平均年収が実感と違う理由、中央値など4つの視点
画像出典: パブリックドメイン(Wikimedia Commons)
平均値は極端に大きい値に引っ張られるため、年収のように一部の高い値があるデータでは実感より高く出ます。真ん中の人の姿を知りたいときは、小さい順に並べた中央のデータである中央値を見ます。さらに同じ平均でも散らばり方は大きく違うため、平均・中央値・ばらつき・グラフの軸という4点を確かめるだけで、数字の誤読はかなり防げます。
この居心地の悪さの正体は、多くの場合あなたの側ではなく「平均値」という数字の性質にあります。平均値には、一部の極端に大きい値に引っ張られて上振れするという、はっきりした癖があるからです。
正直なところ、統計を一から学び直す必要はありません。数字を見た瞬間に確かめる観点を4つ持っておくだけで、ニュースの数字との付き合い方は変わります。専門用語も、この記事で使うのは平均値・中央値・標準偏差・偏差値の4つだけです。
平均値と中央値は何が違う?
平均値は「全部の値を合計して、データの個数で割った値」です。一方の中央値は「データを小さい順に並べたとき、ちょうど真ん中に来る値」を指します。データが偶数個のときは、中央の2つの平均を中央値とします。
具体的に並べてみます。ある職場に5人いて、年収がそれぞれ300万円・350万円・400万円・450万円・3000万円だったとします。合計は4500万円なので、平均値は900万円です。けれども5人のうち4人は450万円以下で、900万円をもらっている人は一人もいません。
ここで中央値を見ると、小さい順に並べて真ん中の3人目、つまり400万円になります。「この職場のふつうの人」の姿に近いのは、明らかに中央値のほうです。
この3000万円のように、他から極端に離れた値を外れ値と呼びます。平均値は外れ値の影響を強く受け、中央値は影響を受けにくい。統計ではこの「影響を受けにくい」性質をロバスト(頑健)と表現します。
年収の分布は、ごく一部に非常に高い人がいて、多くの人が低めの側に集まる形になりがちです。だから平均年収は実感より高く出る。あなたの感覚のほうが、実はデータの真ん中に近いことは珍しくありません。
どちらを見ればいいかの目安
- データが左右対称で、極端な値が少ない → 平均値でおおむね実態がつかめる
- 分布が偏っていて、極端に大きい(小さい)値がある → 中央値のほうが実態を表す
- 年収・貯蓄額・不動産価格など、上限が青天井の数字 → まず中央値を探す
- 平均値だけしか載っていない → その数字は上振れしている可能性を前提に読む
同じ平均でも中身が違うのはなぜ?
もう一つ、平均値だけでは見えないものがあります。データの散らばり具合です。総務省統計局の解説では、平均が同じ5でありながら、値の散らばり方がまったく異なる3つのデータの例が示されています。全員が5点前後に固まっている集団と、0点と10点に割れている集団は、平均だけ見れば同じ顔をしてしまいます。
この散らばりを数字にしたものが分散と標準偏差です。分散は、各データと平均の差(偏差)を2乗して平均した値。ただしこれは2乗しているので元のデータと単位が合いません。そこで正の平方根をとって単位を揃えたものが標準偏差です。標準偏差が大きいほど、データは平均から遠くまで散らばっています。
偏差値は「集団の中の位置」を表している
この標準偏差を使って、集団の中での位置を示すのが偏差値です。学生時代におなじみの数字ですが、社会人になってから意味を聞かれると答えにくい人も多いはずです。総務省統計局が挙げている計算例を見てみます。
| 科目 | 平均点 | 標準偏差 | 本人の得点 | 偏差値 |
|---|---|---|---|---|
| 数学 | 42点 | 8点 | 58点 | 50 |
| 国語 | 47点 | 12点 | 65点 | 55 |
総務省統計局「なるほど統計学園」の公表データをもとに作成
上の表では、素点だけを見れば国語の65点が数学の58点より高得点です。ところが集団の中での位置を示す偏差値では、国語55に対して数学は50。数学は平均42点に対して16点上回っていますが、この試験は標準偏差が8点と散らばりが小さく、平均から離れた点を取ること自体が難しいテストだったわけです。
点数という素の数字だけでは、「どれくらいすごいのか」は判断できません。同じ数字でも、周りの散らばり方によって意味がまるごと変わります。偏差値70なら集団の上位およそ2.3%に相当します。
グラフのどこを最初に見ればいい?
数字が図になると、私たちは中身より「形の印象」を先に受け取ります。だからグラフでは、線や棒の形より先に縦軸の目盛りを見るのが習慣として役に立ちます。
よく知られた注意点として、縦軸が0から始まっていない棒グラフがあります。たとえば100から105への変化でも、縦軸を99から106の範囲で描けば棒の高さは何倍にも見えます。実際の変化は5%ですが、目には「急増」として届きます。これは不正というより、限られた範囲を拡大して見せているだけなのですが、読む側が軸を見ていないと印象だけが残ります。
- 縦軸は0から始まっているか。途中から始まっていないか
- 目盛りの間隔は均等か。途中で幅が変わっていないか
- 横軸の期間はどこからどこまでか。都合のいい範囲だけ切り出していないか
- 単位は何か。実数か、割合か、前年比か
とくに「前年比」の落とし穴は覚えておく価値があります。前年が極端に落ち込んだ年であれば、翌年の伸び率は自動的に大きくなります。伸び率だけを見て「絶好調」と読むと、実数ではまだ元の水準に戻っていない、ということが起こります。割合の数字を見たら、元の数(分母)がいくつなのかを探すのが基本です。
ニュースの数字を確かめる手順は?
