高齢の親のAI活用、音声から始めて詐欺はどう防ぐ?
画像出典: ぱくたそ(© すしぱく)
高齢の家族がAIを使い始めるなら、文字入力を飛ばして音声アシスタントから入るのが現実的です。iPhoneなら「Hey Siri」、Androidなら「OK Google」を家族が事前に有効化しておけば、本人は話しかけるだけで済みます。同時に、AIは数秒の音声から声を再現できるため、電話で急にお金の話が出たら一度切って別の手段で本人確認する、というルールを家族内で先に決めておくのが安全です。
離れて暮らす親のデジタル事情は、便利にしてあげたい気持ちと、危ない目に遭わせたくない気持ちが同時に来ます。この2つは別々の問題に見えて、実は入口が同じです。「本人が操作を覚える」前提をやめて、「家族が下ごしらえをして、本人は声だけ使う」形にすると、導入も安全対策も一気に現実的になります。
まず数字から見てみます。高齢の家族はネットを使えない、と決めつけている人が多いのですが、実態は少し違います。
高齢の家族はどのくらいネットを使っているのか?
総務省の令和7年通信利用動向調査(2025年8月実施・2026年5月29日公表)によると、65歳以上のインターネット利用率は62.9%です。年代別に見ると差がはっきり出ます。
| 65歳以上(全体) | 62.9% |
|---|---|
| 70〜79歳 | 71.9% |
| 80歳以上 | 37.1% |
総務省 令和7年通信利用動向調査の公表データをもとに作成
前年の同じ調査(令和6年)では65歳以上が60.8%、70〜79歳が69.8%、80歳以上が33.1%でした。どの層も上がっています。つまり「使えない」のではなく「使い始めている途中」です。全年齢平均の90.5%(令和6年調査)と比べればまだ開きはありますが、70代なら7割が既にネットに触れている前提で話を進めて構いません。
ここで大事なのは、ネットを使えている人でも詰まる場所はだいたい同じだということです。ページを開いて読むことはできる。でも、検索窓に自分の困りごとを打ち込むのがつらい。この一点が壁になっています。
なぜ高齢の家族には「音声」が向いているのか?
スマホで検索するとき、私たちは無意識に3つの作業を同時にやっています。① 困りごとを短いキーワードに変換する、② それをフリック入力で打つ、③ 出てきた10件から正しそうなものを選ぶ。
この3つはどれも慣れの産物です。指の動きが遅くなり、老眼で画面の文字が追いにくくなると、①〜③のすべてが同時に重くなります。「面倒だからやめた」と言われるとき、やる気の問題ではなく、この3工程の合計コストが高すぎるだけです。
音声で話しかける形にすると、①のキーワード変換と②の入力が丸ごと消えます。「洗濯機のエラーが出て動かないんだけど」と普段の言葉でそのまま言えばよく、短い単語に翻訳する必要がありません。さらにAIが答えを1つ読み上げてくれるなら、③の「10件から選ぶ」も要らなくなります。
実際、スマートスピーカーは話しかけるだけで操作できるため、スマホやリモコンの操作が苦手な高齢者に向くとされ、家族が勧めて導入したあと本人が使いこなせている事例が報告されています(ダイヤモンド・オンライン)。長野県大鹿村のように、スマートスピーカーで離れて暮らす家族や福祉・医療関係者と双方向にやりとりする高齢者見守り事業へ補助を出している自治体もあります。
専用の機械を買わなくても、今持っているスマホでほぼ同じことができます。
親のスマホを音声で使えるようにする手順は?
ここは本人にやってもらうところではありません。帰省したときや、スマホを一時的に預かれるタイミングで、家族が設定を済ませてしまうのが前提です。
- 呼びかけで起動できるようにするiPhoneなら設定またはコントロールセンターから「Hey Siri」を有効にします。Androidは「設定」→「Google」→「検索、アシスタントと音声」からGoogleアシスタントを有効にすると、「OK Google」で起動します。ホームボタンや画面の操作を挟まず、声だけで呼び出せる状態がゴールです。
- その場で3回、本人に声を出してもらう設定した本人が黙って見ているだけだと、翌日には忘れます。「OK Google、今日の天気は?」を目の前で言ってもらい、機械が答える瞬間を体験してもらってください。ここが最大の関門で、成功体験が1回あるかどうかで定着率が変わります。
- 使う場面を2つだけ決める「なんでも聞ける」は使い道が思いつかず結局使われません。天気とタイマー、薬の時間のアラーム、家族への電話発信など、その人の生活に実在する用事を2つに絞って渡します。増やすのは慣れてからで十分です。
- 紙に1枚だけ書いて電話の横に置く呼びかけの言葉(「OK Google」など)と、決めた2つの用事の言い方を、大きな字で1枚に。スマホの中のメモではなく紙です。困ったときにスマホを開けないから困っている、という順番だからです。
耳が遠くなっている場合、読み上げの音声が聞き取りにくく音声操作は逆にストレスになります。また、方言や声の大きさによって認識精度が落ちることもあります。3回試して1回も通じないようなら、無理に音声へ寄せず、家族が代わりに調べて電話で伝える形のほうが結果的に喜ばれます。AIを使わせること自体は目的ではありません。
AIを悪用した詐欺は、何が新しいのか?
