生成AIの著作権とは?学習と利用で分かれる判断
画像出典: 写真: Agency for Cultural Affairs, Government of Japan(CC BY 4.0 / Wikimedia Commons)
生成AIの著作権は「学習させる段階」と「できた生成物を使う段階」で判断の枠組みが別々です。学習は著作権法30条の4により原則として許諾なく行えますが、生成物の利用は通常の著作権侵害と同じく「類似性」と「依拠性」の2要件で判断されます。だから実務で確認すべきは学習データの中身ではなく、出来上がった生成物が既存作品に似ていないか、その作品を自分が知っていたと言えるかです。
この不安の正体は、性質の違う2つの話が1つに混ざっていることにあります。「AIに他人の作品を学習させてよいのか」という話と、「できあがった生成物を自分が使ってよいのか」という話です。前者は法律上かなり広く認められている一方、後者は昔からある著作権侵害の判断とまったく同じルールで見られます。
正直なところ、この2つを分けずに考えているうちは、いくら情報を集めても不安は消えません。逆に言えば、分けて理解すれば、自分の手元でやるべき確認はかなりシンプルになります。
そもそも「学習段階」と「利用段階」はなぜ別なのか?
著作権の話でAIが特殊に見えるのは、1つの作品が2回登場するからです。1回目は、AIを作るときに大量のデータの一部として読み込まれる場面。2回目は、そのAIが出した生成物が、たまたま誰かの作品に似てしまう場面です。
日本の議論では、この2つの場面をはっきり分けて考えます。文化庁の文化審議会著作権分科会法制度小委員会は、2024年3月15日に「AIと著作権に関する考え方について」を公表し、開発・学習段階と生成・利用段階を分けた整理を示しました。ただしこの資料は、公表時点における小委員会としての一定の考え方を示すもので、法的な拘束力を持つものではないと明記されています。
学習でセーフだったからといって、生成物までセーフとは限らない。逆に、学習に問題があったAIを使ったからといって、あなたの生成物が自動的に侵害になるわけでもありません。判断のものさしが別だからです。
| 段階 | 何が問われるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 学習段階 | その利用が「享受を目的としない」ものか | 著作権法30条の4 |
| 生成・利用段階 | 既存作品との類似性と依拠性があるか | 通常の著作権侵害の判断枠組み |
学習段階はなぜ原則OKなのか?──著作権法30条の4
著作権法第30条の4は、著作物に表現された思想又は感情の「享受」を目的としない利用であれば、原則として著作権者の許諾なく著作物を利用できると定めています。享受とは、その作品を鑑賞したり味わったりして楽しむことだと考えるとイメージしやすいはずです。柔軟な権利制限規定と呼ばれる条文で、AI以前から存在します。
AIの学習は、ここに当てはまると整理されています。大量のテキストや画像を集め、そこから統計的な特徴──言語の出現確率、色や線のパターンなど──を抽出してモデルを作る行為は、作品を味わうための利用ではありません。だから原則として、権利者の許諾なく行い得るとされます。
例外があります。学習段階であっても、その著作物をそのまま出力させる目的、つまり享受目的が併存している場合には30条の4は適用されず、著作権侵害となり得るとされています。特定の作家の作品だけを集めて、その作風どころか作品そのものを吐き出させるために学習させる、といったケースがこれにあたります。
30条の4は目的次第で外れる条文です。「AI学習は法律で認められている」と一言で覚えてしまうと、享受目的が混ざったケースを見落とします。自分でモデルを作る側に回るなら、何のために集めたデータかを説明できる状態にしておくのが安全です。
生成物を使うとき、何を見られるのか?
ここからが、多くの人にとって本題です。AI生成物が既存の著作物の著作権を侵害するかどうかは、一般の著作権侵害とまったく同じ「類似性」と「依拠性」の2要件で判断されます。AIで作ったから特別に厳しい、あるいは特別に緩い、ということはありません。
類似性とは何か
できあがったものが、既存の著作物と表現として似ているかどうかです。アイデアや作風が共通しているだけでは足りず、表現そのものが重なっているかを見ます。人が手で描いた場合とまったく同じ見方です。
依拠性とは何か
依拠性とは、既存の著作物に依拠して、つまりそれをもとにして生成物が作られたかどうかです。実務上とくに争点になりやすいのがこちらだと言われています。まったく知らない作品にたまたま似てしまった場合と、元ネタを知ったうえで似せた場合とでは、扱いが変わるからです。
AIの場合、依拠性の判断では次の点が考慮要素になり得るとされています。
- AI利用者が、その既存の著作物を認識していたかどうか
- 使った生成AIが、学習段階でその著作物を学習していたかどうか
1つ目が重要です。あなたが元の作品を知っていて、それを念頭にプロンプトを書いたのなら、依拠していないとは言いにくくなります。実際、特定の作家名やキャラクター名をプロンプトに入れて既存作品に酷似したものを生成し、それを公開する行為は、依拠性が認められやすく侵害リスクが高いと考えられています。
仕事やSNSで使う前に、何を確認すればいいのか?
