難しいお知らせをAIで読む、確認すべき3つの質問
画像出典: 写真: Edna Winti(CC BY 2.0 / Wikimedia Commons)
役所や学校のお知らせは、法令用語と行政特有の言い回しが重なって難解になっています。AIに要約させたあと「期限はいつか」「自分は何をするのか」「どんな条件のときだけか」の3点を質問で確認すると、読み飛ばしによる取りこぼしが減ります。ただし日付・金額・条文番号はAIが間違えやすい部分なので、原文の該当箇所を必ず目で確かめます。
役所や学校のお知らせが読み進まないのは、読む側の集中力の問題ではありません。文化審議会国語分科会の資料は、公用文が分かりにくくなる原因を、法令に関する専門用語・行政特有の言い回し・なじみのない外来語の多用にあると整理しています。つまり、書かれ方の側に理由があるということです。
実際、条例や規則の文には「みなす」「この限りでない」「及び」「並びに」といった、日常では使わない語が当たり前のように出てきます。これらは法令の世界では意味が厳密に決まっている一方、一般の読み手にとっては、どこが本題でどこが例外なのかを見失わせる原因になります。
だから、AIに「わかりやすくして」と頼むのは理にかなった使い方です。ただし要約を受け取って終わりにすると、肝心な一行を落とすことがあります。要約は入口で、そのあとの質問が本番です。
なぜ役所や学校の文章は読み飛ばしてしまうのか?
お知らせ文書の多くは、「全員に当てはまる話」と「一部の人にだけ当てはまる例外」が、同じ調子の文で並んで書かれています。読み手からすると、自分に関係のある一文がどこかが最後まで分かりません。関係あるかもしれないから全部読む必要があり、全部読むには重すぎる。この板挟みが、読み飛ばしの正体です。
加えて、行政文書は「誰が何をするか」の主語が省かれがちです。「申請書を提出するものとする」と書かれていても、提出するのが保護者なのか学校なのかは、前後の文脈から読み取るしかありません。読解の負荷が高いのは、情報量が多いからではなく、自分向けの情報を選り分ける作業を読み手に丸投げしているからです。
この問題は日本だけのものではありません。イギリスやアメリカでは1970年代から、公文書を平易な英語で書くことを求める「プレイン・イングリッシュ」の市民運動が起こり、現在は政府の公文書や民間のビジネス文書に広く普及しています。日本でも「やさしい日本語」として同じ方向の取り組みが進んでいて、出入国在留管理庁と文化庁は2020年8月に「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」(書き言葉編)を、2022年10月には話し言葉版を公表しました。
とはいえ、手元に届く一枚のプリントが明日から平易になるわけではありません。書き手側の改善を待つのではなく、読み手の側で解きほぐす道具として、AIが使えます。
AIに要約させるときの手順は?
やることは3ステップです。難しく考えず、この順番だけ守ってください。
- 原文を渡す紙なら写真を撮ってAIに読ませ、PDFやメールならテキストをそのまま貼り付けます。要点だけ抜き出して渡すと、抜き出す段階で誤読が起きるので、まるごと渡すのが安全です。
- 言い換えを頼む「小学生でもわかる言葉に言い換えてください。省略はせず、専門用語には短い説明を付けてください」と指示します。「短くして」ではなく「言い換えて」と言うのがコツです。
- 3つの質問で詰める要約を読んだあと、期限・自分の行動・条件の3点を質問します。ここが本題なので、次の章で詳しく扱います。
2の指示で「短くして」を避けるのには理由があります。AI要約には、原文の重要部分をそのまま抜き出す抽出型と、新しい言葉で言い換えて組み立て直す抽象型の2つの方式があります。役所の文章のように、原文の語そのものが難しい場合、抽出型では難しい語がそのまま残ってしまいます。読みやすくしたいなら抽象型、つまり「言い換え」を明示的に頼む必要があります。
もうひとつ、原文が長いときは事前にセクションで区切ってから渡すと精度が上がります。「入学案内」「提出書類」「費用」のように、もともと見出しが付いている文書なら、その単位で分けて要約させるほうが、全体を一度に投げるより取りこぼしが減ります。
氏名・住所・電話番号・マイナンバーなどは、AIに入れないのが原則です。お知らせ文書には差出人の連絡先や、自分の受給者番号・整理番号が印字されていることがよくあります。写真を撮る前にその部分を付箋で隠すか、貼り付けるときに「○○」に置き換えてください。要約に必要なのは制度の中身であって、あなたの識別番号ではありません。
どうしても内容ごと相談したい事情があるときは、主要なサービスが備える一時チャット(会話が30日後に自動削除され、モデルの学習に使われない機能)を選ぶという手もあります。ただしこれは保険であって、そもそも入れないほうが確実です。
要約のあとに聞くべき3つの質問とは?