ここまでの内容を、実際にニュースを見たときの動きに落とし込みます。慣れれば10秒程度で回せます。
- 平均か中央値かを確かめる「平均◯◯」と書いてあれば、上振れの可能性を前提に読みます。同じ調査に中央値が併記されていないか探します。
- 元の数(分母)を探す「2倍に増加」なら、2件が4件になったのか、2万件が4万件になったのかで意味がまったく違います。割合を見たら実数、実数を見たら全体の規模を確認します。
- いつ・誰を調べた数字かを見る調査時点と対象者は必ず添えられています。5年前の調査か、対象が特定の業種だけかで、自分に当てはめてよいかが変わります。
- グラフなら縦軸と期間を見る0から始まっているか、切り出した期間はどこからか。形の印象を受け取る前に軸を読みます。
- 出典元にあたる記事に出典が書いてあれば、その調査そのものを開きます。国の統計は公式サイトで公開されており、報道では省かれた注釈や中央値が載っていることがよくあります。
5番目が最も効きます。報道は数字の一部を切り出したものであり、元の調査には必ずもっと多くの情報が入っています。総務省統計局のように、統計の読み方そのものを平易に解説している公式サイトもあります。気になる数字に出会ったときに一次資料を開く癖は、ひとつの立派な学習習慣です。
学び方としての取り組みかた
統計の基礎は、腰を据えて学ぶより気になったニュースで実際に手を動かすほうが定着します。費用はかかりません。学生であれば授業で扱う範囲と重なるため復習を兼ねられますし、まとまった時間が取りにくい社会人なら、通勤中に気になった記事の出典を1本開くだけでも十分に練習になります。
目安として、週に1本のニュースについて上の5ステップを回す。これを1〜2か月続ければ、数字を見た瞬間に「これは平均か中央値か」と反射的に考えられるようになります。1回あたり5〜10分程度の作業です。
中央値は外れ値に強い一方で、分布の形や散らばりの情報を捨てています。年収の中央値が同じ2つの集団でも、片方は全員が近い水準、もう片方は低所得と高所得に二極化している、ということが起こります。中央値は「平均値の代わりに使う正解」ではなく、平均値と並べて見ることで初めて実態が浮かぶ数字です。また、平均値が悪者というわけでもありません。散らばりが小さく左右対称なデータでは、平均値のほうが集団の性質をよく表します。
覚えておく用語はこれだけ
- 平均値:合計をデータの個数で割った値。極端な値に引っ張られる
- 中央値:小さい順に並べた真ん中の値。極端な値に強い
- 標準偏差:平均からどれくらい散らばっているかを、元データと同じ単位で表した数字
- 偏差値:平均と標準偏差を使って、集団の中の位置を示した数字。50が平均
統計を使いこなす必要はありません。数字に振り回されないために要るのは、計算する力ではなく「この数字は何を表していないか」を問う習慣です。平均値が語らないのは真ん中の人の姿と散らばり、グラフが語らないのは軸の取り方。そこさえ疑えれば、ニュースの数字はぐっと扱いやすくなります。
よくある質問
平均値と中央値はどちらを見ればいいですか?
データに極端に大きい値や小さい値が含まれている場合は中央値を見ます。年収・貯蓄額・不動産価格のように一部に非常に高い値があるデータでは、平均値がその値に引っ張られて実感より高く出るためです。データが左右対称で外れ値が少ない場合は、平均値でも実態をおおむねつかめます。両方が載っていれば並べて見るのが最も確実です。
標準偏差とは何ですか?
標準偏差は、データが平均からどれくらい散らばっているかを表す数字です。各データと平均の差を2乗して平均した値が分散で、その正の平方根が標準偏差です。2乗を戻すことで元のデータと単位が揃うため、点数なら「点」、金額なら「円」と同じ単位で散らばりの大きさを比べられます。値が大きいほど、データは平均から遠くまでばらついています。
偏差値50はどういう意味ですか?
偏差値50は、その集団のちょうど平均点を取ったことを意味します。偏差値は平均点と標準偏差を使って集団の中での位置を示す数字で、平均点そのものを取ると50になります。総務省統計局の例では、平均42点・標準偏差8点のテストで58点を取った場合の偏差値が50と示されています。偏差値70はおよそ上位2.3%に相当します。
グラフを見るとき最初にどこを確認すればいいですか?
縦軸の目盛りを最初に確認します。縦軸が0から始まっていない棒グラフや折れ線グラフは、わずかな差を大きな変化に見せる効果があるためです。あわせて目盛りの間隔が均等か、横軸がどの期間を切り出しているか、単位が実数か割合かも確認します。この4点を見てから形の印象を受け取ると、誤読がかなり減ります。
※記事で使用した内容・数値は変更される場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。