ここまでの構図がわかると、確認すべきことがはっきりします。学習データに何が使われたかを追いかける必要はありません。それはAI開発者側の論点であり、利用者が調べようもない領域です。見るべきは、目の前の生成物そのものです。
- プロンプトを見直す特定の作家名・キャラクター名・作品名を入れていないか確認します。入れていたなら、その時点で「認識していた」ことになり、依拠性の説明が苦しくなります。
- 生成物を既存作品と見比べる思い当たる作品があるなら、表現として重なっていないかを確かめます。画像なら構図やキャラクターの造形、文章なら特徴的な言い回しです。
- 思い当たらない場合は検索で確かめる画像検索やキーワード検索で、似たものが世に出ていないかを一度当たっておきます。知らずに似た場合でも、公開後に気づけないほうが困ります。
- 用途に応じて手を入れる社外に出す資料や広告に使うなら、似ている部分を自分で描き直す・書き直す。判断がつかないなら、その生成物は使わずに作り直すのが結局いちばん早い選択です。
公開範囲が広いほど、権利者の目に触れる可能性が上がるのは事実です。ただし、社内利用なら侵害にならないというルールがあるわけではありません。判断のものさしは同じで、変わるのは「見つかりやすさ」というリスクの大きさのほうだと理解しておくのが正確です。
立場ごとの具体策はどこを見ればいいのか?
もっと踏み込んだ実務の指針が必要なら、文化庁著作権課が2024年7月31日に公表した「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」があります。第1部「AI開発・提供・利用のチェックリスト」と、第2部「権利者のためのガイダンス」の2部構成です。
AI開発者・AI提供者・AI利用者(事業者/個人)・権利者といった立場ごとに、著作権リスクを低減するための具体的な取組が紹介されており、事実上のガイドラインと位置付けられています。自分がどの立場でAIに関わっているかを決めてから読むと、必要な部分だけを取り出せます。
ここまで紹介した考え方は、判断の枠組みを整理したものであって、個別のケースの結論を出すものではありません。文化庁の資料自体、法的拘束力を持たないと明記されています。業務で大きな金額や責任が動く用途なら、社内の法務や弁護士に具体的な生成物を見せて判断を仰ぐのが正しい進め方です。
結局、不安をどこまで下げられるのか?
すべてのリスクをゼロにすることはできません。ただ、自分がコントロールできる部分ははっきりしています。プロンプトに固有名詞を入れない。出力を自分の目で確かめる。似ていたら使わない。この3つを習慣にするだけで、依拠性が問題になる典型的なパターンのほとんどを避けられます。
学習段階は法律の枠組みの話で、利用者が背負う部分ではありません。あなたが責任を持つのは、あなたが世に出す1枚、1本のほうです。そこだけ見ればいいと分かれば、AIを使う手が止まらなくなります。
よくある質問
AIに他人の作品を学習させるのは著作権侵害になりますか?
著作権法第30条の4は、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用について、原則として著作権者の許諾なく著作物を利用できると定めています。AIが大量のデータから統計的な特徴を抽出して学習モデルを構築する行為は、原則として非享受目的の利用とみなされます。ただし、その著作物をそのまま出力させる享受目的が併存している場合には30条の4は適用されず、著作権侵害となり得ます。
AI生成物が著作権侵害かどうかは、何で判断されますか?
AI生成物が既存の著作物の著作権を侵害するかどうかは、一般の著作権侵害と同じく「類似性」と「依拠性」の2要件で判断されます。学習段階の判断枠組み(著作権法30条の4)とは別の基準です。類似性は表現として似ているかどうか、依拠性は既存の著作物をもとにして生成物が作られたかどうかを指します。
生成AIで作った画像をSNSに投稿する前に、何を確認すればいいですか?
確認すべきは学習データの中身ではなく、できあがった生成物が既存の著作物に似ていないか、その著作物を自分が知っていたと言えるかです。プロンプトに特定の作家名やキャラクター名を含めていないか、生成物が思い当たる既存作品と表現として重なっていないかを見ます。特定の作家名やキャラクター名をプロンプトに含めて既存作品に酷似したものを生成し公開する行為は、依拠性が認められやすく侵害リスクが高いと考えられています。
文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」には法的な拘束力がありますか?
ありません。この資料は文化審議会著作権分科会法制度小委員会が2024年3月15日に公表したもので、公表時点における小委員会としての一定の考え方を示すものであり、法的な拘束力を有するものではないと明記されています。より実務的な指針としては、文化庁著作権課が2024年7月31日に公表した「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」があります。
※記事で使用した内容・数値は変更される場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。