要約だけを読んで安心してしまうと、「読み飛ばし」がAIの手を借りた形で再発します。要約は原文を短くしたものなので、短くする過程で落ちた一行が自分にとっての本題だった、ということが起こり得るからです。
そこで、要約を受け取ったら次の3つを必ず質問します。この3つは、お知らせ文書を読む目的そのものです。
- この文書に書かれている期限・日付をすべて、何の期限かとセットで挙げてください
- 私がこの文書を受けて実際にする作業を、順番に並べてください。何もしなくてよい場合はそう書いてください
- 一部の人にだけ当てはまる条件や例外を挙げてください。その条件に当てはまらない人には関係ない、と分かる形で書いてください
1つ目は取りこぼしが最も痛い項目です。締切を過ぎると取り返しがつかない一方、文中では他の文章と同じ調子でさらっと書かれています。「何の期限か」をセットで聞くのが要点で、提出期限・受付開始日・有効期間の終わりが混ざっている文書はよくあります。
2つ目は、行政文書が省きがちな主語を、AIに補わせる質問です。「何もしなくてよい場合はそう書いて」と付け加えておくと、無理に作業をひねり出す出力を防げます。読んだ結果「今回は何もしなくていい」と分かるのも、立派な成果です。
3つ目が、この読み方でいちばん効く質問です。お知らせが重く感じる原因の大半は、自分に関係のない例外条項を読まされていることにあります。条件を切り分けてもらえば、残るのは自分向けの数行だけになります。
3つの答えが揃ったら、最後に「この3つの答えの根拠になった部分を、原文からそのまま引用してください」と頼みます。引用が返ってきたら、原文のその箇所に目を落として突き合わせる。ここまでで読解は完了です。
AIの要約はどこで間違えるのか?
AIが事実と違う内容を、もっともらしい調子で出力してしまう現象をハルシネーションと呼びます。原因としては、学習データそのものの誤りや、指示文が曖昧なことが挙げられます。
厄介なのは、間違いが起きやすい場所に偏りがあることです。統計データ・人名・日付・条文といった細かいファクトほど誤りが起きやすいとされています。お知らせ文書に置き換えると、これはそのまま「日付」「金額」「条文番号」「窓口の名前」です。要約の中でいちばん大事な部分と、いちばん間違いやすい部分が重なっている、ということになります。
逆に言えば、確認すべき箇所ははっきりしています。文章全体を読み直す必要はなく、AIが出した日付・金額・番号だけを原文で探して照合すればいい。前章の最後に引用を頼むのは、この照合を数十秒で終わらせるためです。
期限を1日過ぎると権利がなくなるような手続き、金額の大小が生活に直結する通知、そして不服申し立ての案内は、AIの要約を判断材料にしないでください。この種の文書は、内容が理解できないことよりも、理解を1つ間違えることのほうが損失が大きい構造になっています。要約は「何が書かれた文書か」を掴むところまでにとどめ、実際の判断は文書に記載された問い合わせ先に電話して確かめるのが確実です。窓口に聞くこと自体が想定された運用になっており、聞いて困る相手はいません。
もうひとつ、原文の記載が本当に曖昧なとき、AIはその曖昧さを残さず、どちらかに決めた形で書いてしまうことがあります。「読んでも判断がつかなかった」という結論をAIから受け取ることは、まずありません。要約がやけにすっきりしていると感じたら、原文を見に行く合図です。
この読み方を習慣にするには?
いちばん続くのは、届いた日にその場で通す運用です。プリントを開いて「あとで読む」と思った瞬間に写真を撮り、要約と3つの質問まで済ませてしまう。ここまで5分もかかりません。
質問の文面は毎回同じでよいので、スマホのメモ帳に3つの質問を貼っておき、コピーして使ってください。毎回考え直すと、その手間が理由で続かなくなります。
そして、読み終えたら結果を1行に落とします。「6月19日までに同封の用紙を担任へ提出。他は該当なし」——これだけをカレンダーか家族の共有メモに書けば、原文はもう開かなくて済みます。難しい文章を読む目的は、理解することではなく、次にやることを1行にすることです。AIは、その1行にたどり着くまでの距離を短くする道具として使うのがいちばん効きます。
最初の1枚は、いま手元にある一番読む気がしない書類で試してみてください。うまく解けたときの手応えが、次の1枚のハードルを下げてくれます。
よくある質問
AIに要約させれば原文は読まなくてよいですか?
全文を読み直す必要はありませんが、AIが出した日付・金額・条文番号・窓口名は原文で照合してください。AIは細かいファクトほど誤りやすいため、要約に「根拠になった部分を原文から引用して」と追加で頼み、その箇所だけ目で確かめるのが効率的です。
役所の文章がわかりにくいのはなぜですか?
文化審議会国語分科会の資料では、公用文が分かりにくくなる原因として、法令に関する専門用語、行政特有の言い回し、なじみのない外来語の多用が挙げられています。加えて「誰が何をするか」の主語が省かれやすく、全員向けの内容と一部の人だけの例外が同じ調子で並ぶため、自分に関係のある部分を選り分ける負担が読み手にかかります。
AIに要約を頼むとき、個人情報はどう扱えばよいですか?
氏名・住所・電話番号・マイナンバーなどはAIに入力しないのが原則です。お知らせ文書には受給者番号や整理番号が印字されていることがあるため、写真を撮る前に隠すか、テキストを貼る際に伏せ字へ置き換えてください。要約に必要なのは制度の内容であり、個人を特定する情報ではありません。
「短くして」と「わかりやすく言い換えて」で結果は変わりますか?
変わります。AI要約には原文の重要部分をそのまま抜き出す抽出型と、新しい言葉で言い換えて再構成する抽象型があり、「短くして」では抽出型に寄って難しい語がそのまま残ることがあります。読みやすくしたい場合は「省略せず、小学生でもわかる言葉に言い換えて」と、言い換えを明示して指示してください。
※記事で使用した内容・数値は変更される場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。