戻す前と後を並べます。

項目自社株買い前1,000万株(10%)を取得・消却後
発行済株式数1億株9,000万株
当期純利益10億円10億円(変わらない前提)
EPS10円約11.1円

EPSの計算式を解説する公開資料の内容をもとに作成した仮の数値例

買い戻す前のEPSは 10億円 ÷ 1億株 = 10円。消却後は発行済株式数が9,000万株に減るので、10億円 ÷ 9,000万株 = 約11.1円になります。株式数を10%減らして、EPSはおよそ11%上がりました。10%減らして11%上がるのは、割り算の分母が小さくなるときの性質です(1 ÷ 0.9 = 約1.111)。減らした比率より、EPSの上昇率のほうがわずかに大きくなると覚えておくと、概算が速くなります。

この数値例が前提にしていること

上の計算は「純利益が変わらない」という前提で作った教科書的なモデルです。実際には自社株買いには現金が出ていくため、手元資金が減り、利息収入の減少や財務の柔軟性の低下といった影響も生じます。EPSだけを見て会社の状態を判断できるわけではありません。

「取得しただけ」と「消却まで進めた」は何が違う?

ニュースの文面には「自己株式の取得」と書かれている場合と、「自己株式の消却」まで書かれている場合があります。この2つは別の手続きです。

取得は、市場から自社株式を買い戻す行為そのもの。買い戻した株は金庫株として会社が保有します。消却は、保有している自己株式を取締役会決議などによって消滅させる手続きです。この2つが、株式数・指標・その後の使い道にどう効くかを軸ごとに並べます。

比較の軸取得(金庫株のまま)消却まで実施
発行済株式総数変わらない減少する
EPS・ROEへの影響直接的な改善効果は限定的分母が減るため改善しやすい
その後の再利用ストックオプション・株式交換の対価・再売却が可能できない(株式が消滅するため)
資本金への影響影響なし資本金を減らすには別途「減資」手続きが必要

自己株式の取扱いを解説する公開資料の公表内容をもとに作成

上の表にあるROE(自己資本利益率。純利益を自己資本で割った、預けた資本をどれだけ効率よく利益に変えたかを示す指標)も、自社株買いで自己資本が減ると上がりやすくなります。資本金の行は見落とされやすい点です。消却で減るのは発行済株式総数であって、会社の資本金の額はそのまま残ります。資本金を減らす手続きは減資(資本金の額そのものを減らす、株主総会決議などを要する別の手続き)と呼ばれ、株式を消したからといって自動的に行われるものではありません。つまり消却=減資ではありません。取得の段階では登記の変更も不要で、金庫株は将来ストックオプションや株式交換の対価として再び世に出る可能性が残ります。

🤩
消却まで書いてあるかどうかで、受け取り方が変わるんだ

消却を伴う場合、その株式が将来また市場に出てくる可能性が消えます。金庫株のまま保有される場合は、再売却やストックオプション行使で株式数が戻る余地が残ります。希薄化の懸念が完全に解消されるのは、消却まで進んだときです。そのため消却は、1株当たりの利益・純資産価値(EPS・BPS)の向上につながる措置として受け止められます。

ニュースを読むときの確認手順は?

自社株買いのリリースを見かけたとき、上から順に次の項目を拾っていくと、内容を自分で評価できます。

  1. 取得する株式数と比率を見る「発行済株式総数(自己株式を除く)に対する割合」がリリースに書かれています。0.5%なのか10%なのかで、EPSへの影響の大きさはまったく違います。
  2. 取得総額の上限を見る株数と金額の両方に上限が付くのが一般的です。株価が上がると、上限金額に達して予定株数まで買わずに終わることもあります。
  3. 取得期間を見る数か月かけて市場で少しずつ買うのか、短期に集中するのかで、需給への効き方が変わります。
  4. 消却の記載があるか探す「取得した自己株式は全て消却する予定」と書かれているか。書かれていなければ金庫株として保有される可能性があります。
  5. EPSを概算してみる直近のEPSを (1 − 取得比率) で割ると、消却まで進んだ場合のおおよその新しいEPSが出ます。EPS10円・取得比率10%なら 10 ÷ 0.9 = 約11.1円。
数字を追うときに混同しないための整理
  • 「発行済株式総数」— 会社法上の総数。自己株式も含んだままの枚数
  • 「発行済株式総数(自己株式を除く)」— EPS計算の分母になる、外に出回っている枚数
  • 「発行可能株式総数」— 定款で定めた発行上限の枠

リリースはこの3つを使い分けて書いています。どの数字の話をしているのかを見分けられれば、読み違いはかなり減ります。

なぜ自社株買いが増えているのか?

東京証券取引所は2023年3月31日、プライム市場・スタンダード市場の全上場会社に対して「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請し、資本収益性の把握・開示・改善計画の策定を求めました。この要請が、資本効率の改善策として自社株買いや消却が使われる流れの背景にあります。2025年度(2025年4月〜2026年3月)の日本企業の自社株買い総額は17兆円超と過去最高を更新しました。

会社の側から見ると、手元にある現金を使ってEPSやROEといった資本効率の指標を改善できる手段です。設備投資や研究開発のように結果が出るまで時間がかかる施策と違い、実行すればすぐ数字に表れます。

見え方の良さだけで判断しないために

裏を返せば、成長投資に回す使い道が見つからないために現金を株主還元へ向けている、という読み方もできます。自社株買い自体は事業の競争力を高める施策ではありません。EPSの改善という数字の変化と、会社が本業でどれだけ稼げているかは、切り分けて見る必要があります。

ここまでのしくみが分かっていれば、「自社株買い=株価が上がる」という反射ではなく、株式数がどれだけ減り、それが消却まで進むのかという中身から自分で考えられるようになります。

投資は自己責任です。株式投資に元本保証はなく、株価の変動により損失が生じる可能性があります。本記事は自社株買いという制度のしくみを解説する教育目的の内容であり、特定の銘柄の売買を推奨したり、投資判断を助言したりするものではありません。実際の投資判断はご自身の責任で行ってください。

よくある質問

自社株買いをすると、必ず株価は上がりますか?

上がるとは限りません。自社株買いは1株当たり利益(EPS)の計算上の分母を小さくする効果を持ちますが、株価は業績見通し、市場全体の動き、取得規模、すでに織り込まれているかなど多くの要因で決まります。自社株買いの発表があっても株価が下落することはあります。

自社株買いと自己株式の消却は何が違いますか?

自社株買い(取得)は会社が市場から自社株式を買い戻す行為で、買い戻した株式は自己株式(金庫株)として会社が保有します。この段階では会社法上の発行済株式総数は変わりません。消却は保有する自己株式を消滅させる手続きで、これにより発行済株式総数が実際に減少します。ただし資本金を減らすには別途「減資」の手続きが必要で、消却は減資と同じではありません。

1株当たり利益(EPS)はどう計算しますか?

EPSは、当期純利益を発行済株式数(自己株式を除く)で割って求めます。たとえば当期純利益10億円、発行済株式数1億株の会社であればEPSは10円です。この会社が1,000万株を自社株買いして消却し、純利益が10億円のまま変わらなければ、発行済株式数は9,000万株となりEPSは約11.1円になります。

買い戻した自己株式(金庫株)はどうなりますか?

金庫株は会社が保有し続けることができ、消却しない限り消滅しません。役員や従業員へのストックオプションの原資、他社を取得する際の株式交換の対価、市場での再売却などに再利用できます。そのため消却されない場合は、将来その株式が再び市場に出てくる可能性が残ります。

※記事で使用した内容・数値は変更される場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。