便利さと一緒に渡しておきたいのが、この話です。ただし「AIは危険だから気をつけて」という漠然とした注意では、聞いた側は何をすればいいかわかりません。手口のしくみを一言で共有するほうが、はるかに効きます。
米国の連邦取引委員会(FTC)は、AIの音声クローン技術——3〜10秒程度の音声サンプルから、その人の声を再現する技術——が、家族を装った緊急の送金要求に悪用されていると注意喚起しています。日本の公式発表ではありませんが、技術そのものに国境はありません。
従来の「オレオレ詐欺」は、声が違うことが最後の砦でした。息子の声に聞こえない、という違和感が受話器の向こうで働いていたわけです。音声クローンが崩したのは、まさにその「声で本人を確かめる」という前提のほうです。つまり、声が本人そっくりであることは、もはや本人である証拠になりません。
土台となる被害はもともと深刻です。2025年の特殊詐欺は認知件数27,758件、被害額1,414.2億円と過去最悪の水準にあり、およそ8割が電話をきっかけに発生しています(セコムが警察庁統計を引用)。
なお、AI音声や生成AIを名指しした個別の注意喚起は、警察庁の特殊詐欺対策ページでは確認できていません。ここで挙げているのは一般に指摘されている手口であり、国内の公式見解として断定できるものではない点は正直にお伝えしておきます。
親にはどう伝えれば守れるのか?
伝え方のコツは、判断させないことです。「怪しかったら気をつけて」は、怪しく感じさせないのが詐欺の仕事である以上、機能しません。怪しいかどうかを判断せずに済む、機械的な手順を1つだけ渡します。
- 電話でお金の話が出たら、内容にかかわらず一度切る。切るのが失礼にあたる相手はいない、と先に合意しておく
- 切ったあと、こちらから知っている番号にかけ直す。かかってきた番号にはかけ直さない
- 家族内で合言葉を1つ決めておく。ペットの名前など、本人しか知らないが本人はすぐ思い出せるもの
「一度切って別の手段で本人確認する」はFTCが呼びかけている対策と同じで、複数の解説記事でも共通して挙げられています。声が本物そっくりでも、かけ直す先が本物かどうかは声に左右されません。そこが唯一、技術が崩せていない部分だからです。
合言葉を決めるときは、電話口で慌てて思い出せる言葉にしてください。生年月日や住所のように、どこかから漏れている可能性のある情報は避けます。
設定と防犯の話をセットにできるのが、この進め方のいちばんの利点です。「便利なものを教えに来た」流れの中でなら、詐欺の話も説教くさくなりません。急ぐ必要はなく、次に顔を合わせるときで十分です。
ちなみに、AIが自信満々に間違った答えを返す性質そのものについては、別の記事でしくみから解説しています。親に渡す前に、答えを鵜呑みにしない目を自分が持っておくと安心です。
よくある質問
高齢者のインターネット利用率はどのくらいですか?
総務省の令和7年通信利用動向調査(2025年8月実施・2026年5月29日公表)では、65歳以上のインターネット利用率は62.9%です。70〜79歳は71.9%、80歳以上は37.1%と年代で大きな差があります。前年調査(65歳以上60.8%)より上昇しており、利用は広がる傾向にあります。
スマホの音声アシスタントはどう有効にしますか?
iPhoneは設定またはコントロールセンターから「Hey Siri」を有効にすると、呼びかけで起動できます。Androidは「設定」→「Google」→「検索、アシスタントと音声」からGoogleアシスタントを有効にすると「OK Google」で起動します。高齢の家族に渡す場合は、本人ではなく家族が事前に設定を済ませておくと導入がスムーズです。
AIの音声クローンによる詐欺とはどんな手口ですか?
米国の連邦取引委員会(FTC)は、3〜10秒程度の音声サンプルから声を再現するAI音声クローン技術が、家族を装った緊急の送金要求に悪用されていると注意喚起しています。声が本人そっくりでも本人である証拠にはならないため、電話を一度切って別の手段で本人確認することが対策として挙げられています。日本の公的機関による生成AIを名指しした注意喚起は確認されていません。
電話詐欺から高齢の家族を守るために家族ができることは何ですか?
お金の話が出たら内容にかかわらず一度電話を切る、こちらが知っている番号にかけ直す、家族だけがわかる合言葉を事前に決めておく、の3つを先に取り決めておく方法が一般に挙げられています。2025年の特殊詐欺は認知件数27,758件・被害額1,414.2億円で、およそ8割が電話をきっかけに発生しているため、電話での手順を決めておくことが有効とされています。
※記事で使用した内容・数値は変更される